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東憲司の新作、トム・プロジェクト公演『にんげん日記』開幕! 小野武彦・高橋長英・村井國夫インタビュー

桟敷童子の東憲司が作・演出する新作『にんげん日記』が、10月27日に紀伊國屋ホールで幕を開けた。(31日まで。11月に宮城、福島で公演あり)
東憲司は主宰する劇団桟敷童子の劇団のみならず外部の公演でも活躍中で、トム・プロジェクトには3年ぶりの新作書き下ろしとなる。

物語は昭和24年、舞台となるのは老朽化で休業中の銭湯。
男はその銭湯で戦争に行った孫の復員を心待ちにしている。
或る日、男の幼馴染が2人転がり込み大騒ぎに…、
そして同じ日に孫の許嫁だという娘とその母親が現れて…。
戦後の迷路を生きる人間たちのおかしみや哀しみを浮かび上がらせ、「にんげん」の復興と再生を描く物語だ。

男性キャストには、小野武彦、高橋長英、村井國夫という「俳優座養成所 花の15期生」と呼ばれ、多数の有名俳優を輩出した期の名優3人が集結。女性キャストは、ドラマ・CMに加えて舞台でも活躍を拡げる賀来千香子、そして劇団桟敷童子を代表する若手女優の大手忍が出演する。その公演の男性キャスト、小野武彦、高橋長英、村井國夫が稽古も終盤の時期に、作品とお互いについて語り合ってくれた。

高橋長英、小野武彦、村井國夫

昭和24年という年にはそれぞれに焼け跡と空腹の記憶がある

──俳優座養成所の同期というお三方ですが、このような形での共演は初めてですね。

村井 そうですね。一緒に芝居をやるのは本当に何十年ぶりで、長英くんとは卒業公演以来かな。

髙橋 そうだね。

村井 だから新鮮だよね。こうやって年をとってきたんだなというのが垣間見えて。長英くんなんか若い頃やってたスタイリッシュなものから、今はリアルなものに変わってきてるけど、そういう変化も面白いなと思いながら。

小野 僕は2人とそれぞれ2作ずつやっているけど、それも20年以上前で、長英とは30年も前だからね。ただ僕は2人の舞台はけっこう観ていたから、そんなに一緒にやってなかった感じがしなかったんだけど、でも実際はこうして一緒にやるのは何十年ぶりだから、前のことはもう参考にならないし、初めて一緒にやるに近い感覚かもしれない。

髙橋 そう、だから他の公演の場合とそんなに変わらない。

──東憲司さんの作品は社会派的なアプローチを詩情豊かな演出で見せてくれますが、今回は戦後間もない昭和24年で、焼け跡にある銭湯が舞台となります。台本を読んでの感想から伺いたいのですが。

小野 僕は昭和24年にはもう生まれていて、この年に一番下の弟が生まれて、そのときのことも覚えているし、まだ空襲の焼け跡が町の中に残っていたのも記憶に残っています。でも当時は僕は7歳だったので、この物語で演じる75歳の人の生きてきた人生などは想像するしかない。本を読んだり、みんなと話し合ったりしながら、今稽古しているところです。

村井 その頃その年齢だった人の思想や考えは、僕らには計り知れないものがあるからね。それをそのまま再現するのは難しいし、再現する必要もない。今の僕らの感じていることでいいんじゃないかなと思っています。

髙橋 僕も7歳で、お腹を空かせていた記憶しかないですね。頭の中は食べることしかなかった。この物語の中には闇米の話が出てきますが、お米なんてろくに食べられなかった。おかゆにサツマイモや菜っ葉が入ってたり、白米なんてお祝い事以外ではあまり食べられなかった。

村井 僕の役が白米を三升、銭湯のみんなのためにドンと持ってくるけど、あれは本当にすごいことなんだよね。実際は玄米を一升瓶に入れて棒で突いてモミ殻を外して、みたいなことやってたんだから。

小野・髙橋 やった(笑)。

村井 僕は佐賀だから都会の人たちよりはちょっとマシだったんだけど、それでも芋がゆが多かった。それと防空壕もまだ残ってて、そこで遊んだりね。

髙橋 家が焼けちゃって防空壕から通ってる子もいたな。お風呂に入れないから虱が湧くんだよね。たまに学校のプリントとか渡しに行くんだけど、可哀想で見ていられなかった。

月乃湯を守る男とそこに転がり込む幼なじみ2人

──そんな時代に、幼なじみの3人が今は営業していない銭湯で一緒に暮らすことになるわけですが、持ち主の文ちゃんこと勝浦文之輔が小野さんですね。

小野 僕の役は元英語の教師で、親がやってた銭湯を自分の息子夫婦にまかせて、東京で教師をしていたんですが、関東大震災に遭って故郷に戻って暮らしていた。でも今度は空襲で親も息子夫婦も亡くしてしまったので、今は銭湯に住んで、出征した孫の福太郎の帰りを待っているんです。

