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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第73回 副島綾さん(舞台芸術アドバイザー)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

4月1日に開幕した、シス・カンパニー公演「帰ってきたマイ・ブラザー」東京公演も、千穐楽の光が見えてまいりました。
とはいえ、5月6月と全国8か所のツアー公演にまいりますので、大千穐楽の頃にはもう初夏ですし、一年の半分が終わることになります。

40代までは3ヶ月が1ヶ月くらいの速さに感じていましたが、50代に突入してからは4ヶ月が1ヶ月くらいに感じはじめました。この法則でいくと、60代では5ヶ月が1ヶ月くらいに、70代ではついに、半年が1ヶ月くらいに感じるようになれるんですね。80代では7ヶ月が1ヶ月、90代では8ヶ月が1ヶ月…130代でやっと1年を1ヶ月くらいに感じられるようになる計算です。
もっと生きていければ、いずれ50年を1ヶ月くらいに感じられるようになるとは思いますが、こんなことを考えているうちに貴重な1ヶ月が過ぎてしまいそうなのでやめておきましょう。

さて今回のご相談は、5ヶ月前に大変お世話になった…体感的には1ヶ月ちょっと前に大変お世話になった、こちらの方からです。

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のぶえさん、

お元気ですか。こちらはすっかり春の日差しに包まれ、マロニエの木々がぶわーっと芽吹いています。

さてわたしは、失踪するようにフランスに来て、はや23年が経ちました。

2言語で暮らしていると、どちらも希釈されて半端なものになってしまいます。いまだに信号を「bleu 青」と言ってしまうのですが、最近はフランス語が日本語に侵食してきて、「野生の鮭(→天然)」「空港に誰々を探しに行く(→迎えに行く)」などと言ってしまい、言語中枢のバグを抱えて生活する日々です。

そんななか、観客としての悩みがあるので相談させてください。フランスでは観劇後に「面白かったです」と関係者に言うコメントは、つまらなくて相手の気を悪くさせたくないけど何となく気づいて欲しいときに使います。そのせいか、日本でも「面白かったです」と言えない自分がおり、具体的な感想を考えてしまいます。それがちょっと生々しくて、理屈っぽくなってしまって。。。

のぶえさん、こういうときは素直に目をみて「面白かったです」と、余白をもった一言で済ませた方が良いのでしょうか。役者さんが大変な舞台を終えて感想を言われたときに、丁度良いと感じられる匙加減についてご意見いただけますか。

副島綾さん(舞台芸術アドバイザー)

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副島綾さんとは、昨年11月にフェスティバル・ドートンヌ・ア・パリの正式プログラムとして上演された「À la Marge(外の道)」で初めてお会いしました。

2021年6月に上演されたイキウメ「外の道」の公演前に客席でストレッチなどしていた際、舞台監督の谷澤さんが「この作品をパリでやらないかって話があったみたいだよ」と教えてくれて、そこにいた数人で「わ~すごい!」と興奮したものの、「いやいやまさか本当には…」とも半分思っていました。

いま思い返せば、その数日前に綾さんがご観劇くださり、パリへの道が始まっていたのですね。
私にとっては、パリでの公演は初めてでしたが、以前からパリ公演の話になると決まって「副島さん」というお名前を耳にしていました。話には聞くが出会えたことがない…という、もはや伝説のような立ち位置であった副島さんに、とうとうパリでお会いできたのです。

実際にお会いした副島さんは、とても知的でチャーミングな女性でした。
短いパリ公演の期間も、終演後の会合やランチの時間でそのお人柄を知り、帰国後もLINEでやり取りなどをしているうちに、綾さんならではの文章の伝え方があるなぁと感じていました。

ご自身で感じた想いを、多面性を持った正直さで綴られる文章はとても気持ちがよく、なんなら、このコラムも執筆していただきたいくらいです。

お芝居の感想である「面白かったです」は、日本でもフランスと同じような意味も持っている気がします。
といいますか、私も「あまり心揺さぶられなかったけど、すごくつまらないわけでもなかったし…」というような時に、その言葉を使ってしまう時もあります。

そして、本当に物凄く面白かった場合も、あまりに面白過ぎてほかの言葉が浮かばず「ほんっとうに面白かったです!!」と言ってしまう時もあります。

結局「面白かったです」の熱量の込め方の違いだけになってしまっていますね。

ここ数年のコロナ禍では、終演後に直接ご感想をいただく機会がめっきり減ってしまいましたが、楽屋面会ができていた頃は、楽屋にご挨拶に来てくださる方々の全体熱量でその作品の評価に対する大勢を把握し、それを軸に、個々の方々からいただくご感想が大勢派なのか大勢派に反するものなのかは肌で感じられていたような気がします。

まだ面会が許されない日本の演劇界では、ご観劇後にメールなどでご感想をいただく日々ですが、その文面からも熱量は伝わってくるものです。

要するに、余白をもった「面白かったです」を言ったり、書いたりしていただく一言でも、伝わるものはたくさんあって、ある意味隠しきれない気もします。

しかし、カンパニー側の状態として

カンパニーの大勢が「面白い作品だと思っている」
カンパニーの大勢が「面白い作品だと思っている」ようだが、自分はそうではない
カンパニーの大勢が「そんなに面白くない作品だと思っている」
カンパニーの大勢が「そんなに面白くない作品だと思っている」ようだが、自分はそうではない

大まかにこの4つの状態に当てはまると思うのですが、それぞれの状態によって、余白をもった「面白かったです」から受け取る波動も違ってきます。

カンパニーの大勢が「面白い作品だと思っている」+お客様「(余白をもった)面白かったです」
=自分「こんなに面白い作品なのに、自分たちではしゃいでるだけかな…? いや、お客様のコンディションが悪かったのかな?」

