【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第94回「汗取り」
劇団☆新感線39興行春公演「偽義経冥界歌」は大阪公演が無事に終わりまして、この四月は金沢と松本に参ります。旅公演自体も久しぶりなんですが、金沢とか松本とかになると、ホントにホントにお久しぶりでございます。どうぞよろしくお願い致します。
いやあ、今作「偽義経冥界歌」は熱いです。いや、作品自体も純粋な青年の成長譚になっていて熱い話なのですが、なんていうか、暑い! 衣装が厚い! そして暑い!
私が演じるのは源頼朝なのですが、源平合戦から奥州征伐までを描いておりますので戦場が舞台となり、二種類ある衣装がどちらも甲冑なんです。しかも偉い人だから生地も豪華で厚めでして、更に陣羽織も着て、兜こそ被っていませんが頭巾は被っているんです。もうね、熱が籠もる! 演技にも熱が籠もりますが、それ以上に体温が籠もる! 汗だくです。そういえば汗だくの語源ってなんでしょうね。「汗がたくさん」の略なのか、「汗がだくだく出る」の略なのか。そんなこたぁどうだっていいんです! とにかく汗だくなんです!
演劇の現場において、衣装の下に着る下着のことを「汗取り」といいまして、それが今回ご紹介したい用語なのですが、どうやら演劇に限った用語ではないようです。でもね、普通の生活をしていて汗取りインナーとかいいますでしょうか。いや、検索してみたら女性の服飾業界でもそういうようですけど。まあとにかく、汗を吸わせるための下着のことを汗取りというようです。
汗取りは基本的に俳優が用意し、洗濯などの管理も自分でします。稀に衣裳さんが用意して洗濯までして頂ける場合もありますが、基本的には自分で用意します。汗が吸えれば何でも良いので、大抵の場合は普通のTシャツを使います。
とはいえ、衣装によって色々と制限されるんです。例えば時代劇で和服を着る場合、襟元が大きく開きますので、普通のTシャツでは襟が見えてしまいます。なので、襟ぐりを大きく切り取ったり、縦に切り目を入れて折り返したりする工夫が必要です。あるいは半襦袢を用意する人もいますね。半襦袢というのは腰丈の襦袢で、着物のように襟を重ね合わせる薄い下着のことです。コレならば着物の下に着ても問題がありません。
現代劇の場合なら襟ぐりを気にしなくていいのですが、上に着るシャツの色によって汗取りも選ばなくてはなりません。白いワイシャツの下に黒や柄物のTシャツを着たら透けて見えてしまいますからね。黒だけでなく、白やグレー、あるいはベージュのTシャツを用意しています。グレーやベージュは肌の明度に近くて透けても目立ちにくいのです。そんなこんなで各色取り揃えております。
素材も大事ですね。使い古した普通のTシャツを汗取りとして使って、本番が終わったらそのまま捨てる人もいますが、それぞれにこだわりもあります。薄いのが好きな人、厚いのが好きな人、それぞれです。ユニクロのエアリズムなどの吸汗・速乾機能Tシャツを愛用する人もいますが、速乾過ぎて寒さを感じてしまうので私は苦手です。
このように、様々な色や形のある汗取りでして、様々な現場をこなしている私も様々な汗取りを用意していますが、最近気に入ってるのが「鯉口」です。鯉口というのは、祭に参加する若衆やテキヤの皆さんが着ている、襟がなくて前合わせボタンの服です。映画「男はつらいよ」で寅さんが着ている水色のアレはダボシャツですが、あれがもっとスリムにタイトになったモノが鯉口です。
前開きならば半襦袢でも良いのですが、半襦袢って大抵白色なんですよ。着物を着ると体勢によっては襟元から下着が見えてしまう場合があるのですが、それが白色だと悪目立ちしてしまうんですね。これが黒色や紺色なら目立たなくて良いのではないか。しかし黒い半襦袢って中々なくて、色々探した結果、鯉口なら黒や紺の濃い色があるし、襟もないから汗取りにうってつけなのではないかと最近気付いたのです。
では、なぜこれほどまでに「前開き」にこだわるのか。それは「カツラやマイクが付いたままでも着替えられるから」です。前開きでないTシャツの場合、着替えるためには首を通さなくてはなりません。カツラやマイクが付いているとこれができないんです。しかし、前開きならばカツラやマイクを気にせずに着替えることができます。
出番が続いている場合、汗取りが汗だくでも仕方がありません。身体は熱いままです。ところが、妙に出番が開いてしまうと、汗だくのままでは冷めた時に気化熱で身体が冷えてしまうのですね。なので、長い時間出番が無い場合は汗取りを着替えた方がいいのです。
「偽義経〜」一幕での私の出番は前半の黄瀬川対面の場面のみ。この後、休憩も含めて一時間以上出番がありません。ですので、一幕の出番が終わったら汗取りを着替えています。そのままにしていたら風邪でもひきそうだから。
二幕では割と出番が続きますので終演まで着替えられません。ていうか衣装すら脱げません。しかも今作では死なないので(なにしろ頼朝だからね)ラスト直前まで出番があり、要するに汗取りは汗でダクダクです。大雨に打たれたのかってくらい。顔だって汗だくで、カーテンコールでお辞儀をすると鼻先から汗が垂れるほどです。羽二重を取ったら髪だってプールに入ってきたのかってくらいビショビショです。
まあ、そんなカンジで汗だくになりながら頑張っているって話ですよ。衣装のせいだけじゃなくて、加齢によるホルモンバランスの崩れ(いわゆる更年期)で汗だくだって気もするんですけどね。じゃ、金沢と松本で汗だくでお待ちしております。
金沢の街中で見つけた印象的な建築。おそらく昭和初期頃の建築ではないかと。
【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。
【出演情報】
【金沢公演】
2019年4月2日(火)~7日(日) 金沢歌劇座
【松本公演】
2019年4月18日(木)~21日(日) まつもと市民芸術館
【東京公演】
2020年2月予定 TBS赤坂ACTシアター
【福岡公演】
2020年4月予定 博多座
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