劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』上演中! 倉持裕・粟根まことインタビュー
劇団☆新感線の39周年を記念する2019年 劇団☆新感線 39興行、その夏秋公演、いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』が、7月15日よりTBS赤坂ACTシアターにて上演中だ。(8月24日まで。そののち福岡、大阪公演あり)
脚本をつとめるのは倉持裕、2016年のいのうえ歌舞伎《黒》BLACK『乱鶯』に続いて、演出のいのうえひでのりとは2度目のタッグとなる。
物語の舞台は戦国時代。頭の切れる軍配士(古田新太)とズル賢い謎の浪人(池田成志)が、政略結婚を解消して大名家を飛び出してきたお姫様(清野菜名)を、実家まで送り届けることになる。その道中で巻き起こる敵味方入り乱れての大騒動が豪華キャストで描かれる。
(※舞台写真 http://enbu.co.jp/kangekiyoho/shinkansen-alternative-201907/)
いのうえからのオーダーで『隠し砦の三悪人』と『走れメロス』を合わせたような王道の娯楽時代劇となった本作について、脚本の倉持裕と、怪しき寺の住職役の粟根まことに、新作の内容を語ってもらった「えんぶ8月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。
『隠し砦の三悪人』と『走れメロス』というオーダー
──倉持さんとの第1作『乱鶯』とはだいぶ印象が違う作品のようですね。
粟根 いのうえがオーダーした通り、クロサワ映画の持つ渋さと、『隠し砦の三悪人』にも出てくるようなユーモアがあります。さらに『走れメロス』ですから、古田新太が仲間のために、ある場所まで行って戻ってくるというのが核になっていて、途中で池田成志さん扮する浪人を巻き込んだり、お家騒動あり、『用心棒』に出てくるような策略ありと、クロサワ映画のエッセンスを倉持さんの軽妙な会話で織りなしてあって、読んでいて本当に面白いです。
──『隠し砦の三悪人』と『走れメロス』をよく1つにまとめられましたね。
倉持 両方ともどこかを目指しているわけですから、そこに戻らなければいけない理由があればいいので。『隠し砦の三悪人』は味方の領に行かなければならない。『走れメロス』は人質も取られている。その状況を足して構成すればいい。そんなに難しいことはなかったです。いのうえさんのオーダーはとても分かりやすくて、自分としては齟齬なく書き進められました。
──いのうえさんは「クロサワ映画へのオマージュ」と言っています。
粟根 男の好きなパターンなんですよね。活劇あり笑いあり、シーンがカッコいい。魅力的な悪役が出てくる。日本だけじゃなく世界に共通する男のロマンが入ってます。それをどこまで舞台で見せられるかが、いのうえのやりたいことなんです。
──倉持さんはクロサワ作品は?
倉持 全部見ているわけではありませんが好きです。主人公がすごく強いんですが、あまりマッチョじゃない。インテリジェンスがあるというか、ほぼ頭で戦っている。
粟根 どう戦略を立ててどう攻めるかを常に考えているんですよね。
倉持 いよいよとなったら刀を抜く。そこまでの時間が長いんですが、そういうほうが僕も好きだし新感線にも似合うのかなと。それに今おっしゃったユーモアもあって、新感線とは親和性が強いですね。前回の『乱鶯』でも思ったんですけど、新感線の役者さんたちは会話劇も上手いんです。だからそんなに動かなくても、色々な見せ方ができると思っています。
『乱鶯』で得た理解をもとに今作は当て書きを
──粟根さんは『乱鶯』で倉持さんの台詞を喋っていかがでした?
