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ミュージカル『The Fantasticks』に出演! 愛月ひかるインタビュー

 

性別も年齢も超え、人間が人間を魅了する表現を追求して

オフブロードウェイで1960年に初演されて以来、2002年まで42年間もの長きに渡り上演を続け、米国におけるミュージカル最長連続上演を記録したミュージカル『The Fantasticks』。

『シラノ・ド・ベルジュラック』などで知られるフランスの劇作家エドモン・ロスタンの韻文劇『レ・ロマネスク』をもとに、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』『真夏の夜の夢』のエッセンスを織り交ぜたストーリーは誰もが経験する恋と人生のなかから浮かび上がるメッセージを投げかける不朽の名作だ。

そんな作品が、東宝ミュージカルの次世代を担う実力派演出家上田一豪の新演出により装いも新たに、シアタークリエで、10月23日~11月14日、上演されることになった。

その公演で登場人物たちを時に翻弄し、時に導く流れ者、エル・ガヨ役を、元宝塚歌劇団星組男役スターとして活躍した愛月ひかるが演じる。

退団後初のミュージカル出演となる愛月がいま、この新たに臨む作品に何を感じ、どう臨もうとしているのか。宝塚時代の思い出と共に語ってもらった「えんぶ10月号」のインタビューをご紹介する。

女性が演じるからこそファンタジー性を増すエル・ガヨ役

──宝塚を退団後の毎日はいかがですか? 少しは落ち着かれたころでしょうか?

そうですね。だいぶ落ち着いてきたと思います。

──その中で、今回ミュージカル『ファンタスティックス』への出演を決めた思いから教えていただけますか?

エル・ガヨ役を、というお話をいただいた時に、これまでの上演では男性が演じていた役どころを、今回は女性が演じることで物語を広げて、ファンタジー性も増す要因になる、というご説明があったんです。それは自分でも腑に落ちましたし、宝塚でやってきたことを活かせる舞台になるんじゃないかな? と思ったのがきっかけで、出演させていただこうと思いました。

──本当に待ちかねていた方々が多くいらっしゃると思いますが、1960年に初演の幕があき、2002年まで42年間のロングランという途方もない記録を持った作品に対しては、いまどんな印象を?

やはりそれだけの間支持されるというのは大変なことなので、取り組むにあたっては色々と勉強しなければならないと思っていますが、いまは、自分が演じさせていただくエル・ガヨ役にフォーカスして考えている段階です(※取材は7月末)。不思議な魅力を持っている役どころで、ヒロインをちょっと惚れさせると言いますか、誘惑するようなシーンもあるので、そういう役を演じるにあたっては、男だから、女だから、年齢がなど、そういうものから考えるのではなく、性別も年齢も超えて、人間が人間を魅了するという表現ができたらいいなと思って、少しずつ準備を進めています。

──そのアプローチを伺うとますます舞台が楽しみになりますし、本当に多彩なキャストが組まれているカンパニーですが、新しい座組に入っていくことはいかがですか?

すごく緊張しています。当たり前なんですけれども、外の舞台の稽古場に入った経験がないので、まず稽古場に行くことからとても緊張するだろうなと思っていて。

──退団後、珠城りょうさんのコンサートにゲスト出演されたのが、最初のパフォーマンスかと思いますが、その時のお稽古場にはどう臨まれたのですか?

あの時は何しろゲストでしたし、お稽古もたまちゃん(珠城)と1日しただけでしたから、あっという間に終わったという感覚で(笑)。自分としては外の舞台のお稽古場にいった、という明確な印象はなかったんです。9月に宝塚OGの先輩の方々と一から作らせていただくコンサートがありますので、そのお稽古に入ったら、また新たな発見もあると思いますが、いまはそれもまだ始まっていない段階なので。

──では、本当にここからが始動という感覚でいらっしゃるんですね。

そうですね。自分が何を思うのかな? という事を、自分でも楽しみにしています。

──作品が上演されるシアタークリエは、東京宝塚劇場のお向かいで、宝塚ファンの方々にもおなじみですが、シアタークリエという劇場についてはどんな印象を?

