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カラフルなポップさに潜む色気のある毒 新生『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』!

ポップでありつつ、刺激的でホラーで、カルト的な人気を誇ってきたミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』が、シアタークリエで開幕した。

ミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』は、世界的大ヒット作品『リトルマーメイド』『美女と野獣』『アラジン』の音楽を手掛けた名コンビ、ハワード・アシュマンとアラン・メンケンが、1982年に世に送り出したミュージカル。1960年の同名ホラー映画のミュージカル化で、オフ・ブロードウェィで大ヒットとなり、1986年にはミュージカル映画化も果たした。超個性的なキャラクターたちと謎の植物“オードリーⅡ”が織りなす、カリカチュアでありつつ、人の心の襞にも残るストーリーとキャッチーな楽曲が、コアなファンを多く生んできていて、日本では映画化よりも早く1982年に初演。以後様々なカンパニーでの再演が続いている。今回の上演は、そんな名作を日本ミュージカル界の雄、東宝が初製作。上田一豪の演出と、鈴木拡樹、三浦宏規のWキャストによる主演をはじめ、次世代のミュージカル界を担う若手キャストが集結し、新時代の『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』が展開されている。

【STORY】
さびれた街の小さな花屋で働くシーモア(鈴木拡樹/三浦宏規Wキャスト)は、真面目で植物を育てることに生き甲斐を感じる青年だったが、何事にも自信が持てず不器用で、店主のムシュニク(岸祐二)に叱責されてばかりの日々を送っている。彼は同じ花屋で働くオードリー(妃海風/井上小百合Wキャスト)に恋をしているが、彼女は歯科医で暴力的な香りを漂わせるオリン(石井一孝)と付き合っていた。

ある日、閑古鳥が続く店をたたむ、お前たちはクビだ!と言い出したムシュニクをとりなそうと、シーモアは町で手に入れた奇妙な植物を見せる。意中の人オードリーにちなんで、“オードリーⅡ”と名付けた、その謎の植物をウィンドウに置いた途端、花屋は“オードリーⅡ”に興味を引かれて訪れる客たちであっと言う間に大繁盛。シーモアも、不思議な植物を育てる青年として一躍脚光を浴びるようになる。だが、人びとを魅了する不思議な力を持つ“オードリーⅡ”には、一方で、ある重大な秘密が隠されていた。“オードリーⅡ”によって人生が一変したシーモアは、なんとかその秘密を守り、“オードリーⅡ”を大きく育てようとするが……。

舞台に接して改めて驚かされるのは、本邦初演から数えても、既に三十数年の月日が流れているこの作品が、2020年の現在でも全く古さを感じさせないことだった。それどころかむしろこれまで、革新的な作品を多く扱ってきたシアタークリエの舞台に、作品の世界観がものの見事にマッチしていて、コード付き電話などの描写こそあるものの、観ているうちにこれが現代の話だと言われたら、そのまま信じられるストーリーの普遍性に気づかされることになった。特に、本邦初演の1984年には、何よりも斬新に映ったドラマを進めていく三人のガールズたちのダイナミックな歌声や、作品の中での在りようが、今見るとミュージカルのひとつの定番的な存在に見えるばかりか、彼女たち、更にメインキャストたちの歌うミュージカル・ナンバーのキャッチーなメロディーの数々に、懐メロ感が全くないのも驚異的だ。それだけこの作品が如何に時代を先取りしていたかがわかるし、特に今回の上演では、翻訳・訳詞・演出の上田一豪の空間を縦横に使う得意の演出はもちろん、演劇の世界に3D効果を持ち込んだアイディアが非常に面白く、これは是非劇場で確かめて欲しい妙味となっている。美術の石原敬、照明の関口大和、衣裳の前田文子らのスタッフワークが作り出す、カラフルでポップな舞台面も面白く、育ち続ける“オードリーⅡ”の存在感からも目が離せない。

中でも今回は、これまで2.5次元世界で活躍してきた鈴木拡樹と三浦宏規、元宝塚歌劇団トップ娘役の妃海風、この作品が乃木坂46メンバーとしての最後の活動となるアイドルの井上小百合という、現在活況を極める日本のミュージカルシーンに欠かせない人材を多く輩出してきた出自を持つ若手キャスト陣を、ミュージカル界のベテラン岸祐二、石井一考が支えるカンパニーの座りの良さがずば抜けていて、それぞれの活躍が楽しめる。

