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新生星組が描き出す希望の光 礼真琴&舞空瞳お披露目 宝塚星組『眩耀の谷~舞い降りた新星~』『Ray─星の光線─』上演中!

宝塚歌劇団星組の新トップコンビ礼真琴&舞空瞳の披露公演である幻想歌舞録『眩耀(げんよう)の谷~舞い降りた新星~』とShow Stars『Ray─星の光線─』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(9月20日まで)。

『眩耀の谷~舞い降りた新星~』は紀元前の中国大陸を舞台に、国の為に大きな任務を果たす人間になりたいとの大志を抱く青年が、いつしか知らかった現実に向き合い、葛藤しながらも新たな道を選び取っていくまでを描いた歴史ファンタジー。自身が宝塚歌劇団OGであり、退団後数々のオリジナル作品を発表しながら、宝塚歌劇団作品の演出家、振付家としても活躍してきた謝珠栄が、初めて脚本・演出・振付の全てを自身の手で担った、宝塚歌劇の歴史の中で初の宝塚OGによるオリジナル作品となっている。

【物語】

数千年の昔、諸国を追われた流浪の民である汶(ブン)族は、美しく豊かな自然と土壌を持つ亜里(アリ)にたどりつき、小国「汶」を築きあげる。だが、紀元前800年頃、勢力を拡大する周王朝の宣王(華形ひかる)が、汶族の王・麻蘭(マラン)と交戦し汶を攻略。汶族は周国の統治下に置かれるが、汶族の神・瑠璃瑠(ルリル)の聖地である「眩耀の谷」には、密かに抵抗を続ける者たちが身を潜めていた。

春、亜里の地に、周の都・鎬京(コウケイ)から新たに大夫として遣わされた丹礼真(タンレイシン・礼真琴)が赴く。この地に暮らす人々の力になりたいと意気込む礼真は、汶族との闘いで数々の武功を立て、麻蘭征伐の勇者と称えられる管武(カンブ)将軍(愛月ひかる)の下で働けることを喜ぶ。そんな礼真に下された命は、未だ宣王に敵意を燃やす者たちが潜むと言われる汶族の聖地「眩耀の谷」の探索だった。汶族の残党に和解を促し、正義に導くことこそが、無駄な血を流さずに民の平安をもたらす最善の道なのだ、と語る管武将軍に心酔した礼真は、身を挺して任務を全うすると誓い、部下の慶梁(ケイリョウ・天寿光希)、百央(ビャクオウ・大輝真琴)をはじめとした兵を率いて「眩耀の谷」探索に向かう。

だが、「眩耀の谷」は一向に見つからず、疲弊した部下たちを鼓舞しながら探索を続ける礼真は、ある夕暮れ、不思議な幻を目にし、そのあとを追ううちに森の奥深くに迷い込み、疲れ果てて座り込んだ大木の根本で、かつて母(万里柚美)が教えてくれた歌を口ずさむ。すると突然現れた謎の男(瀬央ゆりあ)に、「眩耀の谷」に案内するから、その歌を教えてくれと声をかけられる。藁をもすがる気持ちで男の後を追った礼真が、迷路のような道を抜けてたどり着いたのは、この世の物とは思えぬ黄金に囲まれた場所だった。しかしその美しさに目を奪われていた刹那、礼真はタカモク(ひろ香祐)、カイラ(綺城ひか理)、クリチェ(天華えま)イムイ(極美慎)をはじめとした、汶族の人々に囚われてしまう。彼らは瑠璃瑠の神の聖地と、汶族に伝わる秘伝の薬法を守る為にこの地に隠れ潜んだ汶族の一派で、周国の宣王が狙っているのは、ただこの谷の黄金と優れた薬法だけであって、民の平安などは全く考えてもいないと言い放つ。

