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世界の恋人を具現した明日海りお率いる花組が描く冒険譚 宝塚花組『CASANOVA』

明日海りおが世界の恋人ジャコモ・カサノヴァに扮し、彼の運命の恋人ベアトリーチェを演じる仙名彩世の退団公演でもある、宝塚歌劇花組公演 祝祭喜歌劇『CASANOVA』が東京宝塚劇場で上演中だ(28日まで)。

祝祭喜歌劇『CASANOVA』は18世紀ヴェネツィアに生まれ、1000人の女性を愛したとされる、その女性遍歴で名を轟かすジャコモ・カサノヴァが真実の恋に出会うまでを描いた生田大和初の1本もの大作。楽曲のすべてを『1789─バスティーユの恋人たち─』『太陽王〜ル・ロワ・ソレイユ〜』『アーサー王伝説』と、宝塚の舞台にも登場し、この秋星組での上演が新たに決まった『ロックオペラ モーツァルト』等の代表作を持つ、フランスの作曲家ドーヴ・アチアが書き下ろしたことでも、大きな注目を集める作品となっている。

【STORY】

18世紀、アドリア海に面した水上の都ヴェネツィア。女性の愛を欲しいままにし、浮名を流し続けてきた稀代のプレイボーイ、ジャコモ・カサノヴァ(明日海りお)は、魔術で人を欺き、女性を誑かした罪で国事犯審問所の審問官コンデュルメル(柚香光)に捕らえられ、終身刑となんら変わらぬ600年を超える懲役刑を言い渡されドゥカーレ宮殿内の鉛屋根の監獄に収監される。だが、人生には恋と冒険が必要だと豪語するカサノヴァは、同じ房に囚われていたバルビ神父(水美舞斗)の協力を得て脱獄に成功。折しもカーニヴァルの喧騒の只中にあるヴェネツィアからミラノに脱出しようとする。その逃避行の道で出会ったのが、修道院で育ち、本を読み啓蒙思想を学び、貴族の娘として定められた道を歩むことに惑うヴェネツィア総督フォスカリーニ(高翔みず希)の姪にして養女のベアトリーチェ(仙名彩世)だった。女性の敵であるカサノヴァ脱獄の報を受け、自らカサノヴァを捕えようとお忍びで馬車を走らせていたベアトリーチェに、自分もカサノヴァを追っている貴族だと名乗ったカサノヴァは、星の数ほどの女性遍歴の間に、ついぞ覚えたことのないときめきを彼女に感じる。一方ベアトリーチェも、カサノヴァとは知らぬまま、自由を追い求める男性であるカサノヴァに心惹かれていく。
だが、自らもカサノヴァに愛人を奪われていたコンデュルメルは執拗にカサノヴァを追い、更に権力への野望の為に、ベアトリーチェと貿易で財を成した富豪コンスタンティーノ(瀬戸かずや)との婚姻をも推し進めようとして……

プレイ・ボーイの代名詞とも言えるジャコモ・カサノヴァの人生は、自伝「カサノヴァ回想録」(原題「我が生涯の物語」)で我が国でもよく知られているし、これまでに数多くの映像化がなされている。ロココ文化華やかなりし頃を背景に、歴史上の著名人との多くの親交が伝えられているカサノヴァは、二枚目スターたちにとって演じ甲斐があり、また絵になる人物でもあるのだろう。宝塚でも男装の麗人を極めたトップスターとして名を残す紫苑ゆうの退団公演として、1994年に小池修一郎の作・演出作品『カサノヴァ・夢のかたみ』が上演されていて、ポンパドゥール夫人、サンジェルマン伯爵、ルイ15世などが華やかに登場する「浪漫歌劇」が展開された。