カンパニーの大勢が「面白い作品だと思っている」ようだが、自分はそうではない+お客様「(余白をもった)面白かったです」
=自分「だよね! わかってくれてありがとう!」

カンパニーの大勢が「そんなに面白くない作品だと思っている」+お客様「(余白をもった)面白かったです」
=自分「ほんとそうだよね…ごめんなさい…」

カンパニーの大勢が「そんなに面白くない作品だと思っている」ようだが、自分はそうではない+お客様「(余白をもった)面白かったです」
=自分「この面白さがなんで伝わらないのかなぁ…」

というように、同じ「(余白をもった)面白かったです」の一言でも、こちらの状態によってさまざまな受け取りかたをしてしまうので、ある意味あらためて怖い感想ですよね。

個人的には、「(余白をもった)面白かったです」でしか表現できない感想の時もあるだろうな…という実感もありますが、あまり面白いと感じられなかったりした場合でも、「私にはこう見えた、こう思えた」という内容のご感想をいただくと、とても響くものがあります。

そうしたご感想をいただくこと自体既にご縁ですし、その時必要じゃない言葉だったとしても、耳から目から入ったその言葉と温度たちは体内に吸収されて、未来も少しずつ変わるのだと思います。

なので、ご自身で感じた想いを多面性を持った正直さで伝えることがとてもお上手な綾さんには、たとえ生々しく、ちょっと理屈っぽくなってしまうとしても、ご縁だと思って正直にお伝えいただけたらとても嬉しいです。

パリ公演では、終演後のロビーや楽屋で直接感想を聞けたり、お店でお酒を飲みながら日々の公演を振り返ったり、日本ではしばらくできていない交流の時間を久しぶりに体験できました。

演る側と観る側という立場の違いはあれど、ライブという生身の時間を共有した同士だからこそ伝わるものがあって、それをお互い伝え合えることの豊かさと喜びを実感しました。

日本の演劇界にそうした時間が戻ってくるのはまだまだ先になりそうですが、楽屋挨拶が再開したら、少しでも未来が豊かに変わっていくように、私も
「(余白をもった)面白かったです」以外の言葉を空気中に放とうと思います。

■ラッキー待ち受け

フランスで新たに気づいたことは、赤ワインってなんて美味しいんだ! と、自分は意外と赤が似合う! という、「赤」に関することでした。といいつつ、写真で飲んでるのは白いスパークリングですが(笑)。赤いセーターは、ビビビ! ときてパリで買ってしまいました。
「赤」は、自分の人生の中にあまり関わりがない色だと思っていたので、嬉しい発見です。
どちらもその場所に行ったからこそ気づけて、未来が少し変わった体験です。これから出会う舞台も、演る側としても、観る側としても、影響を与え、与えら合える日々でありますように。
そしてまたいつか、綾さんとパリで素敵な作品を上演でき、新しい色との出会いもありますように。

■副島綾さんの今後の予定
※フランスでの公演になります。
2023年6/21(水)、22(木)20時
『At the Core』
小㞍健太 × アルディッティ弦楽四重奏団
詳細 → https://www.mcjp.fr/ja/la-mcjp/actualites/at-the-core-ja

 

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]

【舞台】
シス・カンパニー公演「帰ってきたマイ・ブラザー」
作:マギー、演出:小林顕作
東京:2023年4月1日(土)〜4月23日(日) 世田谷パブリックシアター
名古屋:2023年5月11日(木)~5月14日(日) 御園座
大阪:2023年5月18日(木)~5月22日(月)  森ノ宮ピロティホール
福岡:2023年5月26日(金)~5月29日(月)  キャナルシティ劇場
西宮:2023年6月2日(金)~6月4日(日)  芸術文化センター 阪急 中ホール
新潟:2023年6月8日(木)~6月11日(日)  りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
札幌:2023年6月16日(金)~6月18日(日)  カナモトホール
仙台:2023年6月23日(金)~6月24日(土)  電力ホール
京都:2023年6月29日(木)~6月30日(金)  ロームシアター京都 メインホール
https://www.siscompany.com/produce/lineup/brother/ 


【舞台】

EPOCH MAN 「我ら宇宙の塵」
脚本・演出・美術:小沢道成
2023年8月2日(水)〜13日(日) 新宿シアタートップス
https://epochman.com/uchu2023.html


【映画】

「銀河鉄道の父」
監督:成島出
2023年5月5日(金・祝) 全国公開
https://ginga-movie.com


【テレビ】

Eテレ アニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」
毎週金曜 18:40~18:50 / 再放送 毎週土曜 17:45〜17:55
声:銭天堂の店主・紅子役
https://www.toei-anim.co.jp/tv/zenitendo/


【舞台アーカイブ配信】

「重要物語」(作・演出:ブルー&スカイ)
(2023年1月赤坂RED/ THEATERにて上演の舞台公演)
配信プラットフォーム:カンフェティ  http://confetti-web.com/juuyo_streaming
配信販売期間:2023年4月19日(水)19:00〜5月7日(日)23:59まで
視聴券:2,000円(税込)ほか


【動画配信】

with公式YouTube 対談ムービー企画「BAR HARUNA」
配信プラットフォーム:with公式YouTube
https://withonline.jp/people/bar-haruna


【コラム】

福岡のエンタメ情報誌 シアタービューフクオカ「めずらしく体調のいい日に」
https://tvf-web.com

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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