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【小野寺ずるの女の平和 WEB】第5回 ストリッパー:黒井ひとみ

役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。

ストリッパー 黒井ひとみ
24歳ストリップデビュー。
小さな胸を大きく開き、頼もしい足で飛び跳ねる彼女の裸に私はいつも涙する。
決死すぎるキュートは凶々(まがまが)しいほどのエネルギーを舞台上で炸・裂。
パンク故のセンシティブな魂、そしてどこか知性的な彼女が語るストリップへの想い。
そこには女という性をショーにした、性を超越した命を燃やす闘いが見えてきた。

(2019年6月取材)

明日死ぬ。だったらストリップをしたい。

ずる 大好きな表現者、親友でもある黒井さんに今日はインタビューです。まず何故ストリッパーに?
黒井 高校の進路指導室にあった本、『13歳のハローワーク』で適職診断みたいなのを素直にやってみたら適職ストリッパーって。
ずる (酷い肩すかし)え?それで?
黒井 その本、「舞台が好き?」とか色んな質問に答えて適職わかるんだけどさ、最後の質問が「ちょっとエッチなことが好き?」だったんですよ。そんなもんYESに決まってんじゃん!まあ、それからストリップは頭の片隅にある程度だったの。で、部活でミュージカルやったり演劇科ある大学いって小劇場中心に役者やってってことをしてた。大学の卒論はストリップについて書いたけど。
ずる 片隅にあったはずのストリップがここで急にきたね?
黒井 やっぱりずっと頭の中にあったんだよね。当時新宿二丁目のショーにハマってたし見世物が好きで。それで仲良い教授に卒論の相談したら「ストリップは?」って。それでいざ研究始めたんだけど、ストリップは内部のことしゃべれないことが多いグレーな世界だから電話しても取り合ってくれなくて。文献もないし卒論書けなくて困ったの。だから潜入。「踊り子になりたい」って面接潜入よ。その時は踊り子になる気なかったから話だけ沢山きいて。で、某出版社に就職。そこでエロ企画の担当になったの、ほらエロ好きだからさ(笑)。その仕事の縁でストリッパー牧瀬茜さんのショーを観に行ったんだけどそれがすごくて!海の中にいるのかなって思ったの。馬鹿みたいなんだけどさ、劇場が海なのかと。
ずる 海に関する演目?水着とか?
黒井 全然関係ない。赤いドレスだった。羊水の中にいるような、何もかもを赦されているような気持ち。海にぷかぷか浮かんでるみたいな。「なんだろこれすごいな」って今まで感じたことないような感覚になって。その時に茜姉さんにスカウトされて。勿論冗談でね。でも私その時若くて馬鹿だったしで真に受けてやりたくなっちゃったの。まぁ就職してたしで「あはは〜」って流してたんだけど。でも、その直後に当時の恋人が突然死んじゃったんですよ。で、なんとなく会社行けなくなっちゃって。家でダラダラするだけ、たまに思い出して少し泣いたりするだけみたいな日々が続いて、どうしようって。でもその時、その何ヶ月か前に観た茜姉さんのストリップが心の中にあって。「もう何も出来ないけどあれならやれるかも」って思った。し、昨日元気だった人が今日は死ぬんだってことを目の前で初めて見たから。老衰とかで火が段々消えてくみたいな死しか知らなかったのに、ギンギンに燃えていた火がバッて急に消えちゃうんだよ。明日死ぬかもしれないって何かの比喩とかではあるけど文字通り明日死ぬかもしれないって思って。で、明日死ぬとしたらやりたいことをやろうって思った。それで、それがストリップだったの。

ラリってる人以外誰でもデビューできる

ずる 私、仕事で美人ばかりに囲まれて熱帯魚の水槽に入れられたウツボみたいな変な気持ちになるときがある。黒井さんは美人でもグラマーでもないけどファニーで魅力的。魅力的に見えるための意識や工夫はあるの?
黒井 私は女性に人気はあると思ってるけど、全体のシェアはやっぱりほぼ男性だから人気ストリッパーとは言えないの。イロモノ扱い隙間産業。大多数の男性には登場の時点で全く響かない、超アウェイ。だから商業的にも精神的にも苦労はしてるし傷ついてる方だと思う(笑)。でも私がストリップで何が好きって、オーディションもないしラリってる人以外誰でもデビューできるとこ。だから人気はさておき色んな人がいる。で、実際観ると美人やグラマーが魅力的とは限らない。どんな体でもセクシーに魅せることは出来るしどんな人にも魅力がある。だから好みは勿論あるけど魅力的じゃないショーはないんですよね!それはストリップが自作自演だから。外のショーじゃ演出家やプロデューサーがいるし、自分が作る自分だけのショーなんてまぁないよね。つまりストリッパーは「私はこういう人間でこういうところが魅力的なんです」って自分で自分をプレゼンするショーを全員してるわけなんですよ。世間的にはブスでデブでもファンが一人もいない人はまずいない。どんな人にでも必ず需要がある。
ずる すごい。なんで?
黒井 え?どんな人間にも良いところは必ずあるからだよ。だから誰にでも出来る。自分が自分を魅せるんだから。
ずる てことは黒井さんのショーは他の方に比べて表情が豊かな気がするけどそれが自分の魅力だと思ってやってる?
黒井 あのね、私はネットとかで「ブス、法令線」とかって叩かれてるんですよ。
ずる うるせえよ!
黒井 (笑)それは私が色んな表情をするから。踊り子さんってシワがつくのが嫌だから無表情気味なの。美しさのためにあえて顔筋を動かさない。でも私は「シワの一本二本増えたところで元々美しくもねえんだから怖くねえ」って思って。だったら将来どうなってもいいからショーの短い時間でも怒ったり泣いたり笑ったり見せたほうが面白いんじゃないかなって。あと美人じゃないから何かしなきゃっていう強迫観念もあるかも。

