【小野寺ずるの女の平和 WEB】第4回 役者:川久保晴
お役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。
役者 川久保晴
自粛期間中に配信された彼女の作・演出・出演の一人芝居を観た。
存じ上げないその彼女はとてもいい。
観る者の目に余計なフィルターをかけさせない振る舞いは平熱の愛嬌。
「この道でやっていく」と宣言しているような真っ当すぎる佇まい、演技・・・。
取材当日。見栄のない笑顔で現れた初対面の彼女はやはりとてもいい。
彼女を喜ばせたくて洒落たモーニングに連れていく。
「ここパンケーキが美味しいんだよ」「私ダイエット中なんで」
私は二人分の小麦粉を平らげる。
「お皿、片付けておくね」「(無言)」
引っかかる、引っかかるぞこの女・・・
24歳大物役者、人気者人生!その人間力に、やっかみ取材!
(※2020年9月取材/撮影)
芸人ではなく役者をやっていく意味
ず 役者はいつから?
晴 大学からです。演劇研究会に入って舞台面白ぇってなりました。一年位で一ヶ月おき位に客演のオファーももらって。忙しくて嬉しいってなってました。でも同時に人生でこの忙しさや充実を求めているなら、違うな、と。
ず 人生?これから先の長い人生?
晴 はい。これから役者をやっていくっていう意味が私の中でまだわかってなくて。何でもいいから舞台や稽古で予定を埋めていくことをしたいんじゃない、もっと違うものがあるってずっと思ってました。私、大学の時「芸人と女優のハーフになりたい」って言ってたんですよ。それを人に言ったらコテンパンに言われました。忘れて欲しい過去(笑)。
ず なんで?
晴 芸人さんもナメてるし、役者さんにも失礼、つまり中途半端でした。何でそう言ってたかっていうのを大学の時に考えたら、やっぱり私が作り出した面白いを面白いって思って欲しいんだなって気づいたんです。自分が書いたもの、自分から生まれ出たものを見て欲しい欲がずっとある。芸人さんは自分達から生まれ出たネタをやるから憧れてたんです。
ず ほうほう。
晴 だから「ウ〜何がしたいんだろう」ってなってた大学3年の時にエミィ賞を見つけて。「No. 1コメディエンヌは誰だ」って言われたらもう出るしかねえ!ってなりました。一人で10分間何をやってもいいんですよ。で、久しぶりに脚本を書いて持っていって、通ると思っていたら予選落ち。私、自分のこと面白ぇと思ってたから、そこで、面白いを否定される経験をして・・・。
ず あなたは面白くなかったんですよ、って?
晴 はっきり。それがすごい良い刺激になりました。何が良くなかったか考えたりコントを研究したりするようになって発見があって、2年目でやっと予選を通って本戦にいきました。でもそこが一番悔しかった。本戦でしっかりオチつけて笑いは取ったんです。でも作品が心に残らない感じがして・・・。「何で芸人さんじゃないの?作るもの見てても役者である必要ある?」って言われた時にガァン!ってなりました。自分が何で役者を選んだのかっていうところに立ち返ったのがその時期。私が役者に魅かれる理由ってやっぱり、ドラマ、の部分なんですよ。笑いが終着点なわけじゃない、笑ってた分ぐわってくる、その部分。だから次は10分間で登場人物を愛おしくなる作品をと思いました。
その3年目の作品(エミィ賞グランプリ受賞)の時は演じてる時にもすごいこみ上げるものがあって、ぶつけたいものがあった。人間なんて短い時間では到底描き切れるわけがない。だからそれ以上のものをいかにギュって詰め込んで、観てる人が想像して、膨らませてくれるか、みたいなことだと思うんです。その辺が私が役者としてやりたいこと。お笑い大好きだけどやっぱり役者として生きていきたいと思ったんです。同時に役者としての努力をしてないなって反省して。不本意に太りまくってたし。げへへへ!
ず (笑)
晴 「これをやっていきたい」っていうのが見えてきた時に、それを磨くために中途半端じゃない時間が必要で、優先できないものは切りました。本当にフリーの状態で「好きなこと好きにやってみようや」って。今は、その時期の延長ですね。だからなんか、幸せなんですよね。売れたいし、そのために動くことも大事だとは思うんですけど、でも好きなことやってる延長にあったら良いなって思っちゃう。
ず 今すごい幸せ、か。
晴 そうですね。勿論ずっと不安定ではありますけどね。
セリフのない役が役者に与えたもの
ず どうしてこの道を目指すように?
晴 幼稚園の頃からお笑いに興味があって、学校でも男子とコントしたり。
ず へ〜じゃあクラスの人気者?
晴 人気者、でしたね・・・。
ず 苦笑いで言うんじゃないよ(笑)!
晴 目立つのが好きなんですよね。学校でいかに笑いを取るか、みたいなことをずっと考えて過ごしてました。
ず 笑い、とれてた?
晴 とれて、ましたね
ず 苦笑いで言うんじゃないよ(笑)!
晴 (笑)。先生をターゲットにしてました、大人笑わせたら勝ちって思ってたんで。
ず かっこいいな。
晴 単純に面白い人間って思われるのが好き。だから芸人か役者かで悩んで。その時に阿部サダヲさんのドラマを観て「役者で面白いって出来る、やりたいことは役者だ」って思ったんです。そこからは役者で人生を生きたいって思うようになりました。
ず ドラマ好きなの?
