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野田秀樹 作・演出・出演『One Green Bottle』台湾・NY公演へ! 稽古場レポート&インタビュー

野田秀樹が作・演出・出演する『One Green Bottle』の台湾公演が、本日2月21日、台湾で初日を迎える。

この作品は、2010年に、野田秀樹と中村勘三郎、黒木華・太田緑ロランス(Wキャスト)によって上演され、大きな反響を呼んだ『表に出ろいっ!』。その後、英国の脚本家ウィル・シャープを翻訳に迎え、英語劇『One Green Bottle』として誕生。2017年には、東京を皮切りに、韓国・明洞劇場、2018年、イギリス・ロンドン SOHO THEATRE、ルーマニア・シビウ国際演劇祭を巡演、各地でスタンディングオベーションを巻き起こし、国内外で高く評価された。

今回は2020年2月21日~23日まで台湾の国家両庁院実験劇場で上演され、2月29日~3月8日までアメリカ・ニューヨークのラ・ママ実験劇場で上演される。

2月11日建国記念日の日、都内某所で行われていた稽古は佳境を迎えていた。初日間近、ピリピリした現場かと思いきや、稽古場に入るとストレッチをしていた出演者三人が「Good morning!!」と明るく元気な声で温かく迎えてくれた。

リロ・バウアーはフランスを拠点に活動するスイス出身の女優。野田秀樹作品には今回が初めての参加で父親を演じる。グリン・プリチャードは『One Green Bottle』初演に続き娘役だ。本番さながらの装置を組んだ舞台の上で、三人それぞれが入念に身体中の筋肉を伸ばしながら整える。最近観た芝居のこと、家族との会話で面白かった出来事を話しては笑いが起こる。
約1時間のストレッチが終わると「昨日の稽古でできなかったところをやろう」と動作の確認が始まった。

まずは三人家族が暮らすリビングで「ピンポン」とドアの呼び鈴が鳴り、リロ・バウアー演じる父親が「ボーです。古典演劇の巨匠です」と出るシーンの練習。インターホンからボーにとって家族に聞かれたくない話が聞こえる。インターホンを叩いて聞こえなくしようとして、インターホンは壊れて壁からだらりと垂れ下がり、バーンという爆発音とともに煙も上がる。
その一連の流れに稽古場に笑いが起こるが、母親役でもある演出の野田秀樹が「Not enough! もっとできるんじゃない?」と一言。それに応えるようにキャスト、スタッフが一体となってシーンを作り上げていく。

ブラッシュアップされたことで野田は「Perfect! すごくよくなったね!」と笑顔で言い、次の稽古に進んでいく。「こっちの方がいい」「このやり方で行こう」とお互いのアイデアを出し合いながらベストを探る。場面の確認と通し稽古をやった後、互いの意見を交換しながら進めていく稽古のことや男女逆転で演じる役の捉え方、『One Green Bottle』がいかに現代社会を描いているかを中心に三人にお話をうかがった。

一緒に楽しんで芝居を作る

──リロさんは野田作品に参加されるのが初めてですね。

リロ 秀樹と一緒に作品作りをするのは今回が初めてです。野田作品は観るのも大好き! 『エッグ』『桜の森の満開の下』『Q』……これまでたくさん観ています。ずっと一緒にやりたいと思っていたから念願叶ってすごく嬉しい。

野田 リロとの最初の出会いは25年前だよね。1993年、ロンドンのソーホーの中華料理屋でサイモン・マクバーニに紹介してもらったの。それで私の道が開けました。

リロ 懐かしいね!

野田 テアトル・コンプリシテのワークショップに緊張しながら参加して、最初の先生がリロだった。年下ですけどね。

リロ 今は秀樹が先生だけどね!

リロ・バウアー

野田 その後ずいぶん経ってから、ロンドンにいたときにパリから電話がかかってきた。「リロだけど、チェーホフの戯曲を使ったワークショップをやるから来ない?」って。「パリでやるワークショップだから、フランス語でやるんじゃないの?」と聞いたら「大丈夫! 英語をみんな話せるから」。参加したら、全員フランス語。リロに騙された(笑)。

リロ 身体的に話せていたじゃない! 魚なんてとっても上手だったわ!

野田 魚の真似とかは得意だからね! チェーホフの短篇『逃した魚』の内容は知っているから、恋した人に釣られたい魚を演りました。グリンは『THE BEE』で一緒にやったのが最初だよね。

グリン 『THE DIVER』『THE BEE』『One Green Bottle』の三作品を再演も含めて一緒にやっています。『THE BEE』のときも6歳の男の子の役で、僕が普段やるような役とは全然違う。イギリスはリアリズムでやる芝居が多いから、秀樹との作品づくりはとっても貴重です。

グリン・プリチャード

リロ その通り! 秀樹の芝居づくりのやり方は意外と珍しいと思う。それにわたしたちの稽古場は笑いが絶えないね! ずーっと笑っているもの! たくさん間違えて、何回も繰り返す。集中力もいるから疲れるけど、すっごく楽しい!

