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【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.90「仕方のない夏の思い出2」

ここに来て、夏が急速に終わりの匂いな感じですが、
夏の思い出第二弾。
前回の続きです。
そう、あの自転車で浜名湖の砂丘を目指す旅が、静岡にも入れないまま挫折に終わってから、一年後の夏、21歳くらいだろうか。
自転車では無理があると学んだせいじくんは、自動車の普通免許を取得し、原付バイク・カブを手に入れた。
カブならそうそうお尻も痛くならないし、座ってればいいので、どこまでも行けるっしょ!
とばかりに、今度は、日本海をまだ見たことがないなあと、見に行くことにした。
いつでも野宿もできるようにと、やはり寝袋なども背負って。
神奈川の家からひたすら北上すればいいんでしょ?
日本地図のミニブックを潜ませて、分割払いで買ったばかりの黄色のカブでいざ出発。
と、いきなりの大雨に見舞われる。
雨になんて負けるものかと、若かりしせいじくんは歯を食いしばり、車にびゃんびゃん追い抜かされ、雨水を飛ばされながら、カブをひたすらに地道に走らせる。
日も陰ってきて、新潟までもう少しってところの、群馬の外れで一泊することに。
これまた、大雨では寝袋はキツいですねと、迷いなく民宿に泊まる。
雨で若干身体は冷えたものの、お尻も痛くないし、なんとも無問題な旅路だ。
カブの旅、最高じゃんか。
翌朝は見事に晴れ渡り、最高な滑り出しだ。
山の中で、新潟に入った。
しばらくすると、山道から見える景色の綺麗なこと綺麗なこと。
昨日の雨で、山に絶妙な霧がかかっていたのだ。
今でも、雲の模様とか永遠に見てられるほど大好きなせいじくん。
そんな山からのモヤ景色に見惚れて走っていると、
パァーーーーン。
突き刺さるようなクラクション。
前を向くと、巨大なトラックが目の前に。
景色に見惚れて完全によそ見をしていたせいじくんは、左カーブを直進してしまい、対向車線に突入、
トラックに正面から突っ込まんとしていた。
そこからは、スローモーションで覚えている。
このままでは真正面から突撃すると思い、慌てて転ぶ。
転んで、地面を滑り、トラックの下に入りこむ。
タイヤが二本づつな巨大なトラックのそのタイヤに跳ねられ、路上をクルクル回る。
回転はすぐに止まる。
後続車に轢かれると思い、頭を抱える。
・・・ん? 後続車が来ない・・。
見ると、トラックも、後続車もみんな停まっていて、人々が降りてくる。
急に恥ずかしくなり、
「俺、大丈夫す!すいませんでした!」
急いで起き上がってカブを起こそうとしたら、カブがWOWペシャンコだ。
私は運良くタイヤに跳ねられたけど、カブはタイヤに潰されていたのだ。
逆だったらと思うとゾッとした。
ゾッとしてる目の端で、カブを何人かで道の脇に運ぼうとしていた親切なおじさんの一人が、
マフラーを素手で持ってしまい、ジュっ、手を火傷していた。
事故以上に申し訳ない気持ちになった。
程なくして、山の麓の駐在所からパトカーがやってきて、人の良さそうなお巡りさんが対応してくれた。
「このカーブは事故の名所で、また悲惨な死体を見る羽目になるのかと思ったら、目がくりくりの坊主頭の青年(当時私は何を思ったか坊主頭だった)が立っててホッとした」と。
そうしてせいじくんは、身体は幸いにも擦り傷と、打撲だけだったので、
駐在所まで乗せてもらい、そこでちょこちょこと事故の整理などして、あえなく電車で帰路に着くのだった。
休日はバイクを乗り回しているというお巡りさんは、とにかくとっても優しかった。
上野に着いた時、軽い打撲と思ってた太ももが、歩けないほどに痛みを増していて、人の手を借りずには歩けない状態になっていた。
人の肩を借りて歩く中、ちょろっと涙が出た。
後日、群馬の外れのその駐在所に、軽トラをレンタカーして、潰れたカブを取りに行った。
なんか悔しくて、ローンを払い終えるまでは手元に置いてたのを記憶している。

 


【著者プロフィール】

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された

 

【今後の予定】

PARCOプロデュース
「ボクの穴、彼の穴」
原作◇デヴィット・カリ
翻訳◇松尾スズキ
脚本・演出◇ノゾエ征爾
出演◇宮沢氷魚 大鶴佐助
2020年9月17日~23日
@東京芸術劇場プレイハウス
https://stage.parco.jp/program/bokuana2020

▼▼前回の連載はこちら▼▼

http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe87/

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