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傑作ミュージカル『アルジャーノンに花束を』間もなく開幕! 水夏希&大月さゆインタビュー

ダニエル・キイスの代表作として今も世界中で読み継がれている「アルジャーノンに花束を」。32歳になっても幼児程度の知能しかない青年チャーリー・ゴードンが、実験的な脳手術によって手術を施した医師たちをも上回る天才に変貌していったことで、大きく変わっていく数奇な運命から、本当の幸福とは?が、照射されていく作品だ。

この世界的名著を劇作家・演出家荻田浩一が浦井健治主演で2006年にミュージカル化。2014年の再演ののち、2017年主人公チャーリー・ゴードンに矢田悠祐を新たに迎えた上演が実現。回を重ね深化する作品の切ない美しさが、高い評価を得ている。

そんな作品が、10月15日~11月1日、銀座の博品館劇場で4度目の上演を果たすことになり、2017年版から出演している水夏希と、2020年版の今回初出演となる大月さゆ、共に宝塚歌劇団雪組で同じ時代を過ごしている二人が、新たな公演に向けての想いを語ってくれた。

水夏希 大月さゆ

台詞を忘れたいと思っている

──改めて作品に感じるところから教えて下さい。

 初演から台本は全く変わっていなかったのですが、今回の上演で初めてマイナーチェンジをしています。でも、やはり何よりも、長年愛されてきた作品の力を強く感じていて。特に私が演じるアリス・キニアンが原作とは異なり、チャーリーより年上という設定になっていることで、先生であり、保護者であり、母親の象徴であるので恋愛の対象に応じかねるという葛藤が活かされるなぁと。荻田(浩一)さんの脚色の素晴らしさを演じれば演じるほど感じますね。前回の、矢田悠祐君の初主演公演から、私も初めて作品に参加させて頂きましたが、その時は必死で覚えて、必死で演じていましたが、今回はよく知っている世界観の中に再び入っていくので、台詞もスッと思い出せましたし、流れが頭に叩き込まれている分、色々なところで小さな発見ができています。宝塚歌劇団時代に演出家の正塚晴彦先生に「台詞を忘れろ」という趣旨のことをよく言われていて、「そんなこと言うと本当に忘れちゃうよ!」と思っていたのですが(笑)、再演になるとその境地にチャレンジできるところがあるなと感じます。

大月 前回公演は、私は客席から拝見させて頂いて。その時から思っていましたが、本当にひとり一人のキャラクターが深く描かれていると感じていました。そんな作品に今回初めて参加させて頂いていて、演出の荻田さんのお稽古が、全く新しく一から、という創り方なので、初参加メンバーの一人としてはとてもありがたいのですが、それでもやはり前に経験されている方はふわっとそこに加わっていかれるので、正直焦りはあります。

 それはそうだよね。そうだと思う。

大月 今チカさん(水の愛称)がおっしゃったように台詞が既に身体に入っている方々がいらっしゃるところに、どうしたら自分が追いつけるのか。特にとても深いお話、深い役柄なので、今もその葛藤は続いています。でも反面でそれは凄くありがたいことでもあって、皆さんが演じていらっしゃるのを観ているだけで、気持ちを運んでいって下さいますから、過度に構えることなく、皆さんに寄り添って演じないといけないと感じています。

──今深い役柄というお話がありましたが、改めてご自身の演じる役柄についてはいかがですか?

 前回も思いましたけれども、私が本来持っている強さが出てしまう時があって。アリスも強い女性ですが、細くて尚強いというのが私自身の強さとは違うので、そこを細かく調整していきたいなと思っています。特にチャーリーとの関係性のグラデーション、距離がとても近づいたあとに、また遠くなる。でも単純に離れるのではなく、遠くなることによって人間愛に近づいていく部分を、丁寧に演じたいです。場面としては飛んでいるので、その間を如何に埋められるかだと思っています。

