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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第136回「前乗り」

劇団☆新感線の「薔薇とサムライ2」は富山・新潟での公演を無事に終え、これから大阪・東京公演を迎えることになります。まあ色々とありましたが、これまでのところ概ね順調です。お客様にもお楽しみ頂いているようですので、残りの公演も気をつけて臨んでいきたいと思います。

そんなワケで富山→新潟→大阪と、旅公演が続いております。最近では東京・大阪の二都市公演が多かった中での久しぶりの多都市公演でして、旅公演ならではの楽しさと大変さを思う存分味わっているところです。
旅公演は楽しいんですよ。初めての土地ならばもちろん、何度か行ったことのある街でも毎回新しい発見があります。さらには非日常感とか旅情とか、旅ならではの心境の変化もありますしね。
ただまあ、公演に来ているのですから仕事です。遊びではありません。遊びではないのではあるのですが、心が浮き立つのもまた事実なのです。しかもご時世柄、以前のようには遊び回ったり食べ歩いたりもできませんが、いつもとは違う土地にいるというだけでも楽しいんですから仕方がありません。

とはいえ、旅公演だって楽しいばかりではありません。劇場ごとに使い勝手は変わりますので、演出や演技だってその劇場に合わせて変えなくてはなりません。そのためには劇場が変わるたびに舞台稽古が必要になります。これがまた大変。
また、慣れない土地での公演ですから、宿の使い勝手も行ってみるまで判りませんし、必要なモノが揃っているかどうかも不安です。宿から劇場への移動の仕方も考えなくてはなりませんし、洗濯や食事なども自由にはなりません。特に初めての土地・劇場ならばなおさらです。

でもね、楽しいんですよ、旅公演は。色々と大変だったり不安だったりしますけれども、それを上回る楽しさがあるのです。普段はご覧頂けていないお客様にも見て頂けますし、その土地ならではの反応というのもあるのです。
本当はね、もっと多くの都市で公演を行いたいのではありますが、様々な制約でそういうワケにもいかないのです。ああ、もっと色んな土地に行ってみたいものです。

旅公演の時に、舞台稽古が始まる前日にあらかじめその土地に移動しておくことを「前乗り」と言いまして、これが今回ご紹介したい用語です。前ノリと聞くと、縦ノリとか横ノリとかの、なんだか身体がグイグイ動いてしまう音楽的なノリを思い浮かべてしまいますが、そうではありません。現地に行くコトを「乗り」というのです。おそらく「現場に乗り込む」ことから来ているのだと思います。私も初めて「前乗り」という用語を聞いた時には「前田のりひこ」さんか誰かの略称かと思いましたもん。誰だよ、前田のりひこって。

おそらく映画やドラマなどの現場に由来する用語だと思います。ほら、映画やドラマでは朝早くから撮影が始まりますからね。前日に移動しておかないと間に合わないんですよ。私も山形に前乗りとか千葉に前乗りとか、色々やりました。そして早朝から撮影しましたよ。
演劇の現場では早朝から動くコトはあまりありませんが、かなり遠方への移動になる時などには前乗りになったりします。また、交通の乱れなどで移動できなくなることを恐れて安全策として前乗りになったりね。あとはまあ、遅刻しがちな演劇人だからこその配慮ということもありますけど、も。
実際、長距離を移動してそのまま舞台稽古に入るのは大変ですから、心にも体にも余裕のできる前乗りはありがたいんですよ。以前だと前乗りなのをいいことに、着いたその日にご当地の美味しいモノとか食べたりできたのですが、昨今ではそうもいきません。
また、前乗りなのをいいことに、便を早めてもらって観光に行ったりする猛者もいたりしました。まあね、旅ならではの浮き足だった勇み足です。

ちなみに、舞台稽古の当日に移動するコトを「当日乗り」と言いまして、「前乗り?あ、当日乗りなのか。そりゃ大変だ」というように使います。
そして、規模の小さな公演などで、当日に移動してその日に公演を行う場合は「乗り打ち」と言います。当日に移動して舞台設営して舞台稽古して本番も行う。もう目の回る忙しさです。相当に大変なのですが、予算の都合などでそうせざるを得ない場合もあるのですよ。

さあ、我々も大阪に前乗りして舞台稽古を終え、前田のりひこさんと共に準備万端でお待ちしております。久しぶりのフェスティバルホールです。とにかく広い劇場です。劇場の大きさに負けないように満帆でいきますので、どうぞお楽しみに!
だから誰だよ、前田のりひこさんって!

新潟で見つけた「ドカベン」岩鬼正美の銅像。水島新司先生は新潟のご出身なのですよ。ぐわらごわがき~~ん!

粟根まこと

【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

【粟根まこと出演予定】
劇団☆新感線42周年秋興行 新感線RX
『薔薇とサムライ2~海賊女王の帰還』
9/9~11◎オーバード・ホール(富山)
9/22~25◎新潟県民会館 大ホール(新潟)
10/5~20◎フェスティバルホール(大阪)
11/1~12/6◎新橋演舞場(東京)

 

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