主人公シーモアの鈴木拡樹は、全てに自信が持てず過度に自分を卑下しがちなシーモアを、立ち居振る舞いや細かい仕草までキッチュに表現していて、本当にあの爽やかな鈴木拡樹?と、確認したくなるほどの作り込みで惹き付ける。後半に向かっての変化と混乱の表現も巧みで、カーテンコールで登場する笑顔にホッとさせられるほど突き詰めた芝居を披露してくれた。

もう一人のシーモア三浦宏規は、メガネを外したらとびっきり素敵な王子様に変身するのでは?という少女漫画のドリームを根底に持つ(この作品の展開は決してそうではないが)チャーミングさでまず魅了する。更に、バレエで培った身のこなしだけでなく、歌唱力に長足の進歩があり、伸びやかな歌声が耳に心地よい。ミュージカルスターとして今後一気に花開いていくのでは?との期待が高まった。

オードリーの妃海風は、宝塚歌劇団トップ娘役時代から確かな演技力と歌唱力に定評のある人だったが、女優としての活動の中で、伸び伸びと演技し歌い踊る姿のキュートさがより際立ってきている。今回のオードリーは声色もすっかり変化させていて、日本初演の桜田淳子以降、この役柄に連綿と引き継がれてきた個性を継承しつつ、妃海独自の深みも加え、ヒロイン力の高さを見せつけた。

一方の井上小百合は、同じシアタークリエでミュージカルデビューを飾った『リトル・ウィメン~若草物語~』の三女ベス役の好演以来、『フラガール』を経て、作品ごとに階段を駆け上がるスピードの速さに驚嘆する。このオードリー役も、井上の持ち味を生かした独自の表現が新鮮で、乃木坂46の一員としての最後の舞台を見事に飾った。生田絵梨花、桜井玲香など、ミュージカル界で確かな歩みを続けている乃木坂ブランドが本物なことを証明していて、今後の活躍が一層楽しみだ。

そんな組み合わせの妙味もあるWキャストを支える、ムシュニクの岸祐二は、フライヤーのイメージよりもグッとシリアスさを増して、役柄の抜け目なさと共にある頑固さを十二分に表現している。ここが押さえられていることによって、後半の展開の真実味がより増してくる効果があり、岸らしい巧みな役作りになった。

サディスティックな歯科医オリンの石井一考は、凝縮された出番の中でアクが強いだけでなく、“ノリノリ”と表現したくなる、もうなんとも楽しそうな演じぶりが観ていても嬉しくなる造形で強いアクセントになっている。持ちナンバーも適度に濃い迫力の歌いっぷりでこれぞ石井ワールドを展開。こう来たか!と膝を打つ抱腹絶倒の出方もあるので、是非注目して欲しい。

ここに、物語を冒頭から牽引するガールズたち、まりゑ、清水彩花、塚本直の協調しながら個性的なハーモニーと演技、榎本成志と高瀬雄史の好助演が加わり、更に、“オードリーⅡ”の声にデーモン閣下を起用し、作品に色気のある毒を加味した贅沢さが奥行きを与えていて、さすが東宝版!というべき『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の誕生となっている。

 

【公演情報】
ミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』
脚本・歌詞◇ハワード・アシュマン
音楽◇アラン・メンケン
翻訳・訳詞・演出◇上田一豪
出演◇鈴木拡樹/三浦宏規(Wキャスト)
妃海風/井上小百合(乃木坂46)(Wキャスト)
岸祐二 石井一孝
デーモン閣下(声の出演)
まりゑ 清水彩花 塚本直/榎本成志 高瀬雄史
●3/20~4/1◎シアタークリエ
〈料金〉11.500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半~17時半)
〈全国公演スケジュール〉
●4/11~12◎山形・山形市民会館
〈お問い合わせ〉山形市民会館 023-642-3121
●4/14~16◎愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
〈お問い合わせ〉キョードー東海 052−972−7466
●4/18◎静岡・静岡市清水文化会館マリナート
〈お問い合わせ〉キョードー東海 052−972−7466
●4/20~27◎大阪・新歌舞伎座
〈お問い合わせ〉新歌舞伎座 営業部 06-7730-2121
https://www.tohostage.com/little-shop-of-horrors/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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