大月 私が演じるのはチャーリーの母親でもあり、彼にずっと影響を与える役で、劇中のチャーリーと同時に、演じている矢田君にどれくらい影響を与えられるか?という部分がありますから、ある意味事前に考え過ぎずに、その瞬間、瞬間に生まれたものをキャッチしていくことが大切だなと思っています。何よりも母親として愛情を持って傷ついていけるかが課題で。役としての気持ちもそうですが、自分の肉体をどう使っていくか。荻田先生はその身体的な部分についてもたくさんアドヴァイスを下さるのですが、やはりいざ舞台に出る時には1人なので、その時にどれほど頭では描けていても、身体の状態が違っていたら、別のものなってしまいますから、私も台詞を忘れたいと思っていて。頑張らずに母親としてそこに持っていけるようになりたいです。

 お母さん辛いよね?

大月 辛いです。1人で台本を読んでいる時には想像できていなかったほどの辛さがあります。

 アリスがチャーリーのお母さんと同化するようなシーンがあるから、そこはなっちゃん(大月の愛称)のお母さんに重ねて演じるので、私も前回とは全く違う感覚ですね。チャーリーの目から見た母親像とアリスが重なる。それによって超えられない厚い壁や生まれる複雑さがあって、荻田先生の着眼点が素晴らしいですね。アリスの設定を年上にしたことで成立している部分なので、とても面白いと思います。

誰よりも大変な役なのに、辛さを見せない

──主演の矢田さんとはいかがですか?

 チャーリーが持っているであろう明るさ、朗らかさを矢田君自身が持っているので、矢田君に救われる稽古場です。私達がどんなに大変でも、矢田君には敵わない!というくらい、本当に大変な役なんです。もうあまりにもやることが多くて。でも彼は辛い顔も悩んでいる姿も1ミリも見せずに、常に前向きに取り組んでいて。初主演の時からそうでしたが、今回もその姿勢と存在に癒されています。

──前回、水さんは「初主演」というのは特別なことだから、自分の経験も踏まえて矢田さんを盛り立てていきたいとおっしゃっていましたが。

 そうですね。当時よりも更に、離れていても信頼できるという感覚が強くなっています。その分やはりチャーリーとアリスの関係を安心して描くことができています。

大月 常に自然体でフラットな方なんです。過度に力が入るでもなく、ナーバスになるでもなく、お稽古が始まると自然にチャーリーになり、休憩になると自然に矢田君になる。それがとても自然なのが凄いと思っています。彼自身も一から創り上げる気持ちでお稽古場にきて下さっているので、相談もしやすいですし、たまに言う冗談も面白いです(笑)。

──今回のカンパニー全体ではいかがですか?

 4人初参加の方がいらっしゃるので、凄く新鮮です。同じ台詞なのに全く違って聞こえたり、台詞の意味を改めて知ったりもできているので、面白いです。

大月 私はその新しいメンバーの1人で、皆さん楽しい方ばかりですし、戸井勝海さんがなんとも温かくて!

 わかる、わかる!

大月 本当に新鮮に全ての場面をされていらして。

 戸井さん3回目なのにね。

大月 私自身も経験のあることなのですが、再演を重ねているとどうしても前回演じたことを守りたくなったりするんです。でも皆さんもそうなのですが、戸井さんは「戸井さんも初参加組!?」と錯覚してしまうくらい、前のものを全く追わずに私達に合わせて演技プランをゼロから作り直して下さるので、4人が新しく入ったということをほぼほぼ意識しないでいられるほどです。

 シーンとしてもダンスが増えていたりもするので、客観的に観ていても面白いのですね。前回ご覧になっている方にも新鮮に観て頂けるのではと思っています。

こんなに面白い人だったっけ?と

──宝塚歌劇団時代からご縁のある荻田浩一先生についてはどうですか?

 荻ちゃん(荻田)との仕事は退団してから何回目?

大月 4回目です。

水 私も何度もご一緒しているのですけど、宝塚時代よりも楽しい雰囲気だよね?