舞台に立たせていただくのはもちろん初めてですが、観劇には度々いかせていただいていて、すごく観易いサイズ感の劇場で、全てが伝わりやすいという印象があります。今度はその劇場の舞台に立てるので、演じる側としてどう感じるのかな? というのも、とても楽しみにしていることのひとつですね。

すべての表現の根本には芝居がある

──先ほどもお話しくださったように、この作品でミュージカルの舞台に初参加される訳ですが、新しい役を演じるということに関してはどのような気持ちですか?

単純にワクワクしています。先日オーディオドラマに出演させていただいて、お芝居ってやっぱりすごく奥深いし、楽しいなと感じたので、それにもう一度挑めるので。

──いま、「お芝居ってやっぱり奥深くて楽しいなと感じた」とおっしゃいましたが、そうしたお芝居の楽しさに目覚めたきっかけと言うか、ここから意識が変わったというような時期がおありになったのでしょうか?

この役をいただいた時に、という明確なきっかけというよりは、宝塚で歌も、ダンスも、芝居もというたくさんの要素を経験させていただくなかで、すべてにおいて、根本に芝居がないと成立しないと感じたからだと思います。どんなに素晴らしい声で歌えたとしても、そこに気持ちが乗っていなければ「綺麗な声ね」だけで終わってしまいますし、ダンスもそうだと思うんです。ショー作品でも場面が描こうとしていることを表現しようと思うと、結局は全てが芝居に繋がってくるんだと、やればやるほど思っていったので、そこからお芝居って奥が深いな、楽しいなと、どんどん感じていったんだと思います。

──そうしたお芝居の楽しさに気づいていった宝塚歌劇団でのこともお伺いしたいのですが、いま、「宝塚」と聞いて一番に思い出す景色はどんなものですか?

やっぱり稽古場ですね。一番長い時間を過ごした場所でもありますし、懐かしいです。もう1回行ってみたいと思う場所は、意外と舞台よりも稽古場かもしれません。

──それほど作品作りに心血を注いでいらしたのですね。先ほど今回のエル・ガヨ役について、性別も年齢も超えてというお話もありましたが、愛月さんが宝塚で演じたお役柄にも、年齢を超越したところがあったり、非常に多彩な役どころが多くありましたが、そうした一つひとつから、役の設定ではなく、あくまでも人間を演じるんだという心境に至ったのでしょうか?

こういう役なんだと決めては演じられないような、振り切って色々なところに行かなければいけない役が多かったからではないかなと思います。特に後半にはそうした役柄が多かったので。

──それはまさしく今回のエル・ガヨ役にも通じるかと思いますが、そういった役柄だからこその楽しさ、また難しさはどうですか?

いかようにも作れるところが役者としての楽しさだと思うんですよね。型が決まってないので、それが表現者としては楽しい部分ですし、そういった役柄を多く経験させていただいてきたので、その積み重ねが今回の役の中に活きたらいいなと思います。

宝塚の「男役」は非現実だからこそ唯一無二の存在

──そうした追求を続けるなかで「男役」の魅力をどこに感じていらっしゃいましたか?

生身の男性には絶対にない理想のカッコよさを極められるところですね。だって、世間にいます?あんな男性(笑)。

──あぁ、確かに!(笑)

とりあえず私はですが、退団してから一度も宝塚の男役以上にカッコいい人にはめぐり会えていないです(笑)。だから本当に非現実なんでしょうね。実際にあんな男性はたぶんいないんだけれども、女性が男役をやることによって、自分の理想の男性像をみんなが追求しているんだと思います。だからこそ唯一無二だし、演じていて本当にやり甲斐があったのですが、「皆さん、現実にはあんな男性はいませんからね!」と、それはちょっと言っておきたい感じかもしれません(笑)。現実にはいないからこそ、宝塚の男役は良いんだと思います。

──おっしゃった通りのまさしく非現実空間の魅力なのかなと思いますが、ご自身としてはその理想の男性像をどこに求めていましたか?

筋が通っていて、包容力があって男らしい。やっぱりそういう役がとても好きでしたし、自分も包容力がある男役を追求していたと思います。

──そのなかで、難しいことをお訊きしていると思いながらで申し訳ないのですが、特にお好きな役や、印象に残る役をあげていただくとすると?

