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異色の作品で更に輝く望海風斗と雪組の底力 宝塚雪組公演『壬生義士伝』『Music Revolution!』

幕末の新選組でただ家族の為に修羅の如く人を斬った隊士を主人公に描いた異色の新選組もの宝塚雪組公演かんぽ生命ドリームシアター幕末ロマン『壬生義士伝』と、音楽の美しさとダイナミックさをテーマに綴ったかんぽ生命ドリームシアターダイナミック・ショー『Music Revolution!』が東京宝塚劇場で上演中だ(9月1日まで)

『壬生義士伝』は約20年前に週刊文春誌上で連載され、大ベストセラーとなった浅田次郎の人気小説をもとに石田昌也が脚本・演出した作品。幕末の京都で幕府守護職の人斬り集団として恐れられながら、滅び行くものに義を通した最後の侍たちとして人気の高い新選組の中にあって、思想ではなくただ家族の為に進んで汚れ役を引き受けた剣客・吉村貫一郎を主人公にした異色の新選組ものの宝塚版となっている。

【物語】
幕末の動乱期。奥州盛岡、南部藩の足軽の子として生まれた下級武士吉村貫一郎(望海風斗)は、北辰一刀流の免許皆伝にして頭脳明晰な文武両道のもののふであった。美しい故郷の自然を愛し、南部小町と謡われる妻・しづ(真彩希帆)を娶り貧しいながらも藩に忠義を尽くして懸命に生きていたが、ある日しづが自ら川に身を投げたと知り驚愕する。夫婦にはすでに息子の嘉一郎(彩海せら)と、娘のみつ(少女時代・彩みちる、長じて朝月希和)がいたが、更に新たな命を身ごもったしずは、極貧の家庭を守る為に死のうとしたのだ。
足軽の身分ではどれほど剣を磨き学問に励んでも家族を守ることはできない。そう痛感した貫一郎は、家柄や身分に関係なく腕に応じて俸給のある「新選組」への入隊を期して脱藩を決意する。貫一郎の幼なじみで、今は大野家の養子となり上級武士となっていた大野次郎右衛門(彩風咲奈)は、脱藩の大罪を説き、必死で貫一郎を引き留めるが、その意思の固さに自らも罪に問われることを覚悟で、道中手形を渡す。竹馬の友の厚情に感謝しながら、貫一郎は愛する家族への思いを胸に、故郷を後にし京の都へと向かう。
晴れて新選組隊士となった貫一郎は腰の低い態度とは裏腹に、腕の立つ隊士として、金の為、つまりは盛岡に残した家族の為危険な任務を進んで引き受け人を斬り続ける。その態度を守銭奴とあざける者も多かったが、副長・土方歳三(彩凪翔)をはじめ主立った者たちは、吉村の愚直な腕の冴えと、朴訥な人柄を認めてゆくようになる。だが時代は急速に動き、徳川幕府は大政奉還を断行。更に錦の御旗は薩摩長州に渡って、徳川方に与してきた新選組は賊軍となってしまう。隊士たちも散り散りになる中、ひとまず大阪城に入って態勢を立て直そうとする土方に反して、貫一郎は勇猛に戦い続けるが遂に深手を負い、なんとしても美しい故郷南部に帰り、一目妻子に会いたいと大阪南部藩の蔵屋敷にたどりつく。ところが帰藩を請う貫一郎の前に立ったのは、今や蔵屋敷差配役となっていた次郎右衛門で……

幕末の志士として絶大な人気を誇っている新選組は、小説、漫画、映画、テレビ、アニメ、ゲーム等など、様々なジャンルで膨大な作品が生み出されている。中でも、最後まで己の信じるところを貫き通し、函館の五稜郭で散った副長・土方歳三や、ほとんど資料が残っていず、ただ一番隊隊長で結核に倒れたことだけが確かだったところから、司馬遼太郎の『燃えよ剣』等の所謂司馬史観の中で、その人となりがほぼ決定づけられていった沖田総司や、明治時代まで生き残った数少ない新選組幹部三番隊隊長の斎藤一など、新選組ものの中でも人気が高い謂わばスタークラスの人物を描いた作品は特に多い。宝塚歌劇でも沖田を主人公にした『星影の人』土方を主人公にしたこの作品と同じ石田作品『誠の群像』がすでに作られ、前者は早霧せいな主演、後者は今作の主演者でもある望海風斗によって、近年いずれも同じ雪組で再演されてもいる人気作品となっている。

