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劇団青年座235回公演『SWEAT』久留飛雄己インタビュー


2017年度ピュリッツァー賞(戯曲部門)を受賞した注目作『SWEAT』が、青年座の精鋭俳優たちの出演で3月6日から上演される。(12日まで下北沢・駅前劇場)

背景になるのはアメリカのラストベルト(錆びついた工業地帯)と呼ばれる地域の中でも、最も貧しい街の一つとされるペンシルバニア州レディング、時代は共和党のブッシュが大統領になる直前の2000年から、退任間近の2008年まで、経済のグローバル化と移民政策によって強い不安と不満を抱える労働者たちの姿を描いている。上演当時は、登場人物の描写が先の大統領選においてトランプ勝利に大きな役割を果たした層(「忘れられた人々」)と重なるため話題となり、大手経済紙などで大統領選の本質を説明した作品と評された。

登場するのはドイツ系白人、黒人、イタリア系白人の3人の女性とその息子や夫、そして周辺の人々。会社が更なるコストダウンを目標に掲げ、メキシコへの工場移転を発表したことで、組合はストライキを決行するが、反対に工場から締め出され、賃金の安い移民に仕事を奪われてしまう。そんな状況の中で起きた事件を中心に、極端な分断化が進む現代アメリカ社会のリアルに描き出していく。

出演は松熊つる松、佐野美幸、野々村のん、加藤満、山賀教弘、五十嵐明、逢笠恵祐、久留飛雄己、松田周。

この舞台で、ドイツ系白人の青年、ジェイソンを演じる若手俳優の久留飛雄己(くるび・ゆうき)に作品や役柄のことを話してもらった。

平和な関係が状況の変化で 分断化されていく

──この戯曲を読んだときの印象から聞かせてください。

まず、読んで面白かったですし、やってみたい作品だなと思いました。時代は2000年から2008年の間の出来事で、アメリカのペンシルバニアの話ですから、一見、今の自分たちと遠いようにも思えるのですが、扱っている問題は普遍的で、自分たちとも共通性があるし、根底に流れている作者の言いたかったことは、日本人にとっても訴えかけるものがあると思いました。

──役柄はジェイソンというドイツ系の青年ですが、どう捉えていますか?

まず彼は罪を犯します。そして刑務所に入って罪を償うわけですが、その罪と向き合ってこれからどういう人間になっていくのか、そこを考えていくことが必要だと思っています。

──その事件のきっかけになるのが、2000年に彼らが働いている工場に移転問題とリストラがあり、その中で人種問題などが浮かび上がりますね。

戯曲の構造としては、僕のジェイソンと母親のトレーシー(松熊つる松)、そして仲の良いクリス(逢笠恵祐)という黒人の青年とその母親のシンシア(野々村のん)という2組の親子関係の対比。また、ジェイソンとクリスという若い世代同士、母親世代同士の人間関係が出てきます。さらに女性と男性の違いや人種の違いなど、あらゆる対比が芝居の中で出てくるのですが、背景も関係性もすごく流動的で、色々な要素が絡み合いながら展開します。台詞は日常会話で話される部分が多いので、そのぶん台詞に説得力をどう出すかが難しいと思いますが、相手との関係性、いわば相手とのラリーをどう続けながら面白く見せていくか、そこにかかっていると思います。

──工場とそれを取り巻く地域社会で、最初は仲良く暮らしていた人間たちが、ついには暴力事件を起こすところまで関係がこじれていきます。

最初の頃のシーンでは一見平和で笑いもあるのですが、実は沢山の違和感が、これから問題に発展していくであろう違和感が散りばめられいるはずなので、そこをちゃんと提示したいなと思っています。本当だったらおかしなところがいっぱいあって、そこから少しずつ崩れていく。その変化を見せていくわけですから。

──母親3人の友情も、実はとても危ういところに成り立っていたのがわかります。

何もない時には、それでも成り立っていたのですが、工場に問題が起きるとそれが崩れて分断化されていく。ジェイソンとクリスの仲も同じです。

──2000年という年は、共和党のブッシュが大統領になる直前で、そういうアメリカの政治状況がこの物語の根底にはありますね。

そこはトランプが大統領になっている今のアメリカの状況にも重なりますし、アメリカ社会のネガティブな部分や、闇の部分も見えるので、すごく面白いです。この戯曲は、アメリカ国内での上演だったら、その年が何年と言うだけで、当時の社会の空気が想像つくと思います。演じる俳優についても、ドイツ系、黒人、イタリア系というように、外見でわかるキャスティングが成立する。アメリカなら説明なしでわかる部分を、日本人の僕らは俳優の演技で表現しなくてはならない。そこに僕らの力量が問われる部分があると思います。