そのご質問はよくいただくんですけど、本当に選ぶのは難しいんですよ。

──そうですよね! すみません!

だから思い出深い役は色々あるのですが、単純にいまパッと浮かぶものとしては『ウエスト・サイド・ストーリー』のベルナルドはとても好きでしたね。

──あぁ、これぞ背中で魅せる男役像という感じでした!

演じていて好きな、魅力的だなと思う男性だったので、そういう意味でも記憶に残っています。

『ファンタスティックス』の先に見えるものを求めて

──いま、まだ次のステージのお稽古前とのお話ですが、自由な時間はどのように過ごしているのですか?

ありがたいことにこうした取材などのお仕事もいただけていますし、スケジュールが空いていたらトレーニングに行くとか、友達と会うとかどんどん予定を埋めていく方なのですが、一方で一日空いている日があったら、ずっと家にいて家のことをしています。基本的にはインドア派なので、ゆったりした時間を過ごしています。

──そうした日々から、新作のお稽古に入っていくいまの時点での思いとして、具体的なものでなくても全く構わないのですが、こういうことがやってみたい、という夢などはありますか?

雑誌のお仕事や、モデルのお仕事がすごく楽しくて好きなんです。やっぱりファッションはずっと好きだったので、そういうお仕事をもっと色々やってみたいなという気持ちがあります。あとは、ファンの方達は私にとって本当に特別な、大切な存在で、皆さんがいてくださったからこそ頑張れましたし、宝塚を退団したいまも変わらずに応援してくださるファンの方達には、何かしらお返しをしたいという思いは強いので、皆さんと会える機会を作ることはずっと考えていくと思います。ただ、これからも色々な舞台をどんどんやっていきたいです、と言い切れる心境にはまだ至っていないので、そういう意味でもこのミュージカル『ファンタスティックス』の舞台をまず精一杯務めたいと思っています。この舞台に立って、色々なことを感じて、その先に何が見えて、自分が何をやりたいと思うのか? に、自分でも期待していますし、知りたいと思うので。

──ではこの舞台を経て、また次の舞台をやってみたいと思ってくださることを願っていますが、改めてあらゆる意味で大切なミュージカル『ファンタスティックス』を楽しみにしている方々に、メッセージをお願いします。

宝塚退団後初めてお芝居をする作品なので、新しい自分に出会えるのは間違いないと思っています。男役として培ってきた経験が活かせる役どころではありますが、でもきっとそれは宝塚の男役とはまた違うものになるだろうし、演出の上田一豪さんや、共演者の方々のアドバイスを聞きながら、自分でも色々膨らませていく久々の作業がとても楽しみです。素晴らしい歴史ある作品に携われる機会なので、ファンの皆様はもちろんですが、ミュージカルや、この作品そのものがお好きな方々にも喜んでいただける舞台が作れたらいいなと思っています。

■PROFILE■
あいづきひかる〇千葉県出身。2007年に93期生として宝塚歌劇団に入団、宙組に配属。二枚目から悪役まで幅広い役を演じ分ける稀有な男役スターとして人気を博す。専科を経て星組に組替後も組の中核メンバーとして活躍し、2021年『柳生忍法帖/モアー・ダンディズム!』で惜しまれつつ退団。2022年「珠城りょう1stコンサート『CUORE』」にゲスト出演したのを皮切りに、シアター・ドラマシティ30周年記念コンサート『Dramatic City“夢”』に出演。本作が退団後初のミュージカル作品出演となる。

【公演情報】
ミュージカル『ファンタスティックス』
台本・詞:トム・ジョーンズ
音楽:ハーヴィー・シュミット
翻訳・訳詞・演出:上田一豪
出演:岡宮来夢 豊原江理佳
今拓哉 斎藤司(トレンディエンジェル)
植田崇幸 青山達三 山根良顕(アンガールズ)  愛月ひかる
●10/23~11/14◎シアタークリエ
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/fantasticks/index.html

 

【構成・文/橘涼香 撮影/岩田えり】

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