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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第146回「手話のセリフ」

終わりました! 無事に終わりました! NAPPOS PRODUCE「嵐になるまで待って」が無事に終わりましたよ!
今回演じた広瀬教授は語り部役でもありましたので、出番もセリフもそこそこ多くて大変でした。いや、楽しい役だったのではありますが大変でもありました。

まあ、出番やセリフが多いというのママあるモノですから特別な苦労はありませんが、今回苦労したのは「手話のセリフ」です。今作では「声」がテーマになっており、出演者の中に「ろう者」である雪絵というキャラクターが登場します。ろう者でありますので、声も音も聞こえず、セリフは手話のみでした。
登場人物で手話ができるのは雪絵さんとその弟の波多野、そして広瀬教授だけ。基本的に雪絵さんの手話は翻訳されませんが、雪絵さんと広瀬教授を含めた数人で話し合いをするシーンでは会話を共有する必要があるため(もちろん観客のためでもあります)、自分も手話をしながらセリフを言うし、雪絵さんの手話も声に出して読みます。
この「手話とセリフを同時に発したり受け取ったりする」のが意外と難しいのですよ。

手話というのは世界共通ではないし、日本国内でもいくつかの系統があるそうですが、それぞれは文法の確立した一つの言語です。手や指の形や動きに加えて、顔の表情や身体の動きも合わせて表現する言葉なのです。
ですから、要するに日本語や英語などの言語と同じでして、独自の単語や文法があります。つまり、手話ネイティブではない者にとっては外国語のようなモノでして、様々な単語や文法を覚えていく必要があります。
つまり、手話を読み取って日本語として発するというコトは外国語を同時通訳している
ようなものなのです。これがね、慣れるまで大変でした。

手話の語順は独特でして、「私は 行きました 車で」のようになる場合があります。ちょっと英語の語順に近いですかね。ですから読み取る時には逐語訳ができません。文の塊ごとに理解していかないといけないのです。
もちろん今回は演劇ですから手話の内容もセリフとして書かれています。雪絵さんも台本のセリフの通りに手話をしています。ただ、セリフを手話に翻訳する段階で言い回しのニュアンスは変わってきますし、その手話を日本語に翻訳する段階でも変化してしまいます。
その場合はもちろん台本のセリフの通りに翻訳すれば良いのですが、あまりに意訳が過ぎる場合にはセリフを変更させて頂きました。
つまり、手話に合わせて台本の原文通りに喋るのではなく、できる限り手話を読み取って翻訳するという手法にさせて頂きました。いや、なるべく台本に合わせてはいますし、台本のセリフも頭に入ってはおりますけれども。
だもんですから、手話を読み取る時には相当に頭がグルグルしております。少しでもリアルな感じを出したくてやっていたのですが、そのせいで読み取るのが遅れたりするとこちらの日本語訳が遅れてしまったりすることもありました。

自分が喋りながら手話をする場合にも同様の困難さがつきまといます。ダンスの振り付けのように覚えてしまうと言葉よりも手話の方が先に出てしまったりする場合もありますので、できる限りセリフと手話をリンクさせながら喋るように努めました。

今回、手話指導をして下さったのは三浦剛・忍足亜希子ご夫妻でして、実際に過去の公演で雪絵さんや波多野役を演じた経験もあるお二人です。忍足さんはろう者ですので、手話指導の現場でも三浦さんが演出家の要望や稽古場の反応などを忍足さんに同時通訳していました。同様に、忍足さんによるご指摘の手話を言葉にして我々に伝えて下さいました。
つまり三浦さんは同時通訳者として双方の掛け橋として大活躍だったのですが、全く遅滞なくそれをこなされていたんですよね。もちろんそれが当たり前の日常だからできるのだとは思いますが、それにしてもお見事でした。
稽古時間外にも質問に答えて下さったり助言をして頂いたりと、お二人には本当にお世話になりました。本番での手話演技が上手くいっていれば良いのですが、どうだったのでしょうか。

東京メトロ有楽町線(西武線直通)で見つけたシンプルな注意喚起ステッカー。沿線に「ムーミンバレーパーク」があるので西武鉄道はムーミンとコラボしています。

粟根まこと

【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

【粟根まこと出演予定】
2023年劇団☆新感線43周年興行・秋公演
いのうえ歌舞伎『天號星』
9/14〜10/21◎THEATER MILANO-Za(東京)
11/1〜20◎COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール(大阪)

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