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前へと進むエネルギーが爽快な風を運ぶ 京本大我主演ミュージカル『ニュージーズ』上演中!

1899年のニューヨークを舞台に新聞販売の少年たち“ニュージーズ”の奮闘を描いたディズニーの大ヒットミュージカル『ニュージーズ』の新演出による、日本初演の舞台が日比谷の日生劇場で上演中だ(30日まで。のち、11月11日~17日まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演)

ミュージカル『ニュージーズ』は、『美女と野獣』『アラジン』『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』など数々のヒット作を生み出し、アカデミー賞8度の受賞を誇るアラン・メンケン音楽。ジャック・フェルドマン作詞。そして『ラ・カージュ・オ・フォール』『トーチソング・トリロジー』等で知られ、トニー賞4度受賞のハーヴェイ・ファイアスタインが脚本を手掛けた作品。今回は、オリジナル版と異なる演出・振付、ビジュアル・コンセプトでの創作という条件のもと、『エリザベート』『モーツァルト!』『レディ・ベス』『1789-バスティーユの恋人たち-』『ロミオ&ジュリエット』など、多くの海外ミュージカルを日本に定着させ続けている日本ミュージカル界の巨匠・小池修一郎の演出・日本語詞・訳詞、『エリザベート』の皇太子ルドルフ役など、ミュージカル界での活躍も目覚ましい京本大我を主演に迎え、爽快な躍動感のなかにひと匙のペーソスも併せ持つ、卓越した舞台が展開されている。

【STORY】
1899年、夏のニューヨーク。新聞を販売して暮らしているジャック(京本大我)は、足の不自由な友人クラッチー(松岡広大)をはじめ、多くの孤児やホームレスの同じ新聞販売少年たち“ニュージーズ”と共に日々を過ごしていた。ジャックは、いつかニューヨークを出てサンタフェへ行くという夢を抱いているが、現実にはその日の糧を得るのが精いっぱいの生活が続いている。

ある日、ジャックはデイヴィ(加藤清史郎)とその弟レス(生出真太郎、西田理人、ポピエル マレック 健太朗/ トリプルキャスト)と出会う。デイヴィとレスは他のニュージーズとは異なり、家と家族があるが、父親の失業によってニュージーズに加わったばかりだった。ジャックは幼いレスを使えばより多くの新聞を売ることができると考え、二人に協力することにする。だがその頃、「ワールド」紙のオーナーであるピュリツァー(松平健)は、低迷している新聞販売利益を回復しようと、販売価格は据え置いたままニュージーズへの卸値を引き上げることを企てていた

そうとは露知らぬジャックは、ある過去の出来事を理由に感化院のスナイダー(平野瓦)に追われ、かねてから懇意の劇場主メッダ(霧矢大夢)の劇場に逃げ込み、ショーの劇評を書く為に取材に来ていた女性新聞記者キャサリン(咲妃みゆ)に出会う。

翌朝、新聞100部あたり50セントの卸値が、60セントに値上がりしていることを知ったジャックは、自分たちの生活と権利を守るべく、ニュージーズを率いてストライキの断行を決意。ジャックの姿に心を動かされたキャサリンは、ストライキを追った取材記事を書こうと奔走する。

勝つのは権力者ピュリツァーか、それとも若きニュージーズか。今を懸命に生きる少年たちの未来に待っているものとは……

新聞と言えば宅配か駅のスタンドで売られるもの、というイメージが強い日本とは異なり、この作品の舞台となっている1899年当時のアメリカ・ニューヨークでは、新聞は路上で新聞販売の少年・少女たち=ニュージーズから購入するのが一般的だったそうだ。しかも彼らは日本でもある時期まで、学業と両立する仕事として若年層が多く従事していた、新聞を配達して決められた賃金をもらう「新聞配達少年」ではなく、自らその日に売る新聞の部数を決め、新聞社から仕入れて路上で売る「新聞販売個人事業主」だったというから驚かされる。つまり、売り上げは全てニュージーズたちの利益になるが、新聞社が売れ残った新聞の返品には応じていなかった為、売れなかった新聞の仕入れ値分の損益もすべてニュージーズたちが背負うかたちになり、その多くが8歳~15歳の幼き自営業者だったのだ。

