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トム・プロジェクト プロデュース『狸の里帰り』柴田理恵インタビュー

田村孝裕の作・演出で、コロナ禍の日常と日本の世相を笑いの中に鋭く描き出した本年3月の舞台『たぬきと狸とタヌキ』。その続編とも言うべき『狸の里帰り』が、5月21日から東京芸術劇場で幕を開ける。(30日まで。そののち全国公演あり)

『たぬきと狸とタヌキ』では、ホームヘルパーの女性を主人公に、「たぬき」な岡崎初江とその息子・健の親子が、世の中を騙して生きる姿が強烈な印象を残したが、今作では、初江が入ったホスピスを舞台に、オーナーの西野亮子と初江のバトルや、2人を取り巻く人々の姿が描かれる。

【あらすじ】
民家のような佇まいのシェアハウス型ホスピス「虹の家」。この施設のオーナーは介護士の西野亮子。彼女は人生の終わりを迎えようとしている患者たちにも容赦はしない。ずけずけと物を言い、こき使う。だが、この施設に入居すると、生気を失っていた患者たちは何故か元気に、人間らしさを取り戻して天国へと旅立つ。
そんな評判を聞きつけた健は、母の初江を入居させることにした。死期が近いことを悟り、生気を失くしていった初江に、健は元気を取り戻して欲しかった。
そんな中、西野への取材が入る。この施設で亡くなった患者の家族が、西野をモラハラで訴えているらしい…。

この作品で、ホスピスのオーナー西野亮子役を演じる柴田理恵に、初日も近い稽古場で本作の内容や役柄について話してもらった。そのインタビューを、稽古場写真とともにお届けする。

最後まで人間らしく生きるための場所

──田村孝裕さんの「狸」シリーズとも言うべき今回の作品ですが、前作はご覧になりましたか?

拝見しました。ホームヘルパーさんが通っている一家の話で、そこの親子がとんでもない人たちで、すごく笑ったし、楽しかったです。

──今回は、その親子の母親が末期癌でホスピスに入所して、という話ですが、柴田さんは西野亮子という女性の役です。

ホスピスのオーナーで介護士なのですが、モラハラとかパワハラの疑惑をかけられています。今の時代って、なんでもSNSで発信されるし、それを白か黒かどちらかに決めたがりますよね。グレイの部分がどんどん減ってきている。でも私は、世の中はグレイの部分で出来ていると思うんです。たとえば学校の先生ですごく熱心で良い先生でも、誰か1人が「あんなのパワハラだ」と言いだしたら一斉にみんなもそう言いはじめる。そして、実際にパワハラの部分もあったとしても、でもそれを白とか黒かどちらかに決めてしまうのは、なんか気持ち悪いなと私は思っているんです。そういう時代の空気の中で、モラハラとかパワハラと言われてしまう人の役です。

──西野亮子は、考えがあってそうしているわけですね。

亮子はホスピスを「死にに行くための場所ではなく、最後まで人間らしく生きるための場所」だと言うんですね。そして、生きるというのは「喜怒哀楽」があることだと。それも「楽」だけじゃだめなんです。怒ったり哀しんだり、喜んだり笑ったりする、その「感情が動く」ということが人間には大事で、ただただ死を静かに待つということでいいのだろうかと。だから亮子は患者にも仕事をさせるし、相手を怒らせたりもするのですが、それによって患者さんも逆に生きる気力が湧いてきたりするんですよね。ただ物の言い方とかがちょっと乱暴で(笑)、私はそれが人間味があって好きなんですけど、この時代には誤解されやすいだろうなと思います。

──田村さんは、そういう人間の人間らしい部分、割り切れないところやダメな部分も作品作りの中で描いていますね。

だから面白いんですよね。私は『雪まろげ』(2016年)という舞台で、初めてお会いしたのですが、あの作品は亡くなった森光子さんの代表作の1つで、いわば森さんのための舞台といってもいい作品でしたが、田村さんはそれを全員にドラマがある集団劇にされたんです。主役は高畑淳子さんでしたから、もちろんそこは崩さずに、でも周りの人たちのドラマもちゃんと見せる芝居になっていました。それで、ぜひ田村さんの書いた作品に出てみたいなと思って、その思いが今回のこの作品に繋がったんです。

登場する6人が一筋縄ではいかない人物ばかり

──今回の登場人物6人も、それぞれワケありな面白い人物ばかりですね。なかでも前作に続いて登場する岡本麗さんの初江とカゴシマジローさんの健が、相変わらずしたたかで。

本当に!(笑)でも初江さんみたいな人って実際にいるんですよ。口だけ達者で動かない人(笑)。稽古でも麗さんは自由な方なので、すごく楽しいです。私、麗さんとお芝居するのは、私が東京ボードヴィルショーで一番若手だった頃以来で、約40年ぶりなんです。その公演には、松金よね子さんと田岡美也子さんと麗さんが客演されていて、私たち若手はちょっとしか出ていなかったのですが、それ以来の共演です。

──松金さん田岡さん麗さんはずっと「る・ばる」で活動されていて、柴田さんも含めて喜劇をきっちり演じられる数少ない女優さんたちですね。

私もあんなふうに堂々と、男優さんと互角に笑いをとったり、1人で舞台を引っ張っていけるような役者になりたいなと思っていたので、今回、麗さんご一緒できて本当に嬉しいです。

