【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.91「10年」
お、どうしたのかな?ポーズなんてとっちゃって。
なんとも微妙な表情をしているね。
照れかな?きっと照れだね。写真を撮ってるのがお父さんだもんね。
お父上の故郷、桜島をバックに、照れ隠しからの、そんなポーズだったのだね。
ちょうど10年前の君は、35か。
普通の社会人からしたら立派な大人だけど、演劇人としての君はまだまだペーペー。
俺まだ若手っす!感が滲み出てるね。なんかちょっとイラッとするね。
半年後にあんな大震災が起こるなんて想像だにしてなかっただろうし、
1年半後に、岸田國士戯曲賞を受賞するなんて微塵も思ってなかっただろうし、
東京から離れて広島や静岡や北九州などで創作することも、
6年後に1600人の高齢者の演出をしてるなんて微塵も想像してなかったろうし、
ましてや8年後にパパになってるなんてね。
そして10年後に、間近であーだこーだ言いながら見るはずだったオリンピックが開催されることもなく、やれて当たり前だった演劇活動を止められるとはね。
それと、どうでもいいけど、この時ピークだと思ってた体重も年々ゆうに更新していくなんて思ってもいなかったし。
まあ要は、何があるかわからないってことですかね。当たり前だけど。
今日明日何があるか分からないから今を大事に生きよう。
しょっちゅう思うけど、結局そんなきちんと生きれないっす。
でも、10年前の君よりも今の僕の方がちょっと好きなのは、小さな幸いな気がしている。
いや、もちろん10年前の君があってこそだけどね。よう生きた。
それだけでヨシとしよう。今日のところは。
今度は、10年後の君からの目線も、楽しみにしようじゃないか。
【著者プロフィール】
ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された
【今後の予定】
新国立劇場「ピーター&ザ ・スターキャッチャー」
作:リック・エリス 原作:デイヴ・バリー、リドリー・ピアスン 音楽:ウェイン・パーカー
翻訳:小宮山智津子 演出:ノゾエ征爾
2020年12月5日、6日 プレビュー公演
12月10日~27日 東京公演( 新国立劇場・小劇場)
https://www.nntt.jac.go.jp/play/peter-and-the-starcatcher/
▼▼前回の連載はこちら▼▼
http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe90/
Tweet