この作品は、そんな二ュージーズたちに対し、新聞社がライバル会社との競争を勝ち抜き、低迷する売上高を望む水準に戻す手っ取り早い手段として、突然卸値を釣り上げたことから、実際に起こったニュージーズのストライキに着想を得たもので、彼らの団結と闘いが描かれていく。と書くと、シビアな社会派作品を連想するやもしれないが、舞台にはスピード感とダイナミックさを備えた、多種多様なダンスナンバーがあふれていて、観ている側もあっという間に高揚感に満たされていく、これぞミュージカルの醍醐味が眩しい。もちろん、ニュージーズたちのおかれた境遇はとても厳しいし、仲間たちは次々にアクシデントに見舞われる。それこそひとり一人が個人事業主の彼らの立ち位置は様々だし、地域の縄張りもあれば、競争もある。団結は一筋縄ではいかない。けれども彼らは常に誇りとウイットを持ち、目の前にある壁に立ち向かっていく。バレエ、ジャズ、タップ、アクロバット等々、様々なジャンルのダンスにこめられたその様を、彼らが豪快に踊り、歌い前へ、前へと向かうとき、発するエネルギーは爽快な風になる。それは、コロナ禍以降更に深刻さを増している「最早格差社会ではない。階級社会だ」とまで囁かれる日本の厳しい現実をも、吹き飛ばしてくれかに思われるパワーに満ちている。

何よりもいいのは、このストライキを率いることになる主人公・ジャックが、決して鉄壁のヒーローではないことだ。仲間を鼓舞しながらも、進展を見ない現実に迷い、このままひとり憧れの「サンタフェ」に逃げていってしまいたいとまで思い惑うジャックがリアルだからこそ、物語の進展にドキドキし、次はどうなる?という気持ちが掻き立てられる。ヒロインのキャサリンも同様で、この時代社交欄を任されるのが精一杯の女性記者が、新聞社が望まない取材記事を書くために、頭を打ち、転んでは起きて進んでいく様には、どうしたって応援したい気持ちが募る。そんなリアルを抱えた二人が偶然に出会い、惹かれ合う美しいミュージカルナンバーに乗せたファンタジーが更に絶妙だ。演出の小池と、装置の松井るみが、そんなリアルとファンタジーを空高く舞い上がる絵として見せた美も際立ち、さすがは手練れの仕事。日本版『ニュージーズ』に大きな花を咲かせている。

そのジャック役に京本大我が扮したことが、日本初演を成功に導いた大きな要因を占めたことは論を待たないだろう。本来2020年4月に上演予定だったこの作品が、コロナ禍により1年半の延期を余儀なくされたことさえもが、京本にとって、ひいてはこの作品の日本初演にとって、ある意味プラスに働いた面もあるのかもしれないと思えたほど、ミュージカル『エリザベート』のルドルフ皇太子役で、繊細な憂国の貴公子がピッタリとハマっていた京本から、精悍な青年らしさと、リーダーとしてのカリスマ性が発揮されていたのに目を瞠る。それでいて、ジャックの心が折れかかる瞬間「情けない」でも「しっかりしろ」でもなく「頑張れ!」とひたすら声援を送りたくなる甘い美青年の横顔も役柄を見事に支えて惹きつける。キレのあるダンス力はもちろんのこと「サンタフェ」を歌い上げる歌唱力に特段の進歩も見られた、十全の主演ぶりだった。

ヒロイン・キャサリンの咲妃みゆも、宝塚時代から群を抜いていた愛らしさはそのままに、地に足をつけて欲するものを果敢に取りに行こうとする才能ある女性を活写している。天性の芝居勘の良さがますます磨かれてきているし、大舞台の中心にいることへの経験値の高さが力になり、非常に難易度の高いミュージカルナンバーも歌えば、タップダンスも軽やかにこなして盤石。華やかな京本と並んで遜色がないのも魅力で、宝塚時代雪組トップ娘役として初お目見えを果たした同じ日生劇場で、ミュージカル女優として輝く咲妃に出会えた感慨もひとしおだった。