そんな中でこの『壬生義士伝』が異彩を放っているのは、新選組を描きながらこれらスター隊士を主軸にするのではなく、実在したことは確かながらほぼ無名の平隊士・吉村貫一郎を主人公に据えている点だ。もちろんそれは原作者浅田次郎が、史実にできるだけ縛られずに異色の新選組ものを描こうとした作家独自の視点と試みだろうし、実際沖田総司は実は女性だったとか、全く架空の人物を新選組隊士として描いたものとか、果ては新選組隊士に吸血鬼がいるとか、創作の翼は果てしもなく広がっているのが現在の「新選組ワールド」だから、浅田の小説も様々な人物がそれぞれの視点で吉村を語っていくなど構成の面白さもあって、特に週刊誌の連載には適した形式だっただろうなと感じる。

ただ、トップスターを絶対の頂点とする宝塚歌劇として観るとやはりこれは、新選組ものの作品群として、という以上に宝塚歌劇団の作品としての異色さが際立つ。極貧の下級武士である南部での描写ももちろんだが、新選組に入隊後お銚子が何本も乗った盆を手に、トップスターが酒をついで回る…というのは、そう見る光景ではないだけに、この作品が如何に攻めに出ているかを感じずにはいられなかった。目指したところは、見た目の華やかさやカッコ良さではなく、家族の為に身を挺する男の、心根の美しさの表出だろうし、出番が極端に少なくなることを承知で、藩を守ることと友情との狭間で、冷徹な決断を下さざるを得ない大野次郎右衛門を二番手の役柄に持ってきたのも、立場に縛られ心のままには動けない人物に石田がシンパシーを感じ、作品のポイントと考えているからだと推察できる。この辺り宝塚歌劇を愛する観客が感じるカタルシスと、石田が劇作家として、また人間として感じるカタルシスにやや開きがあるように思うのが、難しさも孕むが、これもまた宝塚歌劇が続けてきた挑戦の歴史の1ページではあると思う。鹿鳴館時代から物語を回想して作品のストーリーテラーとなる松本良順をはじめとした一行の人数が如何になんでも多すぎるのも、多くのスターに役をつけようとする石田の、こちらは極めて宝塚の座付作家らしい目配りだし(ただ実在の人物を選び過ぎて、歴史の時間軸としてつじつまがあまりにも合わないのには、一考の余地がある)、雪の精、七夕の踊り子、桜の踊り子など、宝塚の大定番だった時代を経て近年ほとんど見なくなった「幻想の踊り手」たちを登場させて場を盛り上げる手法が、むしろ新鮮に映るなど、どうしても暗くなり勝ちの作品を彩る工夫もよく考えられている。

だが、なんと言ってもこの異色の作品を宝塚歌劇の作品として成立させ得たのは、主演の望海風斗の渾身の熱演によるものだ。これまでにもアウトロー系の役柄に多く当たってきた人だし、何より『誠の群像』での土方歳三が抜群だった記憶も新しいから、今更平隊士で宝塚の主人公を演じるという力業をさせなくても、という気持ちもどこかにはあったが、それをものの見事に成し遂げて、義の為、家族の為に己を滅して生きる男を愚直に熱く演じきったのは賞賛に値する。日本物の拵えが抜群に似合うビジュアルも手伝い、「ぽたり、ぽたり」の歌い出しが印象的な「石を割って咲く花」や、「南部讃歌」の朗々とした歌声も作品の暗さを救っていて、望海だから成し遂げられた主人公であり、作品と言えるものになった。

