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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第142回「方言での演技」

劇団☆新感線「ミナト町純情オセロ」の東京公演が無事に終わりました。12年ぶりの再演ではありましたが、設定が変わりすぎてほぼ新作でしたよ。劇団員の比重も高めでなかなかにチャレンジングな作品となっております。

さて、東京公演が終われば次は大阪です。今回の「ミナト町純情オセロ」はシェイクスピアの「オセロー」を青木豪さんに翻案して頂いたモノで、関西のとあるミナト町が舞台となっており、全篇が関西弁で語られています。
ゲストのお三方は関西出身ではありませんが、劇団☆新感線には関西出身者が多いので、イントネーションやらニュアンスやらを全員でアドバイスしながら稽古してきました。最終的には全てのキャストともに概ね問題の無い関西弁になっていると思います。
まあね、ひとくちに関西弁といいましても大阪北部や大阪南部、京都や奈良と、ちょっとずつ微妙にニュアンスが違います。今回はザックリと《関西弁》という括りで、なんとなくそれっぽくなれば良いなという感じでまとめておりますけれども。

このように、方言でのセリフがある場合には色々と大変なんですよ。今回はそういう話を解説したいと思います。

テレビやラジオなどのマスメディアの場合、放送範囲が広いために特に方言指導が厳しくなります。随分と以前の話ですが、NHKの大河ドラマ「新選組!」に土佐出身の谷干城(たにたてき)役で出演した時には、予め土佐弁指導の先生が台本を読み上げた音源(当時ですからカセットテープです)をもらって、何度も練習してから臨みました。
また、同じくNHKのFMラジオドラマに出演した時には京都の商人の役でした。同じ関西とはいえ《戦国末期》の《京都》の《商人》ということで、時代・場所・職業によって話し方が変わってくるのです。この時にも方言指導の先生が読み上げた音源を何度も聞いて、台本にもイントネーションを書き込んで臨みました。この時には録音現場に方言指導の先生が立ち会って下さったので、逐次修整しながら収録していきました。
やはりNHKは特に方言に厳しかったように思います。大河ドラマなどで間違った発音をしたりするとクレームが来たりもするのかもしれません。

演劇の場合でも大体同じです。ですが、演劇ではフィクションの度合いが高いために、方言指導の観点からはやや緩いかもしれません。実際、「ミナト町純情オセロ」では関西弁の方言指導の先生がついたりはしませんでした。方言に迷いが生じた時には、関西出身者がワラワラと寄ってきて、ああだこうだ議論しながら決定しておりました。まあね、厳密にしすぎても伝わりにくい場合などもありますしね。
でも、以前に「IZO」という作品を上演した時には、幕末の物語でしたので土佐弁や薩摩弁がたくさん出て参りましたので、この時には方言指導をして頂いたはずだったと思います。ただ、私が演じた勝海舟には指導が付かず、私が勝手に想像した江戸弁でやり通してしまいましたけどね。

ちょっと話は逸れますが、大阪生まれ大阪育ちの私ではありますが、実は大阪弁があまり上手くありません。両親共にコテコテの大阪弁ではありませんでしたし、中学の時に懐いていた恩師がチャキチャキの江戸っ子でしたし、さらに高校時代に上方落語にハマってしまって古めの大阪弁も混ざってしまいました。結果として、なにやらちょっと胡散臭い大阪弁が出来上がってしまったのです。
だもんで以前、大阪弁にうるさい関西の劇団(ああそうさ、わかぎゑふさんのトコロさ)で大阪弁の役が来た時に、あまりに胡散臭いので大阪弁指導を付けられたこともあるほどです。
また、随分前の話ですが「天国から北へ3キロ」という舞台に出た時に、稽古があと三日で終わるという段階で急に「あなたはやっぱり大阪弁で」と言われて、慌てて大阪弁に変更しながら覚え直したらなんだか妙な具合になってしまい、アンケートで「大阪弁がしゃべれない人に無理矢理大阪弁をしゃべらせる芝居は嫌いです」と書かれてしまったこともあります。まあ、それほどまでに大阪弁が下手というコトなのです。
まあ、その後は大阪弁を研究したりもしましたので、そこそこしゃべれるようにはなりましたが、大阪で生まれ育ってきた人間としてはなんとも情けない話ですね。

かと思うと逆の話もあります。かつて私が声優を務めた格闘ゲーム「The King of Fighters ’97」のドラマCD収録の時、私が演じるキャラクターが所属していたチームが三人ともたまたま関西出身者で、リハーサル後に音響監督から「そこの関西人のチーム、ちょっとこっち来て」と呼び出されて訛りを逐一修整されました。いくら標準語で喋っているつもりでも、ちょっとしたイントネーションに関西弁訛りが出てしまっていたのですね。これも恥ずかしい記憶です。

ええと、色々な例を書きましたが、ことほど左様に方言とか訛りというのは難しいというハナシでして、気をつけていかないと危険だよってコトですよ。
さあ、大阪のお客様に我々の関西弁は通用するのでしょうか。ちょっとドキドキしながら大阪に向かいますよ。

池袋の北にある池袋大橋から見た、JRと東武の線路が十数本並行して走るポイント。圧巻でしたよ。

粟根まこと

【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

【粟根まこと出演予定】

2023年劇団☆新感線43周年・春公演
『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』
3/10~28◎東京建物 Brillia HALL
4/13~5/1◎COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ4月号」は全国書店にて発売中!

 

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