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【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.103「どっちに転んでも」

電車に乗っていた時のこと。
お爺さんの中でも、高齢めなお爺さんがお二人、横並びに座って話し込んでいた。
やがて、タブレットを取り出し、タッチペンで書き込んでは、お互いに見せ合い始めた。
いや、すごいな。
ちなみに私はタッチペン式のタブレットを持っていない。
上の世代の方々は本当に順応力が高い。
そりゃそうか。
電話も、家にはないような時代から、まずは電話が各家庭に入ってきて、ダイヤルがプッシュになって、留守番電話やらファックスなどが付いてきて、でっかい携帯電話が誕生して、それが徐々に小ぶりになってきて、ついには画面を指でいじれるようになって。
電話だけでもこれだ。生活全般においては、とてつもない進化の過程の中にどっぷりといたわけだ。
順応していくのが楽しい人は、本当に凄まじい順応力を身につけていったことだろう。
そして、目の前のお二人が、まさにそれだ。
と、そこで、お爺さんの手の動きがちょっと妙なことに気がついた。
書いて、見せると、パネルの下部の何かをつまんで、左右に動かし、そしてまた書いて、見せて、つまみを左右に動かして。
もう一歩、近寄って見てみると、それは、子供用のお絵描きボードだった。
マグネットペンで書いて、つまみをスライドさせて消して、また書いて。
なんやねん。感心して損したわ。
とは、一瞬だけ思ったけど、すぐに、ものすごいほっこりとした。
微笑ましいとはこのことで。最高にいいものを見た気持ちになった。
この時代に、お絵かきボードを駆使するその姿に、「強さ」を感じた。
タブレットを使っていたとしても、お絵かきボードでも
どっちに転んだとしても、「いい光景」でした。

 

【著者プロフィール】

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された

 

 

【今後の予定】

はえぎわ新作公演
「ベンバー・ノー その意味は?」
作・演出 ノゾエ征爾
2021年11月3日~14日
@新宿シアタートップス
http://haegiwa.net

▼▼前回の連載はこちら▼▼

http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe-102/

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