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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第57回 ケラリーノ・サンドロヴィッチさん(劇作家、演出家、ナイロン100℃、ミュージシャン)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

ナイロン100℃「イモンドの勝負」は、東京公演を無事閉幕しました。
ご来場いただいたみなさま、お気にかけていただいたみなさま、ありがとうございました。
この先は、兵庫、広島、北九州公演へと向かいます。ご来場お待ちしております。

舞台が薄暗い中そっと登場するシーンの際に、客席全体を見渡せるわずかな時間があるのですが、もちろん客席も薄暗い中、お客様たちがつけている白いマスクが客席をほぼほぼうめていて、ああ本多劇場が満席だぁ…と、感慨深い日々でありました。

ナイロン100℃は、自分のいた劇団から初めて外部の団体に参加させていただいた場所ですが、その時も劇場は本多劇場でした。

とてつもなく緊張した日々だったので、当時は客席を見渡す余裕などありませんでしたが、20年前、同じ客席の前で、同じ舞台に立っていたのだなぁ、そしてその場所が現在に続く道への扉でもあったなぁ…と思います。

今回は、20年前にそんな扉を用意してくださった、こちらの方からのご相談です。

*****

『イモンドの勝負』では大変お世話になっております。なので「相談してくれろ」と頼まれて「相談することなんかないよ」なんてとても言えなかったんです。考えてみると、これまでこうした「相談モノ」に「相談を持ち掛ける側」で参加したことがありません。いざ、何かないかと考えてみてもなかなか浮かばない。
ひとつ、不眠の問題はあります。思うように眠れない。池谷と共通する、かなり辛い悩みです。先日も、昼夜二回公演の日の朝に、池谷が「眠れんかった…眠れないと、また変なんなっちゃうんじゃないかと不安になる…しゅん…」というツイートをしているのを読んで、「池谷もまだ不眠が完治してないのか…しゅん…」と心配になりました。この日、実は俺も眠れておらず、11時に不眠のまま劇場に行き、不眠の池谷をどうしてあげることもできぬまま、皆へのダメ出しをし、「では、二回公演頑張って」なんて言って、自分は13時過ぎには帰宅して昼寝をしました。ごめんなさい。池谷ばかり働かせてしまって。と謝罪をしてる場合ではない。相談をしなければ。しかし、不眠の悩みをもつ池谷に不眠の悩みを相談してもねえ。その日だって「同じように眠ってない池谷が長~い芝居を二回もやってくれているというのに、長~くした当事者がのうのうと眠り呆けているなんて、そんなこと許されない、駄目、絶対」と念じていたら、嘘のようにすんなり眠れたのです。眠っちゃいけないと自分に言い聞かせると眠れます。ぜひお試しいただきたい。いや、これではむしろ池谷の相談に回答してる私です。回答しては駄目、持ち掛けるんだった、絶対。
というわけで私の相談は【劇団を今後どのようにしていけばよいでしょうか?】です。ちなみに劇団というのは、カムカムミニキーナのことではなく、扉座のことです。(註:ナイロン100℃のタイプミスであることをお断りしておきます)

ケラリーノ・サンドロヴィッチさん(劇作家、演出家、ナイロン100℃、ミュージシャン)

*****

まず初めに申し上げておきたいのは、劇団をどうすることもできずに解散した身としては、劇団を今後どのようにしていけばよいかについて、最も参考にならない回答になること100℃です。

ただその経験を経て自信を持って言えることは、劇団員に「弁当屋を始めよう」と提案すると、わりとすんなり劇団を崩壊することができます。
なので、崩壊したくてたまらなくなったらその一言を放てば大丈夫ですし、もし劇団を続けようかやめようか迷っている劇団員さんがいる場合も、「弁当屋を始めよう」と投げかけると、自分は本当にこの劇団にいるべきかどうかをとても真剣に考えられるきっかけとなり、結果弁当屋をやりたいという強い想いの劇団員だけが残ることになり、弁当屋開店に向けての士気が高まります。

そらみたことか、何の回答にもなりません。

といいますか、なぜ急に弁当屋の話がはじまったかお分かりにならない方のために注釈を…私が所属していた「猫ニャー」という劇団は、旗揚げから6年目くらいで行き詰った時期があり、解散かな? 固定メンバーではなくユニットのような形式になるのかな? と思いながら劇団会議に赴くと、当時座長だったブルー&スカイくんが「弁当屋をはじめよう」と言い出したのです。
「演劇界で一番おいしい弁当をつくり、弁当界で一番面白いお芝居をやる」という経営理念を掲げられ、劇団員たちは困惑し、結果当時看板俳優であった小村裕次郎もそれをきっかけで劇団を離れました。私も一度は劇団を離れる覚悟をしましたが、残る劇団員が2人だけになってしまいそうだったので、劇団がなくなってしまうことは避けたいと、「お弁当はつくらないけど、劇団に残る」という折衷案で劇団に残ったのでした。

このように、劇団がいままでの劇団から違うものに変化しようとする時、本当の気持ちがわかります。そして淘汰されます。

いや、劇団を崩壊させたいわけではありませんね。
そして崩壊は簡単ですが、持続することはとても大変ですよね。

私の劇団は10年で解散してしまったので、30周年をむかえようとしているナイロン100℃は尊敬です。今回の作品も、20年前に初めてご一緒させていただいた劇団員のみなさんもずっとご活躍で…ということは20年以上劇団に所属しているということですものね。すごいことです。

今回も、お稽古場で劇団員のみなさんとKERAさんのいろんな関係性を垣間見ることができました。各々の俳優さんたちに対する演出の伝え方だったり、ケアだったり、面白がり方だったり…長い年月でお互いわかり合っている上で、さらに驚いたり、面白がったり、面倒がったり…焼酎などが年月を経てまろやかな舌触りになっていくように、私は今回、ナイロンにまろやかさを感じました。