貫一郎の妻・しずの真彩希帆は、夫を信じ一人子供達を守る健気なこの時代の美徳を一身に背負った女性像を強い芯を持って演じ、抑えた演技のしとやかさに成長を感じさせる。もうひと役京都で吉村に一目惚れをする両替商の娘・みよを演じるが、二人の女性が全く違う形でありつつ吉村を強く思っていることや、しずとみよの面影が似ているという設定も良い効果になり、トップ娘役に対する巧みな配慮だった。

大野次郎右衛門の彩風咲奈は、望海同様この役柄で雪組の二番手男役としての存在感を発揮するのはかなり難しかったと思うが、「脱藩は大罪だ」と正論で貫一郎を説得しようとするよりも「お前がいないと心細い」と本音を吐露する場面により彩風の個性に適う優しさがにじみでるのが、貫一郎に苦渋の決断を迫る役柄の苦しさを表す力になっている。唯一素の顔を見せられる母・ひさとの場面が、演じる梨花ますみの好演も加味され、涙を誘った。

主人公側がこうした歴史的には地味な人物だけに、新選組のスタークラスに雪組の誇る男役たちが揃うのも目に楽しい点で、土方歳三の彩凪翔は「めんどせー、めんどくせー」と言いながら、全てを把握して的確な差配を瞬時にする土方の切れ者ぶりを、どこか飄々と演じていて見応えがある。
また斎藤一の朝美絢は、二番手男役が演じてもおかしくない役柄に恵まれて躍動。鹿鳴館時代にも登場してくるので、出番という意味では最も多いかも知れない役柄を、怜悧に演じていた。一方こちらも大人気スター沖田総司を演じた永久輝せあは、月代の髪型がよく似合い、少年のように明るい笑顔のままで「斬っちゃいましょうか」とサラリと言う、定番に乗っ取った沖田像を、華やかに見せて目を引いた。

彼ら三人が新選組初登場時に歌いながら銀橋を行くのは宝塚としては極めて正しいし、まさに眼福ものの並びでもあるのだが、せめて局長・近藤勇の真那春人は群舞の中に入れずに後から登場させる等の配慮が欲しいところ。近藤が旗本に取り立てられたことに浮き足立つ場面の描写が主なのも残念ではあるが、真那が与えられた持ち場で懸命に局長・近藤を演じて好感が持てる。奏乃はるとの谷三十郎は徹底的な俗物として描かれている中で尚、情けなさを臆せず出しているのも作品を支えている。近藤の養子となる周平の眞ノ宮るいの真っ直ぐに谷を思う心情も良い。新選組から離脱し薩摩と手を結ぶ伊東甲子太郎の煌羽レオは、その顛末が「皆さんもちろんご存じですよね?」と言わんばかりにほぼ飛ばされたまま油小路の決闘に飛ぶ作劇の大胆さ故に、これも非常に難しい役柄になったが、本人の苦み走った鋭さのある独特の個性が、ただ者ではない感を醸し出して作品の瑕疵を埋めている。原田左之助の橘幸、永倉新八の真地祐果、藤堂平助の諏訪さきら、幹部クラスの隊士に働き場が少ない中で、それぞれが個性を出し、鹿鳴館時代にも出番がある池波六三郎の縣千がやはり特段に目立ち、姿の良さとスターの資質を改めて感じさせた。