敬愛する管武将軍と、汶族の生き残りである彼らの言葉のどちらが正しいのか。捕らわれの身のまま思い悩む礼真の前に、汶族の亡き王麻蘭の妹である盲目の女性・瞳花(トウカ)が現われ、縄を解く代わりに自分を周に連れていって欲しいと懇願する。かつて管武将軍の目に止まった瞳花は妾として周に連れていかれ、家宝という子まで成していて、この地に戻ったのちも、5歳になっているはずの子供に一目会いたいと願い続けていたという。

信じていたものが根底から揺らいでいく中、礼真は自らがどう進むべきかを定める為にも、まず瞳花の望みを叶えようと、彼女を連れて「眩耀の谷」を抜け出すが……

優れた技術や異なる信仰、固有の文化を持つ少数民族が、大国の思惑の前に理不尽に蹂躙されていく様は、残念ながら今も世界で続いている悲しい現実だ。こうした多様なルーツを認め合い、互いに尊重し合うという、人と人が接していく上での基本中の基本だろうと思えることが、未だに遠いユートピアに感じられてしまう事実には、人間の愚かさや業の深さを突き付けられるようで、心ふさがれることも数多い。そうした人の業に真っ直ぐな視線をあてながら、尚、人に対する希望を持ち続け、明日は変えられるというメッセージをこれまでも多く発信してきた謝珠栄が、今回宝塚歌劇に初めてオリジナル作品を書き下ろすにあたって、この『眩耀の谷』のテーマである「生命をつなぐ」というドラマを選びとったことも、至極当然に思えるものだった。現実の国と国、民族と民族の争いの中では、このドラマの中で主人公・丹礼真が取った決断は、選択肢として残されていないこともままある。でもだからこそこれは「歴史ファンタジー」なのだし、誇りだけを胸に潔く散華し、神の国で平安を得たという舞台面の美しさにのみ帰結することなく、ある意味泥臭く生き延びることを宝塚の舞台で描いて見せたのは、作家の大きな決意によるものだと思う。特に、この作品が生み出された段階では、誰もが予想もしていなかった新型コロナウィルスの大流行が世界を覆い尽くした脅威の前には、地球や更に宇宙という大きな存在の前で、人類の争いが如何に愚かで小さなものかが白日の下にさらされている。そんな中で、とにかく生きること、命をつなぐこと、明日に希望を託すことを作品が描いているのは、意義あるものに思えた。ここではないどこかに希望がある。生きてさえいれば必ず明日がやってくる。明けない夜はない。そんな夢のような、でも今一番必要なキーワードを真っ直ぐに描くのに、宝塚歌劇ほど相応しい場所はない。

ただ、だからこそそのファンタジーをもう少し進めて、終幕の展開に汶族の人々が周の軍勢を、例えば幻術を用いて翻弄して時間を稼ぐなどの、舞台ならではの華やぎがあれば、より作品が宝塚に相応しいものになったのでは?という欲も感じる。そうであれば、新トップスター礼真琴の「舞い降りた新星」ぶりも一層際立っただろう。更に、愛月ひかる演じる管武将軍と、新トップ娘役・舞空瞳演じる瞳花の関係が、台詞説明だけに終始してしまうのもあまりにもったいない。何故、管武将軍が瞳花を見初め、子まで成し、汶族滅亡を目指す宣王に知れたら、恐ろしい火種になることがわかりきっているにも関わらず、汶の王族の血を引く子を5年も育てていたのか。この経緯だけでもむしろ一本作品ができてしまうと思えるほどの設定なだけに、せめてひと場面でも二人の現実の関係が観たかった。他にも宣王の思考を扇動し、全てを牛耳っているとさえ思える巫女・敏麗(ビンレイ)の音波みのりの目的がどこにあるのか?に明確な答えがないのも、神秘性はあるもののひと捻り欲しい部分で、このあたりは、基本的に90分間でドラマを描ききる必要がある宝塚作品ならではの難しさだろう。多くの作家が登板することは喜ばしいことなだけに、この経験が劇作家・謝珠栄の今後に活かされることを期待したい。

