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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第99回「板付きと暗転板付き」

「けむりの軍団」東京公演も無事に終わり、この九月は福岡公演です。初めての博多座。歌舞伎、ミュージカル、商業演劇など幅広いニーズに対応できる福岡の名物劇場です。期待に胸も膨らみますが、来年の春にも「偽義経〜」で来るんですけどね。

久しぶりに古田新太くんを主役に置いて、常連ゲストの池田成志さんとバディを組んで頂くという趣向の今作。しかも休憩時間込みで三時間ちょっと(福岡公演は多分休憩がちょっと長くなりそうですけど)という新感線にしては短めの上演時間ですから、お尻に優しい興行です。さらに福岡公演は昼が十二時開演ですから三時半には終わっています。終わってしまうんです。そりゃ美味しいモノを食べに行くしかないでしょう。

そんなお尻にもお腹にも優しい今作ですが、オープニングはドカンと大人数のケンカシーンから始まります。私は個人的に今作のこのいきなりトップギアから始まるオープニングが大好きなんです。なんというか、否応なく物語に巻き込まれていく感じがしまして。意外とありませんよね、こういう感じ。
大抵のお芝居って、オープニングは少人数の静かなシーンから始まって、徐々に熱を帯びていくコトが多いのです。いわゆるプロローグですね。しかし、今作ではいきなり喧しいシーンから始まります。幕が上がったら大人数がなにやらもめているんですよ。

幕が上がったら既に俳優がいる。この状態を舞台用語で「板付き」といいます。まず、興行業界では舞台のことを「板」と言うのね。伝説の俳優や芸人の自叙伝的ストーリーで「板の上で死ねたら本望よ」とか言ったりするじゃないですか。あるいは「板に上がったらベテランも新人も関係ねえ。どちらも一人の登場人物よ」とかね。なんだか勢いで江戸っ子っぽくなっちゃっていますし、江戸っ子である必要もないのですが、とにかく舞台のことを板というのね。
その「板」に付いている。つまり舞台上にいる状態ってコトです。幕が上がってから登場するのではなくて、幕が上がったら既に舞台上に居る。これが板付きです。これはオープニングに限らず、シーンの変わり目で暗転になって、明るくなったら既に舞台上に居る場合も含みます。この場合は「暗転板付き」といいます。

板付きや暗転板付きは登場する時間を短縮するだけでなく、既に何かが進行しているというドライブ感を演出する技法でもあります。説明は後からするから、とにかく何かが起こっていますんで、どうぞ流れに飲まれていって下さいという場合も多い。ストーリーテリングとして有効な手法なのです。
ただ、暗転板付きって俳優的には結構きついのよね。暗転だからもちろん真っ暗なんです。そんな中、舞台セットを避けながら決められた位置に行くんですよ。しかもその前のシーンに出ていた俳優とすれ違いながら。導線の確保とか安全性とか静かにとか、色々とクリアすべき問題点は多いので、舞台稽古でみっちりと練習するのですが、それでもやっぱり難しい。
暗闇で光る蓄光テープなどをガイドにはするのですが、私は目が悪いのでなかなか難しい。コンタクトをしていても見えにくいのです。なので手を伸ばして触覚を頼りにしたりもしていますよ。セットに触ったりして確認するのです。他には、ソデにいる時から片目をつぶって暗闇に慣れさせておくとか。暗転板付きは中々に大変なのです。

しかし「けむりの軍団」のオープニングでは幕の裏でのスタンバイなので楽チンです。今作では紗幕のように透ける幕ではなく、透けない幕で仕切ることで場面転換したり映像を映したり、あるいは裏からの投光で影絵を映したりしております。オープニングでは幕が下りており、幕が上がると既に大人数が板付いているというワケ。
つまり芝居が始まる五分くらい前から幕の裏には大人数がスタンバイしているのです。それぞれがストレッチしたりセリフを確認したり談笑したりしながら開幕を待っているのです。なぜそれを私が知っているのかというと、私もその大人数の中に居るからです。何しろ大人数が必要ですからね。劇団員達が本来の役ではない姿に変装して混ざっているのです。そんな姿を探してみるのも面白いのではないでしょうか。いや、別に探す必要はありません。いきなり始まる物語に巻き込まれて下さい。

そんな「けむりの軍団」福岡公演は9/6から23まで。みんな大好き福岡にどっしりと腰を下ろして公演します。我々も久しぶりの福岡を満喫したいと思いますので、秋の旅行がてら是非とも福岡にお越し下さいませ。

博多座入り口にはのぼりも立っていました。名前からなんとなく伝統的な建物を想像しがちですが、意外とモダンなビルなのでお気を付けて。

 

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

【出演情報】
2019年 劇団☆新感線 39興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』
作◇倉持 裕
演出◇いのうえひでのり
出演◇古田新太/早乙女太一 清野菜名 須賀健太 高田聖子 粟根まこと/池田成志 ほか
9/6~23◎博多座、10/8~21◎フェスティバルホール(大阪)

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