──髙橋さんは煙突職人の松尾善太役です

髙橋 煙突職人はとっくに引退してるんです。年なので高い煙突とか登るのは無理なので。今は命綱があるらしいけど、当時はそんなものはなくて、外梯子を登って行って掃除していた。かなり危険な仕事だったと思います。その仕事ができなくなって、モク拾いをしたり細々と生きてきたけど、家賃を4年分も溜めちゃって、ついに大家さんに追い出されて、文ちゃんのところに転がり込むわけです。村井くんのツンコウ(波瀬常幸)は、家もあるし立派な家族もいるけど、善太は本当に困って転がり込まざるを得なかったんです。

──村井さんの波瀬常幸は、元建築会社の社長だった人です。

村井 会社を息子に譲って、息子からは「お父さんは引退したんだからのんびり生きてください」と言われてるのに、「おれはまだまだ」と思ってる。闇市で商売してみたり、生きる力が強いんでしょうね。でもどこかで自分の居場所も探してて、友だちのいるところに、家を追い出されたとウソをついて入り込む。それはたぶん家の者たちに自分がいないと寂しいと言わせたい気持ちもあっただろうし、それだけじゃなく、かつて自分が作った月乃湯をなんとか復興させたいという思いもあるんだよね。

亡くなった同期の分まで僕らでがんばらなきゃと

──今、あらためて同期3人で共演している中で、同時代を演劇という表現の中で生きてきた仲間として、作品と重なる思いなどもあるのでは?

小野 同じ風景を見てきたというのは確かにありますが、でもそれがこのお芝居の中に反映されるかということでは、ちょっと違うなと。60年前から友だちだから劇中の関係性も出るかというと、そこは僕ら自身の関係性とはまた別なので。劇中では文ちゃんと善太とツンコウという関係性で生きなきゃいけない。だから同期というのは実際には何の関係もないわけで。まあ、いやでも同期というのはあるんだけど、演じる上ではそれは関係ないと思っているんです。

髙橋 そうだね。

村井 僕はちょっとそこは違ってて、2人と一緒にいると安心というのがいつもあって、それは僕が実年齢では2人よりちょっと年下だから甘える部分もあって、だから劇中の幼なじみだったという空気感は、芝居じゃなく醸し出すものはあるかもしれないと思っているんです。

──外側から拝見していると俳優座養成所という出自によるインテリジェンスや演技の構築など、どこか共通の色を感じます。

小野 そういう意味では基本の部分は共通かもしれないけど、でも逆に言うと、卒業してからの俳優としての個人史はそれぞれ違うわけで。たとえば村井のミュージカルとか長英の映像や井上ひさしさんの作品とか、そういう意味ではそれぞれ個人的に違う授業を受けてきたなという気はしますね。

髙橋 うん。そういう感じだね。

村井 ただ同期も数が少なくなってきたからね。だから、出来るうちに長英さんと小野さんと一緒にやりたいなと、そういう意図もあってトム・プロジェクトの岡田さんが企画を考えてくれたんです。

小野 考えてみたら村井が言ったように、今や男性は僕らのほかにあと何人いるのかな。女性は三田(和代)さんと(栗原)小巻さんと演劇集団風をやってる辻由美子さんぐらいが現役なのかな? 三田さんとはお互いに観に行ったりするんだけど、だからといって同期たちに「今回3人でやるから観に来てよ」とはちょっと声をかけにくいというか(笑)。実際はすでに「観に行くよ」と言ってくれている人間が沢山いて、ありがたいんですけどね。そういう意味では、先に死んでしまった同期の分までがんばらなきゃというのは、どこかにチラッとあって。というか、生かしていただいてありがとうございますという気持ちがありますね。この10年ぐらいでだいぶ亡くなってしまったから。

村井 死に損ないもここにいるしね(笑)。

──すっかりお元気そうになって良かったです。そんなお三方の顔合わせだけでも楽しみなのですが、そこに賀来千香子さんと大手忍さんいうおふたりが加わります。賀来さんとは舞台では皆さん初共演ですね。いかがですか。

小野 僕の教え子の役です(笑)。

髙橋 英語を沢山喋る役なんですが、すごく上手ですよ。

村井 上手いよね。僕は英語の台詞がなくてよかった(笑)。

欠陥を抱えている5人を見てホッとしてもらえるかなと

──東さんの演出はいかがですか。

村井 いろいろダメだしされてます(笑)。でも本人はいつも通り優しいし、人間の機微とかうまく描いているなと。必ず出演者の写真を見ながら書くそうで、今回もそれぞれの個性をよく生かしていると思います。長英さんとは何本も一緒にやってるからそのまま純粋な善太という役を書いて、小野さんには出征した孫をずっと思っている情のある男を書いて、僕だけ嫌なやつで。