グリン 毎日充実しているよ。

リロ 秀樹は「一緒に楽しんで芝居を作る」というやり方だから「演出家の先生に教えてもらう」という感じではないよね。

グリン そうそう。秀樹の稽古場では意見がたくさん飛び交うんだ。秀樹は役者のアイデアも積極的に取り入れてくれるから楽しい。コミュニケーションをしっかりとりながらチームとして作品を作り上げていく。

リロ 決めてしまうことはせずに、その都度一緒にアイデアを出し合うから、どんどんよくなっていくね。

野田 やることは決まっているけど、毎回「今」の声を大事にしている。リロもグリンも、その感覚が似ていると思う。

野田秀樹

男女逆転で見えてくるもの

──家のリビングが舞台で、父親をリロさん、母親を野田さん、娘をグリンさんが演じます。男女を逆転させることについてうかがいます。どのように役を深めていきましたか。

リロ 今回、男性の役を演じるにあたり、歩き方や足を開いて座るところなど男性の所作を観察しました。男性が無意識でやっていることを意識的に真似して行動するようにしたんです。

グリン 僕の演じるピクルは現代の女の子。アニメを観て真似しながら動きを勉強しました。アニメの動きは実際の人間より動作が大袈裟なんですよ。ロンドンで近所の女の子たちの動きも観察したら、彼女たちの気持ちもわかってきました。些細なことでも「Oh my God!」と危機的な状況に陥ったみたいな反応をしていた(笑)。何か大きなドラマが起こったみたいに! 女の子がリアクションするときの心理状態もわかるようになったんです。

野田 わたしは何の違和感もないですね、お母さん役。

リロ 秀樹は女性の役をこれまでにたくさんやっているよね。

野田 男女の入れ替えができるのは演劇のよさだよね。50歳の人が10歳の役をやっても大丈夫。

リロ そう! 想像力が10歳に見せてくれるから。

野田 演劇は「ここは月の上です」と月面を歩く動作をしたら、月に連れていってくれる。映像の世界だとそうはいかない。月のセットを作ったりお金がかかりすぎちゃう(笑)。演劇はそういうところも素敵だよね。

グリン その通り。

リロ そこが芝居の美しいところ!

役を分析し作品を深める

──リロさん演じる古典演劇の巨匠である父親のボーはテーマパークが大好きで、野田さん演じる母親のブーはボーイバンドに夢中。グリンさん演じる娘のピクルはコスプレ好きでスマホが気になって仕方がない。

リロ わたしが演じるこの家のお父さん、ボーはテーマパークの「ワンダーランド」を大事にしていることからも子どもぽい性格ということがよくわかるし、「古典演劇の巨匠」という伝統的な仕事に就いていて、いわゆる普通の男性を演じることとも違ってくる。さらに女性である自分が演じることで、台詞の意味合いも変わってくるところが面白い。たとえば男性が罵詈雑言を言ったら強い言葉で怖くなってしまうけれど、女性であるわたしが男性に扮して言うと、そこにフィルターがかかるんです。

野田 フィルターがかかると観る側も考えるよね。リロが演じるボーは完全なミソジニスト。それを男性が演じると生っぽくなり過ぎるけど、女性がやるとフィルターがかかるから客観的になれる。

リロ 台詞に別の視点が加わるよね。そこが面白い。だからこそ、ボーのような日本の家父長的な男性の役を女性であるわたしがやっているところも、この作品のすごいところだと思う。

グリン 男性の僕が若い女の子の役をやるところもだけど、別の視点が加わることで作品を重層的にしていると思う。それに男性が女性に物を投げたら、すごく嫌な気分になるでしょう。

リロ それだと単純にいじめみたいに見えるから不快になっちゃいそう。

グリン そう。それを男女逆転にすると客観的に捉えられるよね。スラプスティックでコメディ的な要素があるけれど、その下にもっと深いメッセージが込められている。だからこそ、ピクルというキャラクターのリアリティをうまく表現していきたい。あんなお父さんがいたら娘としては……最悪だよね。

リロ ちょっと(笑)! どう言う意味よ?(笑)

野田 ははははは(笑)!

