【小野寺ずるの女の平和 WEB】第7回 報道カメラマン:松田優
役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。
報道カメラマン 松田優
彼女が取材したストリップ業界の衰退と踊り子たちの胸中を伝える記事
ネットで偶然見つけたその記事は写真の生々しい重さが記憶に残る
まるでカメラマンがいないかのような表情をしている被写体からは
彼女たちが生きている時間の感触が伝わってくるようであった
知り合いづたいで連絡先を入手し、初対面
ごつい指輪をはめた彼女はケーキを前に唸りながら正直な言葉を紡いでくれた
写真と共に”彼女の芯”を報じます
(※2021年7月取材/撮影)
彼女の姿勢
松田 (店内をぼんやり眺めながら)こういう純喫茶めっちゃ好きです
ずる ああ、良かった。・・・松田さんが取材した西日本豪雨(2018年)の呉市の被災者の方の記事、素晴らしかったです。
松田 ありがとうございます。
ずる あの家ってお父さんと娘さんの二人しかいないじゃないですか。知らない人が家に来て、さらに寝たきりの自分のお父さんを撮影されるって嫌な人はすごく嫌だと思うんです。でもすごく自然な写真で・・・松田さんだから撮れたのかなって。決して明るい内容ではないけど、読んだ人が自分の家族に電話したくなるようなすごい記事だと感じました。
松田 あの記事、5紙位に使ってもらえたんです。それで介護していた娘の黒川さんに新聞を渡したら「大切にします」って言ってもらえて。その後お父さん亡くなっちゃったんですけど、家族葬にも呼んでもらえました。私の撮った写真を遺影にもしてくれてて・・・取材者と取材先って関係だけど、人対人の関係性を大事にしたいです。また会いたいな、また関わりたいなって思われる人でありたいっていうのはずっと取材してる時のテーマにあります。メディアに対する考え方ってマスコミが嫌い、とか人によって分かれるじゃないですか。だから皆が皆に良い思いをさせるのは無理だと思うんです。でもその中で少なくとも自分が関わった人にはなるべく優しい気持ちで接したいというか、なんて言ったらいいんだろう、うーん。
ずる そういう気持ちが伝わったから黒川さんもああいう自然な姿を見せてくれたのかもしれないですね、家族葬にも呼ばれるってすごいですよ。
松田 親戚の方も「誰?」みたいな感じで(笑)。あ、ども。みたいな(笑)
ずる 取材記事って取材する人のフィルターがどうしてもかかるじゃないですか。こういう記事にしたいからこっちに導こうとか。誘導尋問じゃないですけど、取材する人によって記事って本当に変わりますよね。
松田 変わりますね。確かに決めつけて質問した方が早く終わるじゃないですけど、欲しい鉤括弧を引き出そうと思えば誘導尋問できちゃいますよね。私はあんまりそういうことはやりたくなくて。もっと時間をかけて会話の中のタイミングで聞きたいことを聞き出せたらなって。私は普段写真を撮ることがメインで文章を書くのはたまにだから時間かけてできてるけど・・・人によってやり方は全然違いますよね。
自分の心の内=恥ずかしい?
ずる 元々何でこの仕事についたんですか?
松田 大学が映画学科で私がいた科は映像コースっていう、撮って編集もしてナレーションとかも全部やるコースでした。ドキュメンタリーが好きだからドキュメンタリーを専攻してて。映画って音声さんがいて役者がいて監督がいて皆で作るじゃないですか。あれがダメだったんです。
ずる 集団が無理なの?
松田 (笑)自分が監督だとしてこれだけの人数仕切るのも無理だし、自分の脚本を誰かに読まれるのも恥ずかしい。映画作品ってなるとその監督が日頃思ってることが出るじゃないですか。自分の心の内が誰かに見られるのが恥ずかしくて無理だなと。せめてドキュメンタリーでって思ってやってたんですけど、4年学んで自分の才能っていうのがわかってしまったんです。初めからすごい人はすごいんですよ。自分がどのくらいの才能があってどのくらいの立ち位置かってわかるじゃないですか。自分は映像で食べていけないって思いました。で、一眼カメラ持ってたから写真を新しく始めてみたんです。自分も他に強みが欲しいと思って写真のアルバイトも始めて。それで就職活動の年になって、まだドキュメンタリーに興味があったから、写真でドキュメンタリー、報道だなって思ったんです。あとスポーツをやっていたから、オリンピック撮るのも夢だったので報道かなって。
ずる すごいじゃないですか。今年五輪撮るんですよね、夢叶うじゃないですか。
松田 でも複雑ですよね。コロナとかない状況で撮ってたら夢叶ったってなったかもしれないけど、色んなことがあったから。テレビも五輪10日前なのに雰囲気が今までと全然違う。手放しで楽しみとは言えないです。
ずる でも腕の見せ所じゃないですか?複雑な状況でどう見せるか。コロナだし、五輪やめろって人いっぱいの中の無観客開催で、そんな状況でここから報道の人がどう報道するのか・・・。
松田 ・・・。
ずる ・・・松田さん初対面ですけど、自分の心の内を知られるのが恥ずかしいってなんか、良いですね
松田 うまく話せないです、恥ずかしい。
ずる 恥ずかしいが欠落してないって素晴らしいですよ。お芝居やったり描いたりしてると見せてなんぼって方に流されていっちゃっう。きっと心って乳首見られたら恥かしいくらい中の物で、みんな恥ずかしいはずで、それが欠落していっちゃうと作るものが、他の人が見た時に遠くなっちゃう気がしてて・・・だから、見習わなきゃ。自分じゃない対象を書くことには恥ずかしさはないの?
