【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.86「そんな気がする」
何十年かしたら、
一生のうちで、最もかけがえないの日々だったなと、懐かしく思い返すような日々を、
今送っているような気がしている。
ここまで家族と毎日一緒に、のんびり過ごせた日々はなかったなと。
不謹慎に聞こえる側面ももちろんあるが、正直にそう思う。
悪くない側面も多分にある、この家にしかいないという日々。
働き盛りのこのタイミングで、仕事を全部取り上げられるのはもちろんキツい。
何か新しい表現を見つけねば時代に取り残されると焦りもする。
不意に大切な人が亡くなる。
家では全然飲まなかったお酒をよく飲むようになる。
朝起きてご飯食べて寝る毎日の中で、ハイになったりローになったりを繰り返している。
しかし、良くも悪くも、最近なんだか、身体が、この生活に順応し始めている気がする。
どこかで心地よさを感じはじめている気がするのは気のせいではない気がする。
またあの荒波な生活に戻ることができるのだろうか?
逆の焦りを感じを始めている。
新世界の新荒波はどんなだろうか。
体を柔らかくしておかないとみっともなく溺れそうな気がしている。
【著者プロフィール】
ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された
【今後の予定】
新型コロナ次第となっております。
▼▼前回の連載はこちら▼▼
http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe85/
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