グリン だって、あんなお父さんがいたから、娘のピクルもカルトにハマっちゃったんだと思う。娘はどんな感情を抱えているかを考えながら、ピクルのリアリティを演じる必要があるんだ。孤独も寂しさも込めなくてはいけない。

 

家族から浮かび上がる現代社会

──三人それぞれが好きなものに固執していくあまり、徐々に家族が崩壊していきます。飼い犬のプリンセスが今にも仔犬を産みそうで面倒をみなくてはいけないのに、三人とも、なんとか外出しようとしています。

リロ たとえば、地下鉄に乗ると乗客はみんなスマホの画面をじーっと見つめているよね。コミュニケーションをしているとしてもネットを介したコミュニケーションでしかないの。

グリン そうだよね。

リロ みんな自分のことしか考えていない。この家族も、大事な家族の一員である犬の面倒をみようとしているのに、だんだん犬のことがどうでもよくなってしまう。三人とも自己中心的で、自分のことしか考えなくなっていきます。最終的に全員がチェーンで繋がれて、コミュニケーションを取らないとどうしようもなくなってしまう。テクノロジー中毒になっている人類、わたしたちはどこに向かうのだろう?

野田 個人が自分のことしか考えていない社会だよね。

グリン そう。自己中心的に幸せを追求しているよね。三人がチェーンで繋がれてしまったとき、ひとりだと何にもできないから、コミュニケーションをとって一緒になんとかする。作品を通して自己中心的になっている世の中が見えてきます。アメリカやブラジル、イギリスもそうだけど、世界の大きい国はナンバーワンになりたがって自己中心的な社会にどんどんなってきていると思う。

野田 初演時よりナショナリストが増えて、より今の話になってきたね。世界中がそうなりつつある。デジタルの世界には膨大な情報があって、コミュニケーションがいつでも取れると信じているけれど、自分の関心事にしか興味がいかなくなって、実は欠けてしまう部分が大きい。

リロ 現代人はテクノロジーから疎外されるとどうしようもできなくなるけど、自分自身の愚かさが積み重なって大きな問題になっていっていく。

グリン 恐いよね。

リロ 最後は「水を一杯くれないか?」と言って、水もなくなってどんどん暑くなっていく。家族の問題だけでなく、地球温暖化という社会問題も見えてくる作品です。

野田 「水を一杯くれないか?」と最初と最後の台詞が一緒なの。「水をください」とは地球温暖化のこともだけど人間の根源にあるもの。僕が長崎生まれということもあって「水をくれ」は原爆のときの言葉でもある。『パンドラの鐘』でも使っているけれど、地球温暖化など特定した何かだけではない大事なもの。

リロ 原爆の放射能汚染のことも想起させるしね。

グリン そうだね。この作品は家族だけが出てくるけれど現代社会も見えてくるから、とても深いメッセージがあるね。

台湾のTIFA、そしてNYのラ・ママ実験劇場へ

──『One Green Bottle』は2020年2月21日~23日まで台湾の国家両庁院実験劇場で上演され、2月29日~3月8日までアメリカ・ニューヨークのラ・ママ実験劇場で上演されます。

リロ 台湾では初めて大勢の観客の前で演じることになるので楽しみです。ラ・ママ実験劇場も初めてです。この作品にピッタリな劇場で、お客様に観てもらえるのが待ち遠しい。

野田 台湾の芸術祭TIFA(Taiwan International Festival of Arts)からずっと声を掛けてもらっていて、ありがたいことに待たれている。下見で去年行ってきたけれど、劇場の組織もよくできていて日本人も見習うべきところがたくさんある。政治家も日本がアジアの中でトップの国だと思っているけれど、いつの間にか文化的なことでもどんどん先を越されているということを知ったほうがいい。文化は越すとか越さないとかの問題ではないけれど、先端を行っているから、知っていかなくてはならない。台湾だけでなく韓国も女性がトップに立っていたし、アジアでお芝居をするのもとてもいいことだよね。

グリン 台湾も楽しみだけど、ラ・ママ実験劇場で『One Green Bottle』をやるのも重要な意味を持っていると思う。特別な機会だよね!

リロ その通り!

野田 ラ・ママは70年代に寺山修司演出の『毛皮のマリー』を上演しているから「寺山さんがやったところ」という印象がある。若いときからずっとやりたかった劇場で、いい空間だと思います。初めてのお客さんの前でやることは芝居を作る人間にとって原点。楽しみにしています。

【公演情報】

『One Green Bottle』
作・演出:野田秀樹
英語翻案:ウィル・シャープ
出演:
父 リロ・バウワー
娘 グリン・プリチャード
母 野田秀樹
演奏:田中源一郎
●台湾公演
2020年2月21日(金)~2月23日(日) 4回公演
会場:台湾 国家両庁院 実験劇場
http://npac-ntch.org/en/programs/show-2020tifa-one-green-bottle-fhqlqxl0xb
●アメリカ・ニューヨーク公演
2020年2月29日(土)~3月8日(日) 8回公演
会場:Ellen Stewart Theatre at La MaMa
http://lamama.org/one-green-bottle/
〈公演HP〉 https://www.nodamap.com/site/news/419

 

【取材/今村麻子・小田島創志   撮影・構成・文/今村麻子】

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