2000年から2008年という時間を劇構造の面白さで見せる

──劇中で久留飛さんと共に若者チームを演じるのが、クリス役の逢笠恵祐さんとオスカー役の松田周さんです。

逢笠さんとは一緒の舞台は初めてなんです。僕は新人の頃に逢笠さんの出ている作品の稽古場に付いていますし、同じ福島市の出身ということで親近感を持っていたので、話しやすい先輩です。松田君とは研究所時代から芝居の話だけでなく言いたいことを言いまくる仲です(笑)。でもそれだけ信頼関係があるので、一緒にこの作品に取り組めるのが嬉しいです。今、稽古場も台本の中の人間関係と同じような感じで、お母さん世代の3人の方は休憩中も一緒にいて、いつも笑ってたり楽しそうです。若者チームも役について話し合っています。松田君のオスカーとは役柄上はちょっと微妙な間柄ですが(笑)。

──オスカーは1人立場が違いますね。スト破り的なことをするわけですが、そこには人種のヒエラルキーが影響しています。

人間って「偏見はないよ」とか言いながら、まったくの無自覚で差別をしていたりする。あいつより自分のほうが上とか、いけないことだというのは分かってて、でも誰にもあるんですよね。そしてそれをフラストレーションのはけ口にする。それは日本でも会社とか組織とか地域とか、あらゆるコミュニティの中にはあって、いつでも誰にでも起こりうることだなと。

──この作品ではそこから事件が起きるわけですが、そこに至るプロセスをとても巧みに見せていきますね。

この戯曲は構造がすごく面白いんです。2人の若者が罪を犯して、そこからどう成長していくのかという話ではあるのですが、最初に罪を犯して出所した2008年から始まるんです。そして8年前に戻って事件が起きた過程をすべて見せて、それとどう向き合ったかという行動のきっかけだけを残して終わります。そのあとどうなりましたというのは見せない。ごちゃごちゃになった人間関係が、ある種の和解への瞬間を待っていて、そこから先は想像していただく。登場人物たちは色々なものを失って、すごくつらい思いをして、絶望の中にまだいるのですが、でもほんのかすかに希望が感じられるような終わり方になっています。そういう内容を、劇構造の仕掛けで面白く見せていくのが、この戯曲の魅力で、そこが一番の見どころだと思います。

自分の一挙手一投足に 人が注目する気持ちよさ

──久留飛さん個人のことも伺いたいのですが、芝居の世界には?

高校までは全くやってなくて、大学が山梨だったんですが、その頃、海外ボランティアでインドに行ったんです。専攻が日本語教師とか外国人観光客の研究とか、そういう関係だったので、何か力になれればと軽い気持ちで行ったんです。最初に現地で働くNGO団体の方が面談をしてくださって、「何をやりたくて、何のためにここにきたの?」と聞かれたのですが、僕はあまり突き詰めて考えてなかったんです。そこをすごく突っ込まれて泣いちゃって(笑)。「じゃあインドにいる間に、自分のしたいことを見つけてみたらいい」と。でも半年ほどいたのですが明確にやりたいことが見つからなくて、結局自分は誰かにとってのヒーローみたいなものになりたいのかなと、そんな答を見つけて、日本に帰ってきたんです。そして例えば医者でもいいし、消防士や警察官もいいなと、色々なヒーロー像を考えていくうちに、特撮のヒーローに思い当たって、「そうか俳優なら何にでもなれるんだ」と(笑)。そこで俳優になろうと決めて、友達とアマチュア劇団を立ち上げて何本か出たりするうちに、舞台で自分の一挙手一投足に人が注目してくれる瞬間は、なんて気持ちいいのだろうと(笑)。

──恥ずかしいとか見られるのが怖いとかは?

全くなかったです。それまで自分が漠然と持っていたフラストレーションが、演劇をやったことですべて満たされたんです。そこからは演劇まっしぐらで(笑)。たまたま新劇団の方が山梨で市民劇を主宰していたことで、初めて文学座とか青年座とか劇団があることも知って、その仲間の人から、「君は青年座向きだよ」と言われて、それで受けてみようと。

──そしていきなり研究所に入れたわけですね。そこからあとも選ばれて入団して、さらに初舞台から次々に注目作に出演しています。なぜ自分がここまで来れたと思いますか?

なぜでしょうね?  歌は苦手だし、ダンスもあまりうまくないし。ただ山梨で芝居しているとき、ちょっと演劇に詳しい方が、「あいつはプロでも通用するかもしれない」と言ってくれたそうで、それを聞いたこともあって、今にして思えば根拠のない自信に満ちていたんだと思います。研究所にもすっかり入れるつもりで、むしろ入れないなんてあり得ないと(笑)。入れないようならそもそもやるべきじゃないと思っていましたから。研究所から劇団に入るときも、選ばれる人じゃないとダメなんだと。そういう気持ちで2年間を過ごしてましたから、周りから見たらエラそうだったと思います(笑)。でもうちの同期はけっこうそういう人間が多かったんです。

──那須凜さん、松田周さん、當銀祥恵さん、そして研究所出身ではないけれど同期入団の世奈さんと、楽しみな人ばかりですね。

今、残っている5人以外にも、馴れ合いを好まず我が道を行こうとする人ばかりで(笑)まるで動物園みたいでした。いつもあちこちで誰かが喧嘩してるという(笑)、「最後にリングで立っていた者が勝ち」みたいなサバイバル状態でした(笑)。でも卒業して4年経って、今は同期仲がすごく良いんです。

──『砂塵のニケ』では那須凜さんと、今回は松田さんと、同期との共演はどういう気持ちですか?