その中でも、やはり星組の新トップスターとして登場した礼真琴の、伸びやかで溌剌とした個性が、希望に溢れた若者像にピッタリと合致したのが素晴らしい。礼のこれまでの主演作で、代表作のひとつに数えられる『阿弖流為─ATERUI─』での、阿弖流為役に感触が近く、ドラマの全てがほぼ丹礼真視点で進むこともあって、舞台が黄金ではなく、礼本人の生命力で輝くよう。礼真ひとりのドラマと考えると、作品の中で成長が深く描かれていて、よく動く表情と抜群の歌唱力が礼真の変化を顕著に感じさせていた。新人時代から将来の星組を担うだろうと目されていた人らしい、安定感ある主演ぶりだった。

ヒロイン瞳花の舞空瞳は、非常に早い時点でのトップ娘役就任だけに、5歳になる子供がいる母であり、ましてや盲目という役柄の難しさの負荷が大きいが、一途で必死な表現が今の舞空の立場とリンクしていて応援したくなる。「見たくないものが多すぎた」という盲目の設定は、今の時代の言葉で言えば視神経には全く損傷がない、という精神的なものなのでは?と想像もさせて深いし、言葉でなく踊りで語る場面も優美で力強く印象的だった。

管武将軍の愛月ひかるも、これが星組二番手男役スターとしての本公演デビュー。前述したように役柄が背負っているはずの非常に重いドラマがほぼ描かれていない中で、出て来ただけで周国随一の将軍を思わせる押し出しはさすがのひと言。民の飢餓を案じる忠臣故に宣王に疎まれる、その後の管武将軍の行動を観たいと思わせる、大きな存在感で役柄を埋めていて、愛月の資質の確かさを改めて感じさせた。

一方、謎の男の瀬央ゆりあは、主人公を支える側のポジションとしてはこれ以上ないと思えるほどの大役を堂々と演じている。礼真琴の同期生だが、キュートな持ち味の礼に比して大人っぽい個性なのが奏功して、関係性が自然に観ていられる。一気に大きなスターに成長したのが感じられ、愛月の加入と共に新生星組の豊かさに貢献していた。

また、汶族の人々に、星組期待の男役が集中して入っていて、花組から加入したカイラの綺城ひか理に青年たちを束ねる兄貴分の風格があるし、クリチェの天華えま、イムイの極美慎が、グループ芝居に終始しない個性をそれぞれ発揮。現在の一族の長的存在なのだろうタカモクのひろ香祐の滋味深さ、テシャの朝水りょうのキレのある美貌もやはり目を引く。

瞳花に付き従うアルマの夢妃杏瑠、その弟テイジの天飛華音には大きなドラマがあり、双方よく演じていて見応えがあった。礼真を「眩耀の谷」へと誘う神の使いの水乃ゆりの抜群のプロポーションもよく生かされている。

一方礼真の周りでは慶梁の天寿光希が、出てきた時から出世欲を滲ませる食わせ物感を巧みに出せば、百央の大輝真琴がただ礼真に心酔している純朴な人物を造形して対比が鮮やか。母の万里柚美も思い出の中という幻想的で美しい出番を得て、この公演を最後に星組組長の大任を離れる区切りの作品に大きな彩を添えた。父の輝咲玲央も少ない持ち場で確実に強いインパクトを残している。バジャンの美稀千種の温かさが役柄を大きく見せた。

周国宮殿では、やはり前述した巫女・敏麗の音波みのりの存在が頭抜けていて、王の妾妃である妹の瑛琳(エイリン)の小桜ほのかとの密談場面もあるだけに、何を企んでいるのか?に注目させる力が絶大。容貌も台詞発声も美しく、説明がない部分をねじ伏せていく力があった。小桜がその企みに同調している感も更に妖しく、王后の華雪りらのストレートな美しさが、それぞれ良いアクセントになっている。桃堂純ら奸臣たちの如何にもの動きも面白い。

