お芝居観るならまずはココ!雑誌『えんぶ』の情報サイト。

分断と対立の時代を家族から映し出す日英共同制作公演『野兎たち』間もなく開幕!七瀬なつみ・西川信廣インタビュー

英国の劇場Leeds Play House(リーズ・プレイハウス)と、可児市文化創造センターala(アーラ)が、強力タッグを組んだ日英共同制作公演『野兎たち』が、2月8日から16日まで新国立劇場 小劇場で上演される。(のち可児市、英国リーズでも上演)
英国のピンター賞受賞作家のブラッド・バーチが、日本各地を取材して書き下ろした作品で、英国内外で活躍する演出家のマーク・ローゼンブラットと文学座の西川信廣が共同演出で挑む。

物語は、可児市のある家族の家に、ロンドンで暮らす娘が婚約者とその母親を伴い帰ってきたことから、この一家が抱える問題が露呈し、知られざる家族の姿が浮き彫りにされていく。
今の社会と家族の問題を映し出す意欲作で、繁栄に隠された人々の孤独やストレスの背景を掘り下げ、「家族とは? 幸せとは何か?」を問いかける。

その作品に日本側の演出家として参加する西川信廣と、可児市の家族の母親役で出演する七瀬なつみに、作品の内容や可児市での滞在制作(アーティスト・イン・レジデンス)について話してもらった「えんぶ2月号」のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。

西川信廣 七瀬なつみ

経済格差や〝個〟の問題は日英に共通する社会問題

──可児市文化創造センターとリーズ・プレイハウスが共同制作する公演は、今回が初めてということですが。

西川 一緒に制作するのは初めてです。2015年に劇場提携を結んで、地域の劇場が地域社会に劇場を通して何ができるかということで、色々なプロジェクトを一緒にやってきました。その中で出てきた企画の1つで、3年くらい前から何度も英国と打ち合わせして作ってきました。演出は僕と英国のマーク・ローゼンブラットが共同で手がけています。マークはリーズ・プレイハウスの劇場付き演出家をしていたこともあって、彼の稽古場も観ていたし、気が合うこともあって彼と一緒にやろうと。作はブラッド・バーチで、RSCなどにも書いている作家です。今回、書いてもらうことになってから、日本の色々な場所に足を運んでリサーチして、今の日本の中で起きている経済格差や〝個〟の問題は、イギリスとも共通する社会問題ということで、それを国際結婚と家族を切り口に書いてくれました。

──キャストは日英で7人出演しますね。オーディションという形だったそうですが。

西川 作家や演出家のイメージ作りのために、2019年の5月に七瀬さんともう1人、日本の役者が渡英して、それにイギリスにいる日本人の俳優2人と英国人の役者2人、演出家とで、第1稿の段階で1週間くらいワークショップをしたんです。まだその段階では七瀬さんも候補の1人だったんですが。

七瀬 上演台本のイメージを作るためのワークショップという内容でした。でもそのために1週間以上イギリスに滞在して、とても贅沢な環境だなと思いました。

 

家族は再生できるかというテーマが浮かび上がる

──そしていよいよ作品作りがスタートしたわけですが、出来上がった台本を読んで感じたことは?

七瀬 私の役は日本の主婦で娘と息子がいます。息子はエリートで独立していて、娘は英国に留学して向こうで就職もして、イギリス人の恋人と結婚することになったので彼とその母親を連れて帰国してくるんです。そこから起きる色々な出来事はかなり衝撃的で、外から見ていると立派な家族に見えても、実は沢山の問題を抱えている。親は子供に愛情を注いで育てているのにうまくいくとは限らなくて、子供も一生懸命親に応えようとしてもうまくいかないこともある。そういうどうしょうもない問題が書かれています。私自身も母親なのでとても切ない気持ちになりました。でもここに書かれていることは外からは見えないだけで、どの家庭にもあるのではないかと。イギリスの母親の印象的な台詞があって、娘が外国に行ったきりで会話もろくになかった私たちに、「何十年も伸び放題の繁みを分け入って入るようなものだから」と。

西川 この家族は実はこれまでずっと問題を抱えていたんです。娘の留学も両親とうまくいってなかったからだし、息子も親の期待を受けてプレッシャーの中で苦しんでいた。芝居が進んでいくうちにそういう確執が見えてくる。それにイギリスの母と子のほうもやはり問題を抱えていることがわかってくる。そういう家族同士が、国際結婚という形で出会って話し合っていく。その中で、はたして家族は再生できるのだろうかというテーマが浮かび上がってくる。

七瀬 今回初めてこの家族は対話をするんですよね。理想で生きてきたけど実際は壊れかけている家族がようやく本音で話し合う。私は家族って、思いさえあればどんなタイミングでもどこからでも再スタートできると思っているので、観ている方にも、「つらいけどよかったね」と思ってもらえる、そういう作品になればいいなと思っているんです。

芝居のことだけ考えられる可児での豊かな時間

──イギリスでもやはり家族の崩壊は社会問題なのでしょうか?