大月 それはあります。こんなに面白い方だったっけ?と。

 やっぱり宝塚の時には「宝塚歌劇団演出家・荻田浩一」という、ひとつ背負っていたものがあったんだなと思う。

大月 キャストの人数も多いし、下級生をどんどん育てないと、という部分もきっとありますよね。

 そうそう、時間もないしね。でも今はまるで翼がついているかのようで(笑)、夕方6時を過ぎてくると、もう宙に浮いている感じで、いつ飛び立つかわからない。

──フリーダムなんですね?

 もうめちゃめちゃフリーダムです!

大月 作品が描いているものが深いので、物語の重さに場の空気が持っていかれそうになるところを、見事に明るく導いて下さって。そんなツッコミどうやって思い付くの?というようなことも多くて。

 頭の回転が凄いからね。あっという間に脱線するし(笑)。しかもその脱線した話にうっかり乗ると「ほら、脱線してるよ」って言うから。「キミが言い出したんじゃないか!」と思うんだけど(爆笑)。

大月 決して笑えないシーンのすぐ後に、とても面白いことを言い出しますよね!

 この作品で神経質なピリピリした演出家だったら辛くて仕方がないと思うから、それはありがたいのですけどね。

──稽古場公開などで垣間見る印象では、演出席に全くお座りにならない方だなと。

 そうそう!いつも演者に混ざっています!もちろん彼が創り出す世界観に関してはすごくシビアな、明確なビジョンがあるので、そこにきちんと導いて下さいますし、その上で明るく楽しい稽古場なのがありがたいです。

大月 ちょっと位置を間違っても「ここにいなかったっけ?」と言われて。全場面が絵として記憶されているんだなと驚きます。

水 頭の中がどういう構造になっているんだろう?と思うことも多いですね。

男性と女性ではメンタルが違うんだと思う

──そして、お二人もまた宝塚歌劇団雪組で過ごされた間柄ですが。

 この間並んだ時に「あれ?私なっちゃんとこんなに身長が違うんだっけ?」と思ったんだけど「そうか、私は男役でなっちゃんは娘役だったんだ!」と改めて思いました(笑)。

大月 でも水さんはお変わりにならないです。同じ男役出身の方でも声色から変わられる方もいらっしゃいますが、水さんは稽古場での居方や、立ち居振る舞いも極自然で。違う感覚だなと思うのは、母性があふれてくる!と感じられるところです。それは前回客席からアリス役を演じていらっしゃるのを拝見した時にも思ったことだったのですが、形ではなく内面から発していらっしゃるものが違っているのがすごいなと思っています。あとはやはり男役時代は全く人前で涙を見せない方だったので、そこは新たな水さんだなと。

 やっぱり今の稽古場でも矢田君や戸井さんたち男性陣はあまり泣かないでしょう?  矢田君なんか今にも泣きそうなんだけど涙はほとんど流れない、泰右ちゃん(和田)もそうだし。やっぱり男性と女性ではメンタルが違うんだと思う。

──お互いの魅力についてはどうですか?

 私たちは特に宝塚時代に植田紳爾先生の作品「植田歌舞伎」と呼ばれる世界を多く演じさせて頂いていたので、身体がどうしても正面に開くところがあるんです。でもなっちゃんはちゃんと相手に対面して喋るので、こういうお芝居をする人だったんだ!と新鮮です。宝塚時代も「ザ・娘役!」というタイプの人ではなかったですが(笑)、でもやっぱり宝塚イズムの中での役柄を見てきたので、今はもっとなっちゃんにフィットした表現をしていて素敵だなと思います。

大月 娘役として見ている時には、「素敵な男役さん!」という恋する気持ちでいましたが、チカさんって、決して大きくアピールされているわけではないのに、気が付くと吸い寄せられている、一緒に泣いてしまうものをお持ちなのが、不思議なほどで。1人の女性として本当に魅力的な方だなと感じるし、女性を演じているのを今回間近で観ることができるのも幸せです。

14年ぶりに加わった新曲

──また、この作品は音楽的な魅力も大きいですが。

 そうですね!でもいざ歌うのは難しいです!