そしてそれに相反するように、実験的にも攻めにも解放にも感じる今回の作品。KERAさんもどこかでおっしゃっていましたが、劇団じゃなくてどこでできるでしょう。

【劇団を今後どのようにしていけばよいでしょうか?】というご相談には、劇団だからできることをただやり続けていただきたい、と思うのみです。
劇団でしかできないことをやり続けているうちに自ずと、劇団をもっとよくしようとか、解散しようとか、もっとこうなればいいのにとか、もうどうにもならないとか、病気とか、若返るとか、変化せざるを得ない何かが顔を出してくるとは思いますが、顔を出してきた時に「今後どうしよう」と考えるしかないような気がします。

そしてその時、最良の道を選択できるよう、KERAさんと劇団員のみなさんが、「必要としているよ」ということがお互いに伝わりあっていきさえすれば、然るべき場所に向かうはずです。
しかし長年一緒にいると、なかなか伝わりづらくなるやっかいな感覚でもあると思うので、うまく伝わり合う状況があることを願います。

案外きちんと回答してしまいました。やればできるものですね!
しかし白状しますと、はなっから相談にちゃんと回答する気などさらさらなく、この人生相談という場を利用して、20年分のお礼をお伝えしたかっただけです。

KERAさん、20年前にナイロン100℃に参加させていただいたことで、いろんな扉が開きました。正直、参加させていただいていなかったら、私の人生は全く別のものになっていたと思います。いまよりかなり幸せになっていたとしたらどうしてくれたのだ…ですが。笑
見つけていただき、引き上げていただき、その後もいろいろな作品を体験させていただき、本当にありがとうございました。
もはや今生の別れのような文章になってまいりましたが、さらに20年後も、同じようにナイロン100℃の作品で本多劇場に立てていたら素敵です。その時まで劇団もKERAさんも、長生きしてください。

■ラッキー待ち受け

ナイロン100℃「ナイス・エイジ」初演の初日本番直前にKERAさんが、「休憩前にアナウンスを読んでほしい。いまから書くからちょっと待って」とその辺にあった紙をちぎり、急いで書いてくれたアナウンス原稿です。
初心を忘れないようにとっておいていますが、初心というものはしょっちゅう忘れてしまいますね…。
録音が間に合わず、下手の袖で直接マイクに向かってアナウンスしたのですが、その時ようやく「あ、お客さんの笑い声だ」と認識できて、少しほっとしたのを覚えています。
死の間際の走馬灯というものがあるなら、ぜひ映し出してほしい走馬灯候補の光景です。

■KERAさんの今後の予定
ナイロン100℃ 47th SESSION「イモンドの勝負」
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
2021年12/18(土)~19(日) 兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホール
12/21(火) JMSアステールプラザ 大ホール
12/25(土)~26(日) 北九州芸術劇場 中劇場
詳細 → ナイロン100℃ 47th SESSION 「イモンドの勝負」 | 【公式】株式会社キューブ オフィシャルサイト (cubeinc.co.jp)
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/nylon47th

INU-KERA vol.82
2022年2/5(土)
会場:新宿ロフトプラスワン
※ご予約は、ロフトプラスワンWEBにて2022年1/8(土)12:00~受付開始

KERA CROSS ver.4「スラップスティックス」
作・ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出・三浦直之(ロロ)
2021年12/25(土)~26(日)@東京・シアター1010
2022年1/8(土)~10(月)@大阪・サンケイホールブリーゼ
2022年1/14(金)~16(日)@福岡・博多座
2022年1/28(金)@愛知・日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
2022年2/3(木)~17(木)@東京・シアタークリエ

 

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]

【配信】
岩井秀人(WARE)プロデュース「いきなり本読み! in 東京建物 Brillia HALL」(進行・演出:岩井秀人)
10月に出演させて頂きましたイベントがアーカイブ配信中!
視聴券:¥980(税込)※別途手数料が発生致します
販売期間:販売中 2021年12/9(木)13:00~12/31(金)
12/31(金)23:59まで視聴可!
https://www.ikinarihonyomi.com/movie/index.html


【舞台】
ナイロン100℃ 47th SESSION「イモンドの勝負」(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)
【兵庫公演】2021年12月18日(土)~19日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【広島公演】2021年12月21日(火) JMSアステールプラザ 大ホール
【北九州公演】2021年12月25日(土)~26日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
※東京公演は終演いたしました。
https://sillywalk.com/nylon/schedule.html
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/nylon47th

【舞台】
「お勢、断行」(原案:江戸川乱歩、作・演出:倉持裕、音楽:斎藤ネコ)
2022年5~6月 世田谷パブリックシアター ほか、兵庫 ・ 愛知 ・ 長野 ・ 福岡 ・ 島根 にてツアー公演あり
https://setagaya-pt.jp/news/20211027-103659.html


【テレビ】

Eテレ アニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」
毎週火曜 18:45~18:54
声:銭天堂の店主・紅子役
https://www.nhk.jp/p/zenitendo/ts/4NX2MRW758/


【テレビ】

BSテレ東 土曜ドラマ9「執事 西園寺の名推理」再放送  毎週土曜 21:00〜21:55
https://www.bs-tvtokyo.co.jp/shitsuji/


【コラム】

福岡のエンタメ情報誌 シアタービューフクオカ「めずらしく体調のいい日に」
https://tvf-web.com


【DVD】

イキウメ「外の道」(作・演出:前川知大)
2021年6月、シアタートラムで収録された舞台公演DVD
発売中
https://www.ikiume.jp/tuhan.html#sotonomichi

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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