それから四半世紀。宝塚のみならず日本のミュージカル界にとっても欠くべからざる演出家となった小池が、ここしばらくほぼ一手に担ってきた宝塚歌劇の1本立て大作を、受け継いでいく者としての期待を担ってこの作品を任されたに違いない生田大和が、宝塚歌劇に傾倒するきっかけになった作品が他でもない『カサノヴァ・夢のかたみ』だったというのだから驚かされる。しかも、この大きな挑戦の機会に生田が自らの原点となったカサノヴァを取り上げる決意をした。この大いなる輪廻だけで、まるでひとつの作品が出来上がっている気持ちさえするほどの、もうひとつのドラマを内包しているこの祝祭喜歌劇『CASANOVA』が、それでいながら若い作家の気概で凝り固まるのではなく、むしろ軽やかにポップに進行していくのが興味深い。

とにかく作品の中で、主人公のカサノヴァが自らの女性遍歴に対して全く悪びれないのが面白い。元々次々と浮名を流し続けた為に投獄されたにも関わらず、脱獄し隠れ潜もうとしている時だというのに、女性たちが放っておいてくれなくて困る、とあっけらかんと言い放ち、女性たちに投げキスを忘れないカサノヴァ。この世界観がすんなり納得できるのは、やはりトップスターを頂点とする「男役」に「娘役」たちが熱い視線を投げ、讃え、ときめき続ける構図が当然のことになっている宝塚歌劇を於いて他にない。しかももちろん宝塚歌劇のロマンスだから、その1000人の女性を愛した男が、たった1人の真実の恋を捧げる女性に出会うという定石も外さない。とにかく全てがおさまるべきところにおさまる心地良さが、この作品には備わっている。更に、そのただ1人の女性は、進歩的な考えを持ち、逆境にも負けず自ら運命を切り開こうとしていく、明るく前向きな乙女という、「白雪姫」から「アナと雪の女王」に至る、ディズニープリンセスの変遷にピタリと合致する、現代の女性が共感できるヒロイン像にきちんと描かれている。これらのすべてに作・演出家生田大和、わかってるな!という好感が膨らむ。

そんな作家の作品を、美術の二村周作、照明の笠原俊幸、映像の奥秀太郎、衣装の有村淳らの、優れたスタッフワークが盛り立てていく。敢えて人物より小さくミニチュアのように創られたヴェネツィアの街並み、アーチを描く橋、水の都を行くゴンドラ等々、すべての装置が美しく、遊び心があり、決して出しゃばらないのに薔薇の花びらが散り、月が輝く映像、恋に落ちた瞬間にミラーボールが回ってしまう照明との融合にも見応えがある。更に衣装がまたとびきり華やかで、どこかで必ずアシンメトリーだったり、多くの色が重なっていたり、非常に凝ったカットワークだったりといった、重厚感がありつつポップという、この作品の世界観を衣装も見事に表していて、これは写真集も買いたくなるというもの。どこをとっても面白さにあふれている。

何より、その世界を最大限に支えたのがドーヴ・アチアの楽曲の数々で、フレンチロックのリズムと、覚えやすい美しいメロディーが融合した多彩な楽曲が、作品を彩っていく力には絶大なものがあった。脚本部分だけを取り上げるなら、やや説明不足なところや、唐突な部分がない訳ではないのに、あまりにも美しい世界観の中に、怒涛のように溢れる音楽の魅力がそうした小さな瑕疵を覆いつくしていくのが素晴らしい。演劇は総合芸術で、宝塚歌劇はエンターテインメントのラブロマンス、そんな基本をこの新しい作品は思い出させてくれる。

そしてもちろん、その総合芸術を完成させたのが、カサノヴァを演じた明日海りおだ。いつまでも少年の面影を宿していたこの人が、稀代のプレイ・ボーイに扮し、娘役たちに囲まれてキメにキメる姿がこれほどまでに絵になる。もうこと改めて言うことでもないのだろうが、それでも本当に大きなスターになったんだなという感慨と共に、尚根底に愛すべき憎めない美質を役柄に残したのは、明日海の透明感と優しさのある個性故だ。しかもドーヴ・アチアの多彩な楽曲を、ひとつのストレスもなく客席に届けてくれる豊かな歌声は絶品。宝塚の男役でいる期限をついに切った明日海の、余裕と力量が眩しい。

