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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第137回「裏板付き」

さあ! いよいよ劇団☆新感線「薔薇とサムライ2」の東京公演が始まりましたよ! ここまで富山、新潟、大阪と三都市で公演して参りましたが、いよいよ最後の土地である東京に帰って参りました。
でもね、これまでの三都市でのステージ数を合わせたよりも東京公演の方がステージ数が多いのです。つまり、まだ半分も行っていないのです。こりゃあ先が長いぜ。どうぞ最後までお楽しみ下さいませ。

実はね、この「薔薇とサムライ2」は私一人のシーンから始まります。そう、私だけなんですよ。今までにもオープニングシーンにいることは何度かありましたが、私だけが舞台にいる状態で始まるってのは初めてじゃないでしょうか。
あ、「五右衛門vs轟天」という作品ではナレーションが流れる中に一番始めに登場しましたが、あれは五人グループが順番に登場する時の先頭ってだけでしたからね。私の一人喋りで幕が上がるというのは初めてです。多分。

ちなみに登場の仕方は「板付き」です。しかもただの板付きではなく「裏板付き」なんです。そしてこれが今回ご紹介したい用語です。

「板付き」という用語については以前にもご紹介しましたね。

【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第99回「板付きと暗転板付き」


板付きとは俳優が既に舞台上に居る状態で幕が開いたり暗転が開けたりするコトです。そのシーンになってから俳優が登場するのではなく、そのシーンになった時には既に俳優が舞台上に居る。それが板付きです。
幕が上がったり暗転が明けたりした時に、既に俳優が舞台上に居る。その俳優は正面を見据えていたり、新聞や本を読んでいたり、会話していたり、寝ていたり、まあ色々ですが、そのシーンが始まった時に既に俳優がいるということは何かが進行している途中から始まるワケですから、もう何やらドラマが始まっている状態なのです。
舞台の幕開けや暗転明けとしては中々にドラマティックな演出です。

というようなことを以前に書きました。板付きというのはそういうコトなのです。しかし、今回ご紹介したいのは「裏板付き」なのですよ。

舞台の演出機構の一つに「盆」というものがあります。大きな円盤が舞台の床面に埋め込まれており、それを回転させることによって場面転換が行えるという物でして、盆の裏側に予め大きなセットを組んでおけば、僅かな時間で劇的なシーンチェンジを行うコトができます。
僅かな時間と書きましたが、巨大な機構ですから実際にはゆっくりと回ります。半回転するのに十数秒ほどかかります。そのため、盆の表面にいる俳優は最後のセリフの終盤から回り始めますし、そのまま見えなくなるまで演技を続ける必要があります。同様に、盆の裏面にいる俳優は回転の開始と同時に無言のオフ芝居を始めて、90°ほど回ったところからセリフを言い始めます。そうすることによってスピーディーなシーンチェンジができるというワケです。
でね、そのように予め盆の裏側に板付いておくことを「裏板付き」というのです。ふう。やっと説明ができました。

盆の表側でシーンが進行している間に、裏側では大きな舞台セットが迅速かつ静かにセッティングされていきます。演出部や大道具さんがほぼ無言で目配せを交わしながら転換をしていきます。時間が短い時にはそれはもう戦場のような様相です。
無事に転換が終わって安全が確認できると我々俳優部が板付きます。すると盆が回り始め、回りながら演技を始めれば次のシーンになるというワケです。これが裏板付きです。
ソデから歩いて行かずとも、立っているだけで、あるいは座っているだけで舞台上に登場できるので楽っちゃあ楽ですが、裏面で待っている時間も中々に緊張しますので、得したような損したような微妙な気分ではありますね。

芝居のオープニングから裏板付きの場合、幕が上がるちょっと前から盆裏にスタンバイしております。客席もまだザワついておりますので、我々も開幕直前の緊張とまだ始まっていないという緩和とで、なんとも言えない不思議な気持ちでスタンバイしております。芝居はまだ始まっていないのに、舞台上に、居る。中々味わえない楽しい気分ですよ。

と、ここまで書いておいて何ですが、今作「薔薇とサムライ2」では盆は使われておりません。使ってないのかよ! いや、今作では舞台上に設置された大きな長方形のプラットフォームが回転するという機構になっているんですよ。盆ではありませんし、丸くもありませんが、まあ盆みたいなものです。裏板付きの気分としては同じなのです。
この四角い盆に載って、裏板付きした私が現れるところから始まりますのでどうぞお楽しみに。
あ、それからもう一つ。私一人のシーンから始まるのではありますが、実はもう一人、こっそりと裏板付きしている人もいるんですよね。こっそりと、ひっそりと。そちらも楽しみにして頂ければと思います。

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粟根まこと

【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

【粟根まこと出演予定】
劇団☆新感線42周年秋興行 新感線RX
『薔薇とサムライ2~海賊女王の帰還』
9/9~11◎オーバード・ホール(富山)
9/22~25◎新潟県民会館 大ホール(新潟)
10/5~20◎フェスティバルホール(大阪)
11/1~12/6◎新橋演舞場(東京)

 

◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ12月号」は11/9全国書店にて発売予定!

 

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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