小野・髙橋 ははは(笑)。

村井 いや面白い役なんだけど、「声がエラそう」とか「上から目線な言い方をする」とか女性たちに言われる役で、よくそんなこと書くなと(笑)。でもとても楽しく演じてます(笑)。

髙橋 東くんは穏やかで無理な要求とか決してしないし、誰に対しても威圧的にならないんですよね。よくストレスがたまらないなと思いますが、でも僕は演出家ってそうあるべきだし、僕はそういう演出家が好きなんです。とくに彼は自分で書いて自分で演出しているから、役者にもいろいろ注文があると思うんですけど、それぞれの世界を尊重する。そういう意味では偉いなといつも思っています。

小野 演出はものすごくオーソドックスで真っ当ですね。僕は今回が初めてなんだけど、疑問をぶつけるとちゃんと答えてくれるし、ほかの人へのダメだしなどでも「なるほどな」と思う。見ていて僕がそっちのほうがいいなと思う方に、演出家としての志向がちゃんと向いている。すごく信頼しています。

──最後に改めてお客様への意気込みをいただきたいのですが。

髙橋 まだ七転八倒していますが、面白い作品になると思います。

村井 僕はこの2人と一緒にできるというだけで嬉しいし、沢山の人に観てもらいたいですね。もう80歳近い3人が、舞台でごちゃごちゃやっているのが滑稽と言えば滑稽でもあるし、観ていて楽しいんじゃないかな。僕も七転八倒してますが(笑)、きっと面白くなると思います。

小野 出てくる5人がそれぞれ欠陥を抱えている人間たちなので、そこがすごく愛くるしいし、いろんな欠点を持った人間が醸し出す空気は、お客さんにホッとしてもらえるんじゃないかと思っています。5人の芝居なので5人が醸し出す空気を感じてほしいし、今、スクランブル状態になって(笑)作っているので、それが劇場に行ったときにどうなるか。楽しみにしていてください。

高橋長英・小野武彦・村井國夫

おのたけひこ○東京都出身。俳優座養成所15期卒業、のち文学座にも在籍。『踊る大捜査線』シリーズ、『科捜研の女』シリーズなどをはじめ多数のドラマ・映画・舞台で活躍するベテラン俳優。近年の舞台は、『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』『近松心中物語』『お気に召すまま』『エジソン最後の発明』『ワーニャ伯父さん』『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』『るつぼ』など。TBS系『日本沈没』セミレギュラー出演中。

たかはしちょうえい○神奈川県出身。俳優座養成所15期卒業。舞台、映画、ドラマで存在感ある脇役として活躍。悲劇的な善役から狂気的な悪役まで、幅広い演技力を活かして多彩な役柄を演じている。第50回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。近年の舞台出演作に、『にっぽん男女騒乱記』『消えていくなら朝』『挽歌』『スィートホーム』『英国王のスピーチ』『子供騙し』『金閣寺』『ぺてんばなし』『エネミイ』『かもめ来るころ』『錦繍』『骨唄』など。映画『誰かの花』が12月に公開予定。

むらいくにお○佐賀県出身。俳優座養成所第15期生。映像や舞台で活躍、ミュージカルでも『レ・ミゼラブル』のジャベール役や『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授などで高い評価を得ている。第47回文化庁芸術祭賞、32回菊田一夫演劇賞、第19回読売演劇大賞優秀男優賞、第54回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。近年の舞台は、『獣唄2021改訂版』『砦』『獣唄』『LITTLE WOMEN -若草物語-』『黒白珠』『芸人と兵隊』『ストゥーパ~新卒塔婆小町』『黄昏』など。

【公演情報】
トム・プロジェクト プロデュース
『にんげん日記』
作・演出:東憲司
出演:小野武彦 高橋長英 村井國夫 大手忍 賀来千香子
●10/27~31◎紀伊國屋ホール
〈料金〉一般前売5,500円 当日6,000円 U-25[25歳以下]3,000円 シニア[60歳以上]5,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25・シニア券はトム・プロジェクトのみで販売。要身分証明書。前売当日とも同料金
〈チケット問い合わせ〉トム・プロジェクト03-5371-1153(平日10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.tomproject.com/peformance/ningen.html

【地方公演】
※各地域の主催事業となります。お問合せは各問合せ先へお願いします。
●11/12◎宮城県大河原町  えずこホール仙南芸術文化センター(0224-52-3004)
●11/13◎福島県白河市  白河文化交流館コミネス(0248-23-5300)

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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