その明日海よりもひと足早く、宝塚歌劇を飛び立つベアトリーチェの仙名彩世は、これが退団公演。希望にあふれてヴェネツィアに到着したベアトリーチェの輝き、その希望が一瞬にして潰える悲しい歌声、それでも尚あくまでも前を向いて運命に立ち向かう強さと、恋に戸惑う想い。宝塚のトップ娘役としては異色の役柄を多くこなしてきた経歴を持つ仙名だからこその、豊かな芝居心が誰もが味方したいヒロイン像を創り上げた。ラストシーンのベアトリーチェの決断は、この公演で宝塚を去る仙名に合わせた描き方だと思うが、明日海との名残りのデュエットも深く歌い上げ、集大成に相応しい有終の美を飾った。

ベネチアの十人委員会の筆頭で、審問官コンデュルメルの柚香光は、用意周到に策をめぐらす野心家としての顔。策士策に溺れるの図がどこか抜けているコメディタッチのカリカチュア。相当に捻じれた妻への愛憎が潜む心根。という三つの色合いが、実は微妙にまとまりきれていない役柄が抱える脚本上の問題点を、本人の強烈に目を引かずにはおかないスター性と、内にあるいたずらっ子のような少年性でねじ伏せて見せたことに圧倒された。スターとしての良い意味のハッタリがいつの間にここまで効くようになったのかと、驚かされる成長ぶりは頼もしい限り。歌唱にはまだムラがあるが、それが何か?と言わんばかりに堂々と歌い切って有無を言わせないのも、柚香のスターたる証だろう。

そのコンデュルメルの妻ロザリアに男役の鳳月杏が回ったのが、今回のキャスティングの大きなサプライズだったが、宝塚の女役というよりは、女優に近い演じぶりで作品中最もシリアス度が高い役柄を支え、起用の理由がよくわかる好演。ソプラノの音域も美しく歌い、この公演を最後に月組への組替えが決まっているが、実力を買われての転出だろう。古巣での活躍も楽しみだ。

ベアトリーチェの政略結婚の相手コンスタンティーノの瀬戸かずやは、『蘭陵王』の怪演とも呼びたい体当たりの演技から、この人が確かにあらゆる意味でジャンプアップしたのがよくわかる存在感。大真面目で、でもコメディーリリーフでもある役柄を楽々と演じていて、鬼に金棒の様相を呈してきた。そもそも物語の発端を担っている美女、ゾルチ夫人の花野じゅりあと恋に落ちるくだりも実に面白く、媚薬がなくても一目惚れすることに真実味がある花野の、こちらも集大成となる美しき花娘を体現した姿と共に、作品の良いアクセントになっていた。もう1人、やはりこの公演で退団する花組の娘役の鑑とも言えた、ベアトリーチェの侍女ダニエラの桜咲彩花も、ベアトリーチェに真心を尽くし、あくまでも端正でたおやかという女性を十二分に演じている。最後まで「娘役」を全うした桜咲の想いと姿に拍手を贈りたい。

そのダニエラと終盤には恋仲になっているバルビ神父の水美舞斗は、描き方と視点を少し変えれば男役二番手の人材が演じることも十分可能な大役を、力みなく演じていて目を引く。根底に誠実さのある水美の持ち味が、あくまでもカサノヴァに付き従うバルビの行動に芯を通したのも見逃せず、こちらも公演毎に存在感を高めている。