松田 それは大丈夫ですね。・・・なんか、普段聞く側なのに、聞かれる側だから答えてるの変な感じ。
ずる 自分で言うのもあれですけど、今回いい経験じゃない?そうじゃない?
松田 (店員さんが砂糖の壺を下げにきて話が切れる)え?
ずる ・・・いいや・・・誘導尋問になるから・・・。
「松田ちゃんの記事は大切な物だから」
ずる 夢とかこれがしたいとかあるんですか?
松田 聞かれると思ったんですよ・・・。
ずる 嫌な顔しないでよ!大丈夫、みんな聞いても大体夢ないよ。
松田 何ですかねえ。五輪撮りたかったけど・・・何ですかねえ・・・夢ねぇ・・・「松田の撮る写真て良いよね、こういう写真撮れるカメラマンだよね」って言われる人になりたい。今はまだ報道カメラマンの何千分の1だけど、なんて言ったらいいんだろう。
ずる 夢は”松田フォトを確立する”ってことかな?
松田 (笑)自分にしか撮れない写真とかできない取材ができるようになりたいです。
ずる 松田さんの写真には生っぽい重さがあってかっこいいです。基本は報道カメラマンですよね?これから文章や取材記事も増やしていきたいとかあるんですか?
松田 文章も定期的に書いていきたいですね。自分の取材したいもの、興味があるものを今後も取り上げていきたいなって。
ずる 今の興味はなんですか?
松田 ストリップはずっと追いかけていきたいです。偏見や先入観があるものを世間のイメージを覆すまでは無理でも「意外とそうなのね」って思わせたいというか。好きな物は好きなので。
ずる 広島のストリップ劇場閉館の記事も素晴らしかったですね。写真の踊り子さんの姿に涙が出ました。この仕事をやってて良かったって思う時はどんな時ですか?
松田 書いた記事や写真が沢山の人の目に触れたり、評価されることはやっぱり嬉しい。あとは自分の取材が相手にとって思い出深かったり、大切な何かになってるってわかった時ですね。(西日本豪雨記事の)黒川さんも私が取材したことを大切な思い出にしてくれてたりして。
この間のストリップの記事だと、踊り子のゆきなちゃんが広島の劇場の最後の週も出演してたんですけど、一番最後の演目どうするんですか?って訊いたら「黄色い衣装のアレにします」って言ってて、何でですか?って訊いたら「松田ちゃんが記事にした時にやった演目だから。松田ちゃんの記事は大切な物だから」って言ってくれて。え!って驚いて・・・。自分の記事や取材が相手にとって少しでも大切な何かになってるって知った時にこの仕事しててよかったなって思いますね。
ずる この記事もそうなると良いのだけど・・・。
松田 (笑)
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松田優の平和
今日みたいに
休みの日にお気に入りの喫茶店で「この後何の映画観ようかな」って悩めること
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松田優(写真右)
○まつだゆう○1995年東京都生まれ。一般社団法人共同通信社写真映像記者。
神戸支局、東京本社を経て、2018年冬から大阪支社でカメラマンとしてスポーツや事件・事故を中心に取材。
【写真展】松田優写真展「その夜の踊り子」
2023/2/21〜3/4※23.26.27休館(10.30〜18.30)◎キヤノンギャラリー銀座、
2023/10/3〜10/14◎キヤノンギャラリー大阪
小野寺ずる(写真左)
◯おのでらずる◯89年気仙沼生まれのお役者、糞詩人、ド腐れ漫画家、脚本・演出。ZURULABO所長。
【舞台】ZURULABO 短編舞台『ワルツ』(脚本・演出)2023/2/22〜26◎本多劇場 (15 Minutes Made in本多 参加作品)
【漫画連載中】日刊SPA! 『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国』
Twitter@zuruart
構成・文・松田優撮影◇小野寺ずる 取材写真撮影/提供◇松田優
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