──ほかの共演者の皆さんも個性的で、入院患者の寺田役のグラシアス小林さんは、なんと20年もスペインに行っていらしたそうで、フラメンコも踊れるとか

極めた方ってなんでもできるんだなと思いました。今回初めてお会いしたのですが、物語の中でも素敵に登場されますので、楽しみにしていてください。

──若手の方たちが演じる役もそれぞれ一筋縄ではいかないキャラクターばかりですね。

(カゴシマ)ジローちゃんの健は、オタクっぽい感じがすごくいいんです!しかもSNSに強いところを生かして活躍します。(森川)由樹ちゃんは私の娘の理子の役で、私たち親子が抱える問題も物語の中で次第に見えてきます。麗さんとジローちゃん親子は、2人の仲はうまくいっているのに世間と合わない人たちで(笑)、私たち親子は世間とはちゃんと付き合っているんですけど、親子としてはうまくいっていない。そういう2組が描かれていて、親子のあり方を考えさせられます。

──そして辻井彰太さんが演じるホスピスのスタッフ友野も、いかにも今の時代ならではという若者です。

私は若い人たちのゲームの話とかSNSの話とか全然わからないんですよね(笑)。でも若い人には、彼らなりの常識とか価値観があって、それは私たちとは違うもので、どちらが正しいとかではないと思うし、それぞれ正しいと思って生きていると思うんです。そういう世代間のギャップもこの作品では描かれていて、それはどんな仕事でもどんな現場でもあることで、それぞれ苦労はあるだろうなと思います。ただ、そういう意味では役者の世界は、けっこうフラットですよね。辻井くんだって役と違って本人はすごくちゃんとしてますし(笑)。

──演劇は生身の人間同士がきちんとぶつかり合わないと、作品ができないからでしょうね。

そしてそれを生で観ていただくからこそ面白いんだと思います。コロナ禍の中で、久しぶりに劇場で生のお芝居を観たとき、やっぱり生の舞台はいいなと、良さをしみじみ感じました。同じ空間にいるからこそ言葉だけでなく伝わるものがあるんですよね。

人の心の流れを大事にする田村演出

──稽古場の田村さんの演出はいかがですか?

自分たちが見過ごしがちな部分をきっちり見てくださるんです。「そうか、ここはこういう意味だったのか」と、改めて納得するような的確な演出で、芝居作りの面白さをすごく教えられます。細やかですし、イメージも伝えてくださるし、ギャグも面白く作ってくださる。なによりも人の心の流れとかそういうものをすごく大事になさるので、とても良い空気ができあがるんです。「そこがちゃんとその空気の色になっていく」というのが田村さんのお芝居で、そこがすごく好きです。

──脚本は日常会話なのですが、掛け合いや間の取り方などが難しい作品なのかなと。

そうですね。だからこそ、きちんと田村さんの演出の通りにやっていくことが大事なのですが、でもそういうことも含めて稽古がすごく楽しいです。今のこのコロナの時期に、芝居の稽古ができるその楽しさ、芝居をさせていただける有り難さ、それを毎日感じながら稽古をしています。

──そんな作品を観てくださるお客様にメッセージをぜひ。

舞台となるのはホスピスですが、出てくることはとても身近なことばかりです。今の時代、人間らしいというのはなんだろうとか、人を許さない時代になっているけれど、許すということは大事なことではないかとか、そういうことを笑いの中で考えていただければ。本当に面白い作品だと思いますし、コメディですので気持ち良く笑って帰っていただけます。ぜひ観にいらしてください。

しばたりえ○富山県出身。劇団東京ボードヴィルショーを経て、1984年、佐藤正宏や久本雅美らとWAHAHA本舗を旗揚げ。劇団公演のほかドラマや映画、バラエティー番組などで活躍中。レギュラー番組も多数。06年には映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』でハリウッドデビューした。近年の舞台は『淑女のロマンス』『梅と桜と木瓜の花』『雪まろげ』『わらいのまち』『芸人と兵隊』『くちづけ』など。

 

【公演情報】
トム・プロジェクト プロデュース
『狸の里帰り』
作・演出:田村孝裕
出演:柴田理恵 岡本麗 カゴシマジロー グラシアス小林 辻井彰太 森川由樹
●5/21~30◎東京芸術劇場シアターウエスト
〈料金〉前売5,500円 当日6,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
U-25(25歳以下)3,000円 シニア(60歳以上)5,000円
※U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.tomproject.com/peformance/satogaeri.html

【地方公演】
※地方公演は各地域の主催事業となります。お問合せは各問合せ先へ。
6月 5日(土)15:00
千葉県市川市 行徳文化ホール I&I ホール (TEL:047-379-5111)
6月 12日(土)19:00
北海道鷹栖町 たかすメロディホール (TEL:0166-87-2500)
6月 14日(月)19:00
北海道士別市 あさひサンライズホール (TEL:0165-28-3146)
6月 16日(水)18:30
北海道大空町 大空町教育文化会館 (TEL:0152-74-2367)
6月 19日(土)14:00
福井県越前市 いまだて芸術館 (TEL:0778-42-2700)
6月 21日(月)19:00
岐阜県高山市 高山市民文化会館 大ホール (TEL:0577-34-6550)
6月 23日(水)19:00
福井県美浜町 美浜町生涯学習センター なびあす (TEL:0770-32-1212)
6月 25日(金)19:00
石川県金沢市 北國新聞赤羽ホール (TEL:076-260-3555)
6月 27日(日)19:00
山形県大石田町 大石田町町民交流センター虹のプラザ (TEL:0237-35-2094)
7月 2日(金)19:00
宮崎県門川町 門川総合文化会館 (TEL:0982-63-0002)
7月 4日(日)14:00
佐賀県鹿島市 鹿島市生涯学習センター エイブルホール (TEL:0954-63-2138)
7月 5日(月)15:00
福岡県小郡市 小郡市文化会館 大ホール (TEL:0942-72-3737)

 

【取材・文/榊原和子 写真提供/トム・プロジェクト】

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