また、モーツァルトの綺城ひか理、錬金術師バルサモの飛龍つかさ、カード賭博のイカサマ師メディニ伯の聖乃あすかと、この組の期待の男役たちにきちんと働き場のある目配りも良いし、次期トップ娘役に決定している華優希に、色濃い人たちが集う妖しげなカジノの中で、1人浮いているほど清楚なお嬢様感のあるバルサモの妻セラフィーナを当てて、しかもその浮いて見える彼女の行動が、ラストシーンの大団円につながる仕掛けも周到。やはりこの組の重要な娘役である城妃美伶には、男装の麗人アンリエットで視線を集めさせ、やはり彼女が男装であることがカサノヴァにとって意味がある作りになっているのも、よく考えられていた。
ベテラン勢では、ヴェネツィア総督フォスカリー二の高翔みず希が、一国を治める総督としては確かにコンデュルメルが苛立つのもわかる人の好さが、高翔の柄に打ってつけ。カサノヴァの父親代わりを自任していて、実は?とも思わせるブラガディーノ卿の航琉ひびきも味わい深い。ゴンドリエで歌唱力を活かしたと思っていたモモロの羽立光来が、更に宮殿でのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の騎士団長役に抜擢されるくだりには、あまりにも出来過ぎていて微笑ましかったほど。コンデュルメルの配下のマヌッチの和海しょう、トマシの優波慧の、それぞれ口跡の良い台詞回しが光り、コンデュルメルの妻の配下の黒猫たちにもそれぞれ工夫があって、中でもベネラの音くり寿の個性が生き、パレードのエトワールを含めて出色。新人公演主演者の帆純まひろ、星組次期トップ娘役に決定した舞空瞳、花組の貴重な娘役たち華雅りりか、春妃うらら、乙羽映見、前公演で注目を集めた一之瀬航希、などにも働き場がもう少しあればと思うのは、観客として欲が深いかも知れないが、生田には更にそんな期待を持てる伸びしろも感じる。

まるっきり水戸黄門の謎の伯爵ミケーレに夏美ようが起用されている段階で、展開は読めてしまうが、それが欠点にはならず、安心感になったのが今回の作品の美点と作風を何よりも表していて、カーニヴァルの人々からロケットに自然につながるフィナーレも新鮮。このフィナーレの楽しさがまた格別で、生田大和の1本もの大作デビューが、その名の通り祝祭に満ちたものになったことを喜びたい舞台となっている。

また初日を前に囲み取材が行われ、花組トップコンビ明日海りおと仙名彩世が、公演への抱負を語った。

まず明日海が「仙名との最後の共同作業というか(笑)、最後の舞台となりますので、1日1日を務めて参りたいと思います」とまずこの公演で卒業する仙名に触れた挨拶を。

それに応えて仙名も「明日海さんとの共同作業を、最後まで心を込めて務めて参りたいと思います」と語り、この二人による囲み取材も、ラストになるという感慨を抱かせる。

その中で、ドーヴ・アチアの楽曲について、明日海が「ビートに乗った曲に、思わず体が反応してしまうような素敵な曲ばかりだなと思ったのですが、歌い続けていて、次から次に新たな味を感じるなと」と、公演を重ねたからこその感想を語ると、仙名もこの東京公演の舞台稽古で「オーケストラの皆さんが合わせていらっしゃる時に、ビートだけが鳴った時があって、これはどこで流れているんだろう?と思って。パーカッションだけだと、こんなリズムが流れているんだ!という発見をして」と、楽曲の奥深い魅力を語り、千秋楽まで役柄を突き詰めていく二人の役者魂が感じられる時間となっていた。

尚囲み取材の詳細は、舞台写真の別カットと共に5月9日発売の「えんぶ」6月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!

公演情報〉

宝塚花組公演
祝祭喜歌劇『CASANOVA』
作・演出◇生田大和
作曲◇ドーヴ・アチア
出演◇明日海りお 仙名彩世 ほか花組
●3/29〜4/28◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100(10時〜18時)
http://kageki.hankyu.co.jp/

 

 

【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

 

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