西川 日本と同じように経済格差があるし、孤独死もあります。社会が揺らいでいると最小単位の家族も揺らぐわけで、この作品も家族を取り上げた芝居のように見えますが、今の社会がそのまま映り込んでいる。ブラッドはそういう社会的な問題を声高にではなく、でも確かな形で投影していく。柔軟でインテリジェンスがあって、言葉の表現もナチュラルです。外国の人が書いた日本の話は、ちょっと違和感があったり「日本語ではこんなふうに言わないよ」とかなりがちだけど、そこはよく勉強しています。

七瀬 とても読みやすいし、日本に寄った話になっていますね。

西川 リーズのワークショップで七瀬さんたちが1場面だけ演じて、あちらのスタッフに見てもらったらバカ受けしてたね(笑)。最初の対面のシーンとか。

七瀬 2つの家族同士のやりとりが、国の違いもあってちぐはぐになるのが可笑しかったみたいですね。そういうところなど、日本のお客様にも笑っていただけるといいですね。

──アーティスト・イン・レジデンスという形で可児市に滞在しての作品作りになりますが、参加する側にとって良い点は?

七瀬 私は4年ぶり2回目になりますが、最初は家のことをなにもしないで演劇だけに没頭できるのが嬉しくて、はしゃぎすぎてしまって(笑)。やはり芝居のことだけ考えていい時間がたっぷりあるというのは素敵なことですから。前回はオフの時間は、可児の町の色々なところに行ったりしていましたが、今回は1つ目標があって、ホテルに籠もって英語を勉強したいなと。イギリスのスタッフや俳優の方々とちゃんとコミュニケーションを取りたいので。

西川 2週間ほどイギリスでも稽古をするので、それまでに少しでも上達するといいね(笑)。僕は可児は6回目ですが、七瀬さんと同じで、打ち合わせとか会議とか他の用事を入れなくてすむので、とても豊かな時間ですね。

──2月の東京、そして可児、リーズと公演が待っています。作品を観る方たちに意気込みをぜひ。

七瀬 私にとっては、大きなエポックになると思っていて、日英共同制作の初めての作品に参加できることは本当に光栄で、外国の演出家の方も初めてなので、また新しいことに挑戦させていただけるのが嬉しいです。そして作品は、観ていただいたら家族がもっといとおしくなると思います。

西川 可児とリーズがこれまで提携してきたことの1つの成果がここで出せると思っていて、次へ繋がる新たなスタートになればいいと思っています。今は分断と対立が横行している時代で、それが国家レベルでもあるし、社会の様々なところで対立や分断が起きている。この作品は、そういうことをなくすためには対話が大事だと、声高ではなく気づかせてくれます。イギリスと日本の家族の話を通して、今の時代と自分たちの家族について、少しでも考えてもらうきっかけになればと思っています。

西川信廣 七瀬なつみ

ななせなつみ○埼玉県出身。1990年『第9回オリーブ映画祭』にて最優秀新人女優賞を受賞。その後、映画、テレビ、舞台などの幅広い活躍を経て、2006年には第40回紀伊國屋演劇賞個人賞、第13回読売演劇大賞女優賞を受賞。最近の出演舞台は、こまつ座『紙屋町さくらホテル』、可児市文化創造センター『お国と五平』など。

にしかわのぶひろ○東京都出身。文学座所属演出家。1986年から1年間、文化庁在外研修員として渡英。ロジャー・リース、ピーター・ホールらの演出助手を務める。文学座を中心に商業演劇から小劇場までストレートプレイを中心に幅広く活躍中。新国立劇場演劇研修所副所長、東京藝大客員教授、日本劇団協議会会長、日本演出者協会理事。

【公演情報】
可児市文化創造センター×リーズ・プレイハウス 日英共同制作公演『野兎たち」
作◇ブラッド・バーチ
翻訳◇常田景子
演出◇マーク・ローゼンブラット 西川信廣
出演◇スーザン・もも子・ヒングリー 小田豊 七瀬なつみ サイモン・ダーウェン アイシャ・ベニソン 田中宏樹(文学座) 永川友里(文学座)
●2/8~16◎新国立劇場 小劇場
〈料金〉一般5,000円 学生券2,500円[事前予約・当日引換券](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉石井光三オフィス 03-5797-5502(平日12:00~18:00)
●2/22~29◎可児文化センター
●3/12~21◎英国 リーズ・プレイハウス
〈公式サイト〉https://www.kpac.or.jp/event/detail_908.html

 

【構成・文/宮田華子 撮影/岩田えり】

記事を検索

観劇予報の最新記事

草彅剛・主演のシス・カンパニー公演『シラの恋文』ビジュアル公開!
数学ミステリーミュージカル『浜村渚の計算ノート』開幕!
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』井上芳雄最終日の写真到着&再演発表!
 「池袋演劇祭」まもなく開幕!
加藤拓也の最新作『いつぞやは』開幕!

旧ブログを見る

INFORMATION演劇キック概要

LINKえんぶの運営サイト

LINK公演情報