その鹿鳴館時代では、リーダーとなる松本良順の凪七瑠海が悠々と役柄を演じていて、ストーリーテラーの役割を果たしているが、近藤勇の主治医だった、というのが作品とのつながりなだけに、せめて一場面でも本編の中で新選組と共にいるシーンがあれば、より効果的だったと思う。専科からせっかく望海の同期生の凪七が出演しているのだから、ここはもうひとひねりの工夫が欲しい。この鹿鳴館組の中では、大野の息子千秋の綾凰華が少年時代から一貫して役を演じていて、当然ながら観ていて違和感がないし、役割としても大きく印象的な出番で気を吐いている。千秋と結ばれる成長した貫一郎の娘みつの朝月希和も、泣き虫だったみつが立派に自分の意見も言える女性になったことをよく表現。古巣花組へ再び戻ることが発表されたが、おそらく花組での働き場も更に大きくなるだろう。雪組で大がかりなダンスシーンを任されるなど、様々に培った経験を活かして活躍して欲しい。その少女時代のみつの彩みちるは、健気さを前面に出して嫌味にならない愛らしい表現が光ったし、嘉一郎の彩海せらも、父親を誇りに思う息子の心根をストレートに描き出して、こちらも涙を誘う存在だった。
佐助の透真かずきの献身、小川信太郎の久城あすの鬼気迫る演技、鹿鳴館での口跡の良さが目立った妃華ゆきの等、観るべき人材も多く雪組の底力を感じさせる公演になったし、最後に貫一郎の魂が故郷に帰ったことを美しく見せて、心慰められるのも宝塚ならではの美点だった。

そこから華やかなショーに続くのが宝塚の何よりの良さで、中村一徳作の『Music Revolutionv!』が、劇場の空気を鮮やかに変える様が圧巻。音楽の変遷がテーマになっていることから、クラシック曲の斬新なアレンジも多く、歌唱力に優れた望海&真彩コンビの持つ現在の雪組の大看板である歌の力が炸裂する。

特に中村が前作『ファントム』から引き続いて雪組を担当していて、出演者たちの魅力や武器を知り尽くしているのも良い効果になっていて、トップコンビの歌だけでなく、彩風を中心として踊りまくるダンスシーンが堪能できるのも、雪組のショーの大きな見どころになっている。それに加えて今回は、永久輝を中心とした大きなダンス場面も用意され、近年の宝塚では若手がこれだけ長い場面をまるごと任されるのが珍しいだけに、非常に印象的。永久輝も花組への転出が決まっていて、更にジャブアップすることが予想されるが、それに相応しいスター性と力量を発揮。今後がますます楽しみになった。

また、望海の「音楽とは人生です」とのインタビューの答えから、中村が発想したという「Music is My Life」の真っ白で統一された場面も実に美しく、望海、凪七、沙月愛奈の同期生が揃う粋なシーンもあり、音楽をキーワードにバラエティ豊かな場面が楽しめるショーに仕上がった。

また初日を前に通し舞台稽古が行われ、雪組トップスター望海風斗と真彩希帆が囲み取材に応えて公演への抱負を語った。

中で、宝塚としては異色の題材に挑んだ心境を問われた望海が、稽古場では役に没頭して自分が主役であることを忘れてしまうほどだったが、舞台にきて照明などの効果にも助けられ、舞台を率いることを改めて感じるようになったという、望海らしい謙虚な感想を述べた。

また二役の難しさを問われた真彩は、しづとみよという二人の女性がきちんと生きていることを目指していて、それには二人が共に吉村貫一郎を思っている女性だということが助けになった、とトップ娘役として望海と共に舞台を作り続けている人ならではの役への取り組み方を披露した。

更にショーで好きな場面は?という問いには中村一徳が『ファントム』インタビュー時の自分の言葉から発想してくれた「Music is My Life」がどの場面も好きな中でも特に好きだと望海が言うと、真彩も同じ場面も大好きですが…と言いつつ「デュエットダンス大好きです!」と勢いよく答えて、望海が笑い出す一幕もあり和やかな時間となっていた。

尚、囲み取材の詳細は9月9日発売の「えんぶ」10月号で、舞台写真の別カットと共に掲載致します。どうぞお楽しみに!

【公演情報】
宝塚雪組公演
かんぽ生命ドリームシアター 幕末ロマン『壬生義士伝』─原作浅田次郎「壬生義士伝」─
原作◇浅田次郎
脚本・演出◇石田昌也
かんぽ生命ドリームシアター ダイナミック・ショー『Music Revolution!』
作・演出◇中村一徳
出演◇望海風斗 真彩希帆 ほか雪組
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円 A席5,500円 B席3,500円
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100

【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

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