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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第96回「バウンダリーマイク」

新宿・紀伊國屋ホールにて上演しておりました「+GOLDFISH」も無事に終わり、その後すぐに「けむりの軍団」の稽古に入っている粟根です。大劇場から中劇場、小劇場まで、様々なサイズの劇場で演劇ができるのは嬉しいですね。それぞれの良さがあり、それぞれの楽しさがあります。同じ舞台演劇とはいえ、多少は手法を変えなくてはならなかったりもするのも難しく楽しいところです。

その一例として、マイク問題を取り上げましょう。一般に、小劇場公演ではワイヤレスピンマイクを付けません。もちろん歌が多いなどの場合は付けることもありますが、それも少数派です。いわゆる生声(なまごえ)の方が多いのです。特にキャパシティが200人くらいまでの劇場では。
これが300人を越えるくらいからちょっと難しくなってきます。客席前方のお客様と後方のお客様とで聞こえ方が変わってきてしまうのですね。微妙なニュアンスが伝わりにくくなってくるのです。そういう場合には、舞台の前面に床置きのマイクを置いて、僅かにフォローする場合があります。その時に使われるのが「バウンダリーマイク」というものでして、これが今回ご紹介したい専門用語です。

テレビのニュースバラエティ番組などで、コメンテーターの方々が使うテーブルに丸形や多角形の平たく黒い物体があるのを見たコトがある方も多いのではないでしょうか。何かのボタンのようにも見えるアレ。あれがバウンダリーマイクです。
通常のマイクよりも指向性が広く、前方の音を幅広く拾ってくれるのです。もちろん、コメンテーターの方々にはそれぞれピンマイクが付いているのですが、バウンダリーマイクは全体的にムラなく音を拾ってくれるので、横を向いて喋った場合などでも音を拾いやすいのです。

で、この広い指向性が便利なので、舞台演劇の場合でも使われるコトが多いのです。平たくて目立ちにくく邪魔にならないのも便利。かまぼこの板くらいのバウンダリーマイクを舞台ツラに数個置いておけば、かなりのエリアをフォローできます。なお、裏技ですが、俳優としてはこのバウンダリーマイクを目安にして立ち位置を確認したりもしますよ。
舞台ツラだけではありません。舞台の奥側に向かって喋る場合も多いので、舞台後方にもセットに紛れて設置したりもします。「+GOLDFISH」の場合には、舞台後方の階段部分や水槽の中にも仕込んでありました。こうすることによって、全体をバランス良くフォローすることができるのです。

最近は10代や20代の若い俳優さんと共演することも多いのですが、そんな中には舞台デビューから大劇場しか経験したことがない方もいらして、ワイヤレスピンマイクなしで舞台に立ったことがないという人もいるのです。別にそれは悪いことではないのですが、小劇場での声の出し方に慣れていないと困ることも多い。そんな時にもバウンダリーマイクは有効なのです。

もちろん新感線でもバウンダリーマイクにはお世話になっているのですが、最近では大劇場での公演が多いため、指向性が高く、遠くまで音を拾えるガンマイクを舞台前面から奥に向かって設置することも多いそうです。セリフのあるキャストにはワイヤレスマイクが付いているのですが、ガヤの声を拾ったり、マイクトラブルで誰かの声が拾えなくなった時に対処するためです。
このように、音響スタッフさんの努力によって舞台は遅滞なく進行しているのですが、ここで思い返すのが昔の新感線です。小劇場時代だけではなく、中劇場に進出した頃にも個別のワイヤレスマイクは用意されておらず、ガンガンとヘビメタが大音量で流れる中、ひたすら声を張り上げていた時代がありました。当然ながら声は擦れ、ガサガサになりながらもただただひたすらに大声で喋る。そんな時代に比べれば今は有り難い限りなのですが、当時のクセでいまだに声を張り上げてしまうんですね。そして声を枯らす。全くもって面目ない次第でありますが、やっぱり大声って面白いんですよね。今回もノドに気をつけながら頑張っていきましょう。

本文とは関係ありませんが、先日新宿で見かけた名探偵ピカチュウの大群。いくらなんでも多すぎでしょう。

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

【出演情報】
2019年 劇団☆新感線 39興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』
作◇倉持 裕
演出◇いのうえひでのり
出演◇古田新太/早乙女太一 清野菜名 須賀健太 高田聖子 粟根まこと/池田成志 ほか
7/15~8/24◎TBS赤坂ACTシアター、9/6~23◎博多座、10/8~21◎フェスティバルホール(大阪)

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