【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.101「コメディの定石を地でいく」
バッハさんは、もっとブラブラできる予定だったのだろうけど、思いのほかブラブラしている人がたくさんいて、写真攻めにあって、ん~思ったほどブラブラできなかったデースな感じだったろうか。批判が渦巻く中、大臣は、「不要不急かどうかは自分で判断すればいい」と。
ボン。
様々なモヤモヤに苛まれているこの頃なのだが、そんなモヤを吹き飛ばしてくれるような事が、我が家では日々起きているからありがたい。
私の妻は面白い。
自信を持って言えることって少ないのであるが、これは自信を持って言える。
私の妻は面白い。
この頃、息子がそれなりに自分で食べれるようになってきて、しかし、そんなにお腹空いていなかったり興味のない食事の時などは、全くお箸が進まない。
先日、また息子のお箸が進んでいないので、私が息子の口に食事を運んであげていると、妻にガガガンと叱られた。一人で食べれるから!と。
私は即座に動きを止めて自分の食事に戻った。
直後、食卓についた妻は、美味しいよ~と言いながら颯爽と息子の口に食事を運びはじめた。
アングリする私の頭の中で、コメディドラマで流れる客席風の笑い声が流れた。
またこんなこともあった。
息子が食事をしないでテーブルの下で遊び回っていた。何をどう言ってもダメだったので、せめて座って欲しいと思い、ついに「ユーチューブみるか?」と禁断の誘惑をはかった。
妻の速攻がきた。動画見ながらとか行儀悪いから!
それはもう仰る通りで、私だって本望ではない。しかし、今日はなんか、せめて座って欲しかったんだぁ。
即座に携帯に伸びた手を止めて、自分の食事に戻った。
すると直後、相変わらずテーブルの下で遊び回る息子に妻は、隙を見ては口に食事を運んでいた。
彼女は至って真剣だ。
コメディの定石を地でいく。
アングリする私の顔のアップで、客席風の笑い声が流れる。
あと、これはちょっと違う話なのだが、妻に、井上ひさしさんの舞台「ムサシ」の話をしようとしたら、むさしって誰なんだと言われたので、宮本武蔵だよと。
返ってきた返事に愕然とした。
「宮本武蔵って誰だ。」
「・・・。いやだから、宮本武蔵は宮本武蔵だよ。二刀流の、佐々木小次郎と、巌流島の、、」
「知らん。見たことも聞いたこともない。」
日本で生まれ育って四十数年、避けても入ってきそうな宮本武蔵情報を全てすり抜けて過ごしてきたとは。
そうして彼女は言ってのけた。
「宮本武蔵なんて知らんでも生きてけるし」。
おっしゃる通り。
私の妻は面白い。
【著者プロフィール】
ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された
【今後の予定】
ワタナベエンターテインメントDiverse Theater『物理学者たち』
原作◇フリードリヒ・デュレンマット
上演台本・演出◇ノゾエ征爾
2021年9月19日~26日◎本多劇場
https://physicists.westage.jp
▼▼前回の連載はこちら▼▼
http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe100/
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