ジャックが弟のように心を配る足の不自由な孤児クラッチーの松岡広大は、抜群の身体能力が終始松葉杖を使う役柄に活かされた様に驚くべきものがある。ニュージーズたちとは振付が異なりつつ、群舞にちゃんと入っているクラッチーの松岡にかかる負荷は、思いっきり踊れないだけに想像を絶するが、ここまでその表現を貫ける離れ業に舌を巻いた。もちろんそればかりでなく、ジャックに助けを求める展開での切なさや、ジャックを想う心根が、常のコケティッシュな態度との対比になっている演技も見逃せない。

他の少年たちとは異なるバックグラウンドを持つデイヴィ役の加藤清史郎は、ニュージーズのなかの知性派という位置取りが巧み。実は常に行動を共にしている弟のレイの方が、現状認識力に長けていて、すばしっこい面さえあるのだが、新たにニュージーズとなった彼が、次第にジャックのサポートをする立場になっていく変化が自然で、この作品に懸ける情熱を感じさせた。その弟レイは生出真太郎、西田理人、ポピエル マレック 健太朗の子役陣トリプルキャストだが、ニュージーズを引っ張るメンバーの一人と言って過言ではない大役で、溌剌とした姿に見応えがある。

彼らと共に団結していくレースの石川新太を筆頭としたニュージーズたちが所せましと大活躍。オーケストラピットにあたる部分からの様々なパターンがある出入りも楽しく、桜木涼介、AKIHITO、Ron×IIの日本版に命を吹き込んだ振付に全力で応えた姿に拍手を贈りたい。

また、ジャックの才能や人柄を認めて彼を支える、バーレスクのスター兼劇場主のメッダの霧矢大夢が、絵に描いたような気風の好い女性を元宝塚トップスターの押し出しも豪快に加え、生き生きと演じている。ただ優しいだけではない、非常に核心を突いたセリフも耳に残り、高音域のナンバーの歌い上げもますます充実していて、作品に豊かさを加えていた。

そしてニュージーズへの新聞の卸値を引き上げようと画策する新聞社オーナー・ピュリツァー役で松平健が登場。ピュリツァーと言えばなんと言ってもジャーナリズムや、文学、音楽で優れた業績を残した人物に贈られる「ピュリツァー賞」のイメージが絶大なだけに、この作品では自社の利益さえ守られればよいという、いまの時代にむしろたくさんいそうな経営者として描かれていることに驚きがあったが、大ベテランの松平が演じることで、この食えない男にどこか愛嬌もにじみ出ていたのが、何よりの効果になっている。

他にセオドア・ルーズベルトでの登場に大きなインパクトを残せる増澤ノゾム、ピュリツァーへの反応のいちいちがクッキリしているハンナの桜一花、サイツの松澤茂雄をはじめ大人たちも充実。さりげなく手がこんでいる生澤美子の衣裳も役柄をよく表していて、ミュージカル界に収穫の多い2021年の上演作品のなかでも、大きな光彩を放つ作品になっている。

【公演情報】
ミュージカル『ニュージーズ』
作曲◇アラン・メンケン
作詞◇ジャック・フェルドマン
脚本◇ハーヴェイ・ファイアスタイン
演出・日本語訳・訳詞◇小池修一郎(宝塚歌劇団)
出演◇京本大我(SixTONES)
咲妃みゆ 松岡広大 加藤清史郎
霧矢大夢 松平健 ほか
●10/9~30◎日生劇場
〈料金〉S席14,000円 A席9,000円 B席4,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉 東宝テレザーブ 03-3201-7777
●11/11~17◎梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉S席 14,000円 A席 9,500円 B席 5,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場メインホール  06-6377-3800
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/newsies/

 

【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝演劇部】

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