豊かな表情に元気をもらいます

ユニークな衣裳も沢山

ずる 強迫観念感じる。でもその恐れてるのに崖から飛ぶ感じに勇気をもらう。その決死感が黒井さんの魅力なのかな。
黒井 私のこと「ブス」って言って目を逸らす人にも裸を見せるんだよ。そりゃ毎日毎回崖から飛ぶ気持ちだよ。顔面麻痺になって涙止まんなくて休業にもなるよ。毎ステージ死んでもいいからやろうって思ってる。ナイフで切りつけられたらギャーって死ぬの嫌がっちゃうかもだけど、そういうどんなことも自分のショーの時間だけは全部受け入れようって思ってる。プロなら毎日同じことしろって言う人もいるけど、人間だからその時々の最高は違う。眠れない日もお腹痛い日もある。でもその日その時の自分の最高を死ぬところまでやろうっては本当に思ってて。面白いショーに命を懸けたい。
ずる かっこいい。その感じすごく出てます。でも自分を美しいと思ってなくて面白いショーをやろうとしてるのに、一般の美に近づけるようなお化粧とか脱毛をしてるのはどうして?シェアの大部分が男性だから商業的に?
黒井 違う。自分の面白ショーを少しでも観てもらうために間口を広げてるんだよ。「怖くないよ〜」っていう化粧だよ。だって私、女子校で皆が「今日は何人の痴漢に遭った」って騒いでたのに一回も痴漢に遭ってないんだからね。まぁ特殊痴漢はあるけど。
ずる そうなんだね。変なこと訊いてごめんね。

狂気の恍惚も黒井さんの魅力

6周年記念ではエアロビを踊りお客様とケーキを囲んだそうです

一人も淋しくさせない

ずる ストリップは性をショーにしてるからこそお客さんと踊り子さんの立場が難しいなと感じます。「何見せてんだろう」って後ろめたさや、逆に「見せてやってる」って男性を蔑んだりな心が透けて見えたりもする。そうなるとお客さん側の見方も難しい。でも黒井さんは復帰してからその部分が素敵に変化したような気が。性を超えて対等に「来てくれてありがとな!」っていうエンタメな清々しさを感じる。休業中に変化が?
黒井 「このままだと死ぬかも」って休業したけど、休業中つまんなすぎて死にそうで「待てよ、死んでも良かったじゃん」って思ったの。だったらしんどくて死にそうでもストリップやったほういいなって復帰。そこから意識が変わったかも。あとさ、私を嫌いなら客席いなければいいのに、あえて私の目の前で裸から露骨に目を逸らしたりをしてくるお客さんは淋しいんだと思うのね。全ての悪しきことは淋しさが引き起こすよ。だから私のショーは会場のお客さん一人も淋しくさせないぞって気持ちでやってる。やっぱりアンチにも楽しんでほしいもの。向かい風が追い風になる瞬間が気持ちいいってのもあるけどさ(笑)。
ずる そんなこと言われたら元々追い風の私はますますの追い風になっちゃうよ。
黒井 まあ、それでもなかなかこっち見てもらえなかったりするんだけどさ。

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黒井ひとみの平和

劇場経営。女の子が命を懸けられる場が増えること。

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デビュー間もない黒井さん(右)と観に行ったずる(左)

黒井ひとみ
2012年、若松劇場にて踊り子デビュー。
東京都内、埼玉、大阪、岐阜、福岡等全国のストリップ劇場を中心に活動。
最近では劇場外でのイベント出演も。
Twitter@AlTni9
【出演予定】
11/21-11/30 ライブシアター栗橋(10周年)
12/1-12/10 渋谷道頓堀劇場
12/11-12/20 シアター上野
1/1-1/10 ライブシアター栗橋
1/21-1/31 熱海銀座劇場
2/21-2/30 あわらミュージック

小野寺ずる
89年気仙沼生まれのお役者、糞詩人。
【漫画】日刊SPA!『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国』
Twitter@zuruart

【文学フリマ東京 出店】
『黒井ひとみと小野寺ずるのおみせやさん』
11/20@東京流通センター第一展示場
ブース番号:U-29
https://bunfree.net/event/tokyo35/

【構成・文◇小野寺ずる】

 

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