やはり安心できるし信頼もしています。でも俺より良い芝居するなよと(笑)。お互いにそう思ってるかも知れません(笑)。でも同期の活躍は誇りです。5人とも個性がかぶってなくて、それぞれの良さを十分発揮しているので、もっと頭角を現していきたいし、一緒に成長していきたいです。

批評される矢面に 立ってみたかった

──久留飛さんは色々意欲的で、確か1昨年12月に青年座スタジオ公演『眞田風雲録』のプロデュースも手がけていますね。

演出の磯村純さんと一緒に、自分たちでやりたいことを実現するという自分本位の企画でした。僕は『眞田風雲録』が好きで、佐助をやりたかったんです。それでキャスティングから磯村さんと考えたり、皆さんの力を借りて、なんとか実現できました。

──実現させてみて一番良かったことは?

僕はなぜ佐助をやりたかったというと、あの役が好きだったのと同時に、自分がやるのが難しい役に直面してみたいと思ったんです。たとえば劇団の作品などでは久留飛雄己のイメージというのがあって、それに合わせた役が付くわけです。でも自分で自分をキャスティングするとしたら、できるかできないかわからないけどやってみたい役に挑戦しようと。そして批評が聞きたかった。役への批評って、芝居の中で批評されやすいポジション以外だと、あまり声が聞こえてこないんです。だからもっと自分への批評が聞きたかったし、観た方に一番言われるところに立ってみたかった。確かに佐助役は賛否両論聞こえてきました。荷が重かったんじゃないかという声もありました。でもそういうことも含めて矢面に立ってみたかったんです。もちろん良くないという意見には傷つくんですけど、でも力が足りなかったのならちゃんと傷つけばいいので。

──そういう貪欲さは役者として必要ですね。それに自由にやらせてくれる劇団も素敵です。

僕は劇団の情報を持たないまま入ったんですが、でも研究所で劇団の芝居を沢山観る機会があって、どれも面白かったし、入ってから青年座が好きになったと言っても過言ではないんです。老舗の劇団ですけど、すごく自由で、話を聞いてくれるし、やりたいようにやらせてくれる。気持ちとしては自分の家(笑)みたいです。外の仕事をして劇団に戻るとホッとしたり、用もないのに製作部に遊びに行ったり(笑)。そういう場所だからこそ、稽古場でもリラックスしてやれるし、どんな恥ずかしいところを見られても平気なんです。

──この公演でもそのペースでがんばってください。最後に改めて作品のアピールをぜひ。

アメリカの労働者たちを描いた作品なのですが、遠い国の遠い話ではなく、日本のこれからにも共通するところも沢山あると思います。それを面白い仕掛けの劇構造で、濃厚濃密なお芝居に作り上げています。ある意味では心をえぐられるようなお芝居ですが、観終わったあとに、きっと残るものがあると思います。ぜひ観にいらしてください。

くるびゆうき○福島県出身、2015年入団。主な出演舞台は、2015年『外交官』青年座劇場(太田三郎役)、2016年『砂漠のクリスマス』青年座劇場(トリップ・ワイエス役)、2017年『見よ、飛行機の高く飛べるを』全国公演(板谷順吉役)、2017年『砂塵のニケ』青年座劇場(津村拓郎役)。外部出演は2016年『人類最初のキス』青年座スタジオ公演・青年座劇場、『眞田風雲録』青年座スタジオ公演・青年座劇場。

〈公演情報〉

劇団青年座235回公演 『SWEAT』

作◇リン・ノッテージ

翻訳=小田島恒志、小田島則子

演出◇伊藤大

出演◇松熊つる松 佐野美幸 野々村のん 加藤満 山賀教弘 五十嵐明 逢笠恵祐 久留飛雄己 松田周(※逢笠さんの逢は一点しんにょうです) 

●3/6~12◎駅前劇場

入場料(全席指定・税込)一般4,500円  ※U25(25 歳以下)3,000円 U18(18歳以下)2,000円 ※青年座のみ取扱い・当日受付精算のみ

〈お問い合わせ〉劇団青年座 0120-291-481(チケット専用 11時~18時、土日祝日除く) http://seinenza.com

http://seinenza.com/performance/public/235.html  

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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