大月 「難しい」って言ってもらって安心しています。「そうですよね?難しいですよね!?」って(笑)。

 そうそう!でも作曲の斉藤恒芳先生はただ音楽を創るだけではなくて、とても深くお芝居を理解していらして、キャラクターや作品の世界観を音楽に乗せてこられるんです。例えばここではこのリズムが役のドキドキした気持ちを表している、などがあるので、それをちゃんと理解して受け取って歌えば上手くいくようになっているので。

大月 今回新曲もありますよね?

 そうなの。初演から14年ぶりに加わった新曲を歌わせて頂くのですが、新しいけれども、きちんと作品の世界観につながる楽曲なのが凄いと思います。でも難しいんですけど(笑)。

──その新曲も含めて、新たな公演が楽しみですが、まだ感染症予防対策など、さまざまな工夫も多くある中で、この公演に向かう意気込みを是非。

大月 やはり孤独で不安な時間が長かっただけに、お稽古場にきて同じ目標を持った人たちと一緒に初日を目指せる、時間を共有できるって本当に素敵なことなんだと再認識できました。お客様とエンターティメントを共に体感できるのがどれほど尊いことかも感じていて。まだ難しい状況が終わった訳ではありませんが、コロナ禍に見舞われた今も、人間にとって大切なものは変わっていないと感じられる作品ですので、是非それを実感しに劇場にいらして頂けたらと思っています。

 宝塚時代にも組替えのタイミングで2ヶ月ほど何もない時期があったんですけど、そういう時間ができた時というのは、様々な思いが去来しますが、再び舞台に立ってお客様の拍手を頂けた瞬間に全てが昇華される、勇気と癒しをもらえました。舞台に立てることは当たり前ではなかったんだと感じる多くの時間が今年はありましたが、改めて自分がどんなに舞台が好きなのかを再確認できた時間でもあって。その中で『アルジャーノンに花束を』を上演する博品館劇場は換気の良い安全な劇場なので、安心してご来場頂けると思っています。本当に心を揺さぶられる作品ですので、是非それを体感しにいらして下さい!お待ちしています!

水夏希 大月さゆ

みずなつき○千葉県出身。1993年宝塚歌劇団入団、07年雪組男役トップスターに就任。10年に退団。以後は舞台を中心に活躍中。最近の主な出演作は、Dramatico-musical 『BLUE RAIN』『カリソメノカタビラ~奇説デオン・ド・ボーモン~』『嘘と勘違いのあいだで』ミュージカル『アルジャーノンに花束を』、『パンク・シャンソン』~エディット・ ピアフの生涯~、『ラストダンス-ブエノスアイレスで。~聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』、『Pukul』、『一月物語』、『Flamenco マクベス ~眠りを殺した男~』、ミュージカル・コメディ『キス・ミー・ケイト』『ベルサイユのばら45~45年の軌跡、そして未来へ』『細雪』など。

おおつきさゆ〇2003年宝塚歌劇団に入団。雪組に配属され、娘役として下級生の頃から数々の重要な役を務める。 2007年『エリザベート』新人公演にてエリザベート役、『シルバー・ローズ・クロニクル』『凍てついた明日』などではヒロインに抜擢。 2010年宝塚歌劇団退団。女優としてミュージカルや舞台作品を中心に多彩な活躍を続けている。退団後の主な出演作は、『シスター・アクト』『デスノート』『美少女戦士セーラームーン』『ふるあめりかに袖はぬらさじ』『うつろのまこと―近松浄瑠璃久遠道行―』『マイ・フェア・レディ』『HARUTO』など。また、いしかわ観光特使、石川県能美市観光大使として地元でも活動を行っている。

【公演情報】
ミュージカル『アルジャーノンに花束を』
原作◇ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」(ハヤカワ文庫)
脚本作詞・演出◇荻田浩一
音楽◇斉藤恒芳
出演◇矢田悠祐
大月さゆ 元榮菜摘 青野紗穂/大山真志 長澤風海 和田泰右
戸井勝海/水夏希
●10/15~11/1◎博品館劇場
〈料金〉10.000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉博品館劇場 03-3571-1003
〈公式サイト〉https://music-g-h.com/stage/algernon/

【取材・文/橘涼香 撮影/田中亜紀】

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