晴 すっごい好きで小さい頃から毎晩必ず観てました。人の人生を見るとか、それをやるってすごいなって。自分じゃない人生を生きてみれるって考えたらワクワクします。
ず 最近はドラマにもレギュラー出演してるみたいだね。大好きなドラマの現場、どうだった?
晴 セリフもない美術アシスタント役でエキストラみたいなもんですけど、ドラマという夢の場所で、初めて毎週そこに関わってみて改めて・・・ああここで・・・うん・・・。
ず ・・・物語に関わる役がやりたいってことだよね?
晴 うん。私セリフないのにめっちゃ楽しかったんです。それまでの私だったら本気を出さずに「エキストラだし」って腐った部分みたいなのが出ちゃってたと思います。でもコロナで思ったんです、一個一個をちゃんと生きてみよう、突き詰めてみよう、って。実際の美術スタッフさんについて回って仕草を真似してみたりする中で、役者ってセリフない時の方が難しいって思いました。でもTHE端役をやって初めて「役者!」って思ったんです(笑)。
ず 素晴らしいね。
晴 勿論「私があの役だったら」とかもあって悔しかった。でも私はこの役を与えられたんだから、自信をもって美術アシスタントをやろうって自分の中でカッ!てなって。良い現場だったんですよねきっと。スタッフさん達が役者より何倍も時間割いて愛情込めて現場を用意してくれてる、そして向こうは信じて役を与えてくださったんだから、それ以上のものを返さないと、って。前はもらった役の中で差をつけたりしてましたけど。
ず 戒められる。私もそういうとこある。
晴 ありますよ。やっぱりメインって言われたら張り切るし、端役ってなったらしょげる。でも周りにいるのに目がいっちゃう役者さんとかかっこいいし・・・
ず (号泣してる)
晴 ・・・なんで?
ず すごいな、と思って。自分はドラマで「邪魔しないように」って萎縮しちゃったりしてたからさ。でも別にそんなもん見たくないじゃん皆。話聞いてて反省させられた。
晴 現場でみんな愛がすごいなって気づかされたんです。全員が愛を持って作ったものってすごいパワーが出る。だからそれを怠ってた愛が薄かった自分がわかったので、これからいただく役いただく役の私を見ててって思います、うふふ
ず 出会えてよかった。見える、ドラマでメインはってるあなたが見えちゃう。
晴 頑張る。うふふ。
折れない彼女のブレない展望
ず (感動が徐々に嫉妬に変化している)学校で人気者って言ってたけど虐められたこととかないの?
晴 ない、ですね。
ず 畜生!ネガティブな物語はねえのか!
晴 温室育ち(笑)。人間関係苦労せずぬくぬく。
ず それが卑屈な空気がない魅力ね。負けず嫌いだよね?
晴 めちゃめちゃ。頑固です。
ず わかる。あと人を褒めない、認めないよね?
晴 はい!恥ずかしい(笑)!褒められるのを自分がそんな信用してないっていうのもありますね、それを取り込んでたらブレていくから。
ず でも沢山褒められてきたでしょう?(卑屈)
晴 はい(笑)。だから逆に否定が嬉しかったんです、私がもっと面白くなれるのはそっちだなって。小さい頃から褒められ慣れしてるのもあるし。
ず 感じわりぃ(笑)!
晴 ごめんなさいね〜皆すぐ褒めてくれちゃうから(笑)。
ず (笑)でも欲張りよ!褒められるのに人のこと褒めないんでしょ?ぶどうジュース(?)独り占めみたいなことでしょ?
晴 めっちゃ欲張り(笑)!人にジュース全然あげない!
ず でも大物感あって良い。ダイエット中とはいえパンケーキすすめても食べないし。折れない。
晴 すみません(笑)。
ず 私が和田ア●子さんだったら食うでしょ?
晴 食わないッスね。
ず すごいな!私がテーブル片付けても気ぃ遣わないし。打算で気を遣う行動にでない感じが良いよね。
晴 あ、お皿!ありがとうございました(笑)。前は気を遣ってましたけど、私の人生だし人の意思を優先して自分がブレる瞬間が無駄だなって思って。でも自分の中で失礼がないようにはしてますね。
ず だから人に好かれるのね、不思議なバランス感覚。
晴 まぁ愛嬌はありますよね
ず うるせえ(笑)!そんな大物は今後どうなっていきたいの?
晴 (笑)。今は好きなことをやり続けていきたいが強いですね。好きなことをしていって自分が面白いって思うものがもっと面白くなっていくのが絶対面白い。その延長で観てくれる人の数が増えていったらめちゃくちゃ嬉しいですし、そうありたい。
ず 役者としてはこれからも・・・
晴 勿論、一生やっていきたいですね。
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川久保晴の平和
それぞれがそれぞれ好きなことをしている
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川久保晴(写真左)
◯かわくぼさえ◯愛媛出身。
上京して5年経つも一向に垢抜けない、
同じ人生を歩かせたら誰よりもその人生を楽しんで生きる、
【出演中】ドラマ EX『最初はパー』森繁久代役
CX『エルピス-希望、あるいは災い-』
Twitter@mosaemosae
Instagram@mosae1208
小野寺ずる(写真右)
◯おのでらずる◯89年気仙沼生まれのお役者、糞詩人、ド腐れ漫画家。
ZURULABO所長 HP:http://zurulabo.oops.jp
【漫画連載】日刊SPA! 『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国』
Twitter:@zuruart
Instagram@zuru_onodera
構成・文・撮影◇小野寺ずる
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