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【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.100「べきか否か2 ~手の差し伸べ狂想曲~」

その前に、連載100回ですって。
永遠に方向性の定まらないこの連載(定めるつもりもないのだが)をよくここまでやらせてくださったものだ。
えんぶ坂口さま、読んでくださっているみなさまに感謝。
感謝といえば、先日、曖昧な感謝をされた。
前を走る自転車の後部チャイシー(チャイルドシート)の女の子が、おもちゃを落とした。
横断歩道の真ん中だったということもあり、すぐに拾って、母親に渡した。
すごく弱々しい「ありがとうございます・・」が返ってきた。
妙な空気が流れる中、その場からすぐにまた自転車を走らせた。
程なくして信号で止まっていると、先ほどの母娘の自転車が少し離れたところに止まった。
あ!
お母さんの、手に、白い手袋。
日除け用の、腕まであるやつじゃなくて、手だけのいわゆる普通の白い手袋。
ああ・・そっか、気にされている方だったのだ。菌を。おそらくだけど、
そうとも知らずに無造作に手で拾って渡してしまった。
気持ちの曖昧な「ありがとう」の合点がいった。
たまにある、この類のことが。
たとえば、子供と公園で遊んでいると、大抵、転ぶキッズに遭遇する。
キッズというのは実によく転ぶもので。
あっちでもこっちでも、転んでは、泣いたり、親が慌てて抱き起こしたり、親が自分で立てと奮起を促していたりする。
問題は、ものすごく目の前で転ばれた時だ。
「助けるべきか、助けぬべきか・・」。無残に転んだキッズを目の前に、そんなことを考えてしまう。
もちろんこれには、一度味わった経験が起因している。転んだ子を抱き起こした時に、「触るな!」ばりの剣幕で親に駆け寄られたことがあった。
いや、大人との接触を気にされるのは当然だ。気持ちは理解できる。
しかし、とは言え、だって、目の前で、え、というか、普通にワイワイ遊んでたじゃん。
それ以降、私の意識の中に、剣幕ペアレントが根強く存在している。
剣幕ペアレントは、その事態になるまで一切そんなそぶりを見せないから、尚更難しいのだ。
公園にいる大人というのは、おおかた、のどかに過ごしているものである。
みなさんとてもとても優しそうに見える。優雅なセレブにすら見えてくる。
そして予兆もなくいきなりそいつは現れるのだ。
「ウチノコニサワルナア!!」
お前剣幕だったのか!
油断も隙もあったもんじゃない。

あと、ボール。これも実によく転がってくる。
ボールに関してはもう、諦めている。
取ってさしあげる。そうしちゃうことにしている。
相手が「取って欲しくなかった風」の態度を見せようとも、これはもうどうしようもない。目の前をボールが転がっていくのだ。無視しろって方が大変だ。
「取って欲しくないなら、こっちまで転がすんじゃねえ。ここをどこだと思ってんだ。」そんな強い気持ちを奮い立たせて、取ってさしあげる。
脇に小さな汗がにじむ。
ああ、手の差し伸べ狂想曲は終わらない。

そんな狂想曲も起こりづらくなりそうな事態がまた起きている。
公園の遊具が、またしても封鎖されている。(区によってだけど)
解せぬ。実に、解せぬ。
しかも、大きな遊具だけ封鎖しているもんだから、他の遊具に子供たちがひしめき合っている。
社会をなんとか良くしたいという想いを、我々なんかよりも格段に強く、そして具体的に持って、選挙まで乗り越えた頭のいい人たちが決めていることなんだと思うけど、頭も熱意も使った論議を経ての決断がこれだ。
喜劇。実に喜劇。
9月に喜劇を扱った作品をやるが、今の日本で繰り広げられている喜劇を超えるのは相当にハードルが高いと覚悟している。
2歳の息子が、封鎖された遊具を見てはっきりと言う。
「きんきゅうじたいせんげん?」
「パトロールカー」も、まだ「タポロールカー」としか言えない子が、緊急事態宣言はしっかりと言える。
君たちは、この経験を糧に、どんな大人になるのだろう?
って、我々は何を糧にした大人になったのだろう?

セミが鳴きはじめました。

【著者プロフィール】

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された

【今後の予定】
ワタナベエンターテインメントDiverse Theater『物理学者たち』
原作◇フリードリヒ・デュレンマット
上演台本・演出◇ノゾエ征爾
2021年9月19日~26日◎本多劇場
https://physicists.westage.jp

 

▼▼前回の連載はこちら▼▼

http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe-99/

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