それらの人々の思惑に動かされていく周国の宣王を演じる専科の華形ひかるはこれが退団公演。重い役から軽やかな役柄まで縦横に演じ分けながら、あくまでも宝塚の二枚目男役を貫いた華形には、もう少し裏表のある役柄が欲しかった気持ちも残るが、周囲の讒言に踊らされていくこの作品が求めた王の姿に、まっすぐ突き進んだ役者魂が潔い。新型コロナウィルス感染拡大の混乱の中で、退団日時が押した一人で、もういっそ退団を撤回してくれないだろうか、と夢想したほど貴重な人材だっただけに、宝塚の男役として大きな衣装を楽々と着こなす姿に惜別の想いが募った。

他に全体の語り部である春崇(シュンスウ)の有沙瞳の明晰な台詞発声が複雑なドラマを進めていて、ラストシーンの着地も実に見事。ますます美しくなっていて、貴重な娘役として今後一層の活躍に期待したい。

そんな「生命をつなぐ」ドラマの後に控えたのがShow Stars『Ray─星の光線─』で、中村一徳の作。新トップスター礼真琴を中心とした星組の輝きを一気にお見せしましょうという、中村作品らしい総力戦が際立つ。

トップコンビのお披露目要素がふんだんに用意されているだけでなく、愛月ひかるの大人の個性で魅せるジャズテイストの場面、瀬央ゆりあを中心としたエネルギッシュなダンスシーン以下、よくぞと思うほど、スターと呼べるほぼ全員に満遍なく場面を割り振っていて、その深い配慮に驚かされるほど。もちろん退団の華形ひかるや、星組組長から専科に異動する万里柚美への餞もたっぶりで、むしろないものはない趣。『ファントム』でおなじみになったJaijin Chungの映像もインパクトが大きいものなだけに、これだけ多くの主張がある中で、尚新トップコンビ礼&舞空の比重が下がって感じられないのが驚異的だった。

ひとつだけ欲を言えば、作者のせいでも誰のせいでもないが、この時期の上演になってしまっていることを考えると、オリンピアの場面に導入する台詞にだけは、少しアレンジを施しても良かったのではと思うが、これは芝居も併せてだが、大劇場で出来上がっていたものを、新型コロナ禍の中での上演に合わせて舞台上の人数を削減する為に、ステージングを手直しする作業は大変なものだっただろう。その労苦が見事に実らせ、舞台空間をきちんと埋めた星組の面々に拍手を贈りたい。

そんなコロナ禍にある今、エンターテインメントが直面している問題は決して小さくない。この星組公演も、当初3月27日に開けるはずだった初日が、4ヶ月余りの休止期間を経て、7月31日に初日を開けたのち、再び一時休演を余儀なくされた。宝塚歌劇団全体でも未だ模索の日々が続いている。それでもやはり、この美しい舞台があることからどれほどのパワーが得られるか、宝塚歌劇の幕が開いてくれている、それ自体にどれほどの希望が感じられるかが、この公演を通してひしひしと伝わってきたのは間違いない。東京での新人公演主演が叶わなかった碧海さりおの健気な頑張り、エトワールで美声も聞かせた桜庭舞の笑顔をはじめ、A日程、B日程に分かれての出演となったメンバーに至るまで、挫けずひたすら一生懸命の輝きが舞台からこの重苦しい時代の空気をはらってくれる。そんな力を放ちながら、大羽根を背負ってトップ披露を果たした礼真琴率いる新生星組が描き出す希望の光、星の光線の尊さを何よりも感じさせる舞台になっていて、千秋楽までつつがない上演が続くこと、この希望の光が灯り続けることを願っている。

【公演情報】
宝塚歌劇星組公演
幻想歌舞録『眩耀の谷~舞い降りた新星~』
脚本・演出◇謝珠栄
Show Stars『Ray─星の光線─』
作・演出◇中村一徳
出演◇礼真琴 舞空瞳 他 星組
●7/31~9/20◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席12.500円 S席9.500円 A席5.500円 B席3.500円
〈お問い合わせ〉0570-005100 宝塚歌劇インフォメーションセンター
〈公式ホームページ〉 http://kageki.hankyu.co.jp/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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