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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第140回「代役」

なんとなく暖かかったこの冬ですが、一月後半に入って一気に寒くなってきました。皆様体調はいかがでしょうか。大雪で大変になっている地方の方も多かろうと思われます。どうぞお気を付けてお過ごし下さいませ。

私は現在劇団☆新感線の「ミナト町純情オセロ」の稽古中です。シェイクスピアの「オセロー」を戦後間もない関西のミナト町に翻案したものでして、全篇関西弁で演じられます。関西ネイティブではないゲストの皆さんは大変かと思われますが、劇団員の多くが関西人ですのでバックアップしながら稽古を進めておりますよ。

さて、今日ご紹介したい用語は「代役(だいやく)」です。専門用語でありながら一般的にも有名だし日常会話でも使われていますね。「都合で会議に出られないから代役で出てよ」とか「今日のプレゼン、行けなくなったから代役やっといて」とか「今日のデート、行けなくなったからボクの友達が代役で行きます」とか、まあそんなことがあるかどうか判りませんが、まあ普通に使われる言葉ですよね。ですが、おそらくは演劇や映画の世界が発祥の用語だと思われます。

代役というのは要するに「なんらかの事情によって出演する事ができなくなった俳優の代わりに別の人が演じる」というコトです。そうそう頻繁にあることではありませんが、まあ場合によってはあり得る状況です。
劇団☆新感線でも過去に何度も代役を立てる事態を迎えてきました。不意の事故、突然の病気など、それはそれはもう色んな理由で公演が停止してしまっても代役を立ててなんとか続行してきました。中には「ゲストの主役が逮捕された」というにわかには信じられない理由の時もありましたけどね。
代役を立てる場合には様々な手間が掛かります。まずは代わりに演じて頂く俳優を探してスケジュールを抑えなくてはなりませんし、もちろん稽古もやり直さなくてはなりません。また、衣裳やカツラも代役さんに合わせてサイズを調整しなくてはならないのも当然の流れです。
それだけ大変な手間をかけてでも上演を続行することは大事なのです。代役さんだけでなく、全スタッフ・キャストが力を合わせて難局を乗り越えていくワケです。

また、何らかの理由で代役を必要とする可能性がある場合、予めその代わりを務められるように稽古の段階から参加している俳優のことを「アンダースタディ」と呼びます。稽古場だけの代役の場合もありますが、いざとなれば本番にも出演できるようにするために、若くとも実力のある俳優さんがアンダースタディに配されることもあります。
さらに、ミュージカルなどでは不測に事態に備えてほぼ全員の段取りとセリフを覚えている「スウィング」と呼ばれる俳優を準備することもあります。いずれの場合も本番を遅滞なく進行させるための、転ばぬ先の杖的な方策なのです。

まあ、それほど大変な代役でなくとも、稽古場だけで簡易的な代役が用意される場合もあります。例えば俳優が急に体調不良になったとか、仕事のスケジュールの都合で稽古に参加できない時などに、そのシーンに出番のない俳優が代役に立つ場合もあります。つまり稽古場限定の一時的な代役というワケです。
代役に立つ俳優は台本を持ったまま稽古に参加し、セリフを言いながら段取りを覚えていきます。そして実際の俳優が来た時にその段取りを伝達します。セリフの変更があればそれも伝えます。
代役というのはちょっと大変な作業ではありますが、意外とそれなりにメリットもあるのですよ。違う役を演じることは経験になりますし、別の役柄として参加することで作品に対して新たな視点が開けたりもするのです。作品を別の角度から見るコトができるワケですからね。
特に若い俳優が重要な役柄の代役をすると大切な経験ができます。私も若い頃、別の劇団やプロデュース公演に参加した時に様々な稽古代役をさせて頂きました。普段はやらないような役柄で、普段は言わないようなセリフを言ったり新たなトライができたりするので、おおいに勉強になりました。
稽古場代役ってのは大変だけど、その分貴重な経験になるし楽しいんですよって話でした。

さて、様々な稽古をしながら徐々に形ができつつある「ミナト町純情オセロ」はどのような作品になるのでしょうか。どうぞ劇場でお確かめ下さい。3月が東京、4月が大阪ですよ!

本文とは関係ありませんが、国立競技場前で見つけた黄金に輝くポスト。金ぴかでした。

粟根まこと

【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

【粟根まこと出演予定】

2023年劇団☆新感線43周年・春公演
『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』
3/10~18◎東京建物 Brillia HALL
4/13~5/1◎COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ2月号」は全国書店にて発売中!

 

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