粟根 新感線は中島かずき脚本が一番多いんですが、同じ時代劇でもまったく違うなと。キャラクターの行動原理も違うし、言葉も違う。中島は比較的ストレートで、「俺はお前がキライだ」とはっきり言う。書いてあるものをそのまま読めば掛け合いになる。倉持さんの言葉は裏に別の意味が必ず隠されていて、いくつかの言葉や、いくつかのシーンを重ね合わせて見たとき、色濃く出てくるのがその人の本質なんです。そういう構造がやってても楽しいですし、観ていても中島作品とは違う楽しみ方ができるんです。
──『乱鶯』では、粟根さんは幽霊の役ですごく面白かったですね。
倉持 見事に役割りを果たしてくれました。実は書くときちょっと勇気がいったんです。古田さんの十三郎との二人芝居になってしまうし、けっこう骨の折れるシーンばかりになるので申し訳ないなと。本番を見てこちらの杞憂だったなと。
粟根 我々も楽しかったです。(橋本)じゅんさんも笑いを封印して悪に徹して、それぞれ今までの新感線にはなかった挑戦がありました。でも今回は当て書きになってて、凄いです。古田くんと成志さんのシーンなど、文字で読んでいるのに全部2人のトーンで入ってくる。成志さんは胡散臭い役で(笑)、ウソにウソを重ねていくんですが、こうやるんだろうなというのも浮かんできて、面白くてしかたないです(笑)。
倉持 『乱鶯』を書いたことは大きかったですね。その前ももちろん新感線は観ていたのですが、自分の書いた台詞を喋ってくれると、その役者の姿勢なりアプローチの仕方なりへの理解が違うんです。だから今回すごく書きやすかった。
──粟根さんの役は古田さんたちの敵方ですか?
粟根 高田聖子さんが敵の大ボスに近い位置ですね。僕は第三勢力です。
倉持 大きな組織のボスで、頭を使ってなんとか生き抜こうとしている。平たく言えばズルイ人です(笑)。
粟根 胡散臭い台詞を並べて自分を正当化するんです(笑)。味方になったり敵になったり、国盗りの話でありながら二転三転します。
──まるでゲームですね。
粟根 詰め将棋みたいです。そういう騙し合いの面白さをお客様に楽しんでいただければ。
「仕方ないなあ」と言いながら並走していく劇団員
──この公演は劇団☆新感線の39興行で、劇団はもう39年も続いています。
粟根 続いていることが奇跡だと思います。
倉持 僕が芝居を始めた頃すでに有名でしたからね。凄いなと思うのは、僕に執筆を依頼してくれたこともですが、色々な挑戦をやめない。しかも僕が書いても新感線として成立する。それだけ強固なんですね。
──続いてきた理由はなんでしょう?
粟根 一番はいのうえひでのりという男が、「今これがカッコいいと思う、面白いと思う」というものが確固とあって、そのいのうえを好きな人間が劇団員として残っていて、これがやりたいと言われたら「仕方ないなあ」と言いながら一生懸命に作ってきた。でもいのうえが要求していることは、小劇場でやってた頃から基本変わってないんです。もちろん新しくあの作家さんに書いてもらいたい、あの役者さんに出て欲しいという夢もいのうえは持っているので、僕らもそれを実現できる集団でありたいと思っています。
──倉持さんにとって新感線とのコラボでフィードバックするものは?
倉持 演出面が多いですね。自分の書いた本だからこうなるかなという想像があるけど、それを超えてくる。派手にするだけじゃなく大きく届ける。大勢を相手取るというのはこういうアプローチの仕方をするんだと。そこにすごく感動します。
──来年は40周年ですが、まだまだいけそうですね。
粟根 我々も体力は衰えますが、できる限りいのうえと並走していきたいですね。
くらもちゆたか○神奈川県出身。2000年劇団ペンギンプルペイルパイルズを旗揚げ、主宰。以降すべての劇団作品の脚本・演出を手がける。 『ワンマン・ショー』にて第48回岸田國士戯曲賞受賞。近年ではTVドラマや映画の脚本も手がけ、活動の幅を広げている。最近の舞台作品は、竹生企画『火星の二人』(作・演出)ミュージカル『HEADS UP!/ヘッズ・アップ!』(脚本)『誰か席について』(作・演出)『鎌塚氏、腹におさめる』(作・演出)妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』(脚本・演出)『お勢登場』(作・演出)。コント執筆を手がける『LIFE!~人生に捧げるコント~』(NHK)が放送中。
あわねまこと○大阪府出身。1985年『ヒデマロ2』より劇団☆新感線に参加。実力派俳優としてコメディからミュージカルまで出演。イラスト、雑誌コラム執筆など幅広く活躍。劇団公演は『髑髏城の七人』Season 鳥『髑髏城の七人』Season月<上弦の月>『メタルマクベス』disc1『メタルマクベス』disc3「39興行・いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌』」、劇団以外の舞台は『真田十勇士』『SKIP』『トリスケリオンの靴音』『若様組まいる~アイスクリン強し~』『+GOLD FISH』など。
【公演情報】
2019年 劇団☆新感線 39興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』
作:倉持 裕
演出:いのうえひでのり
出演:古田新太/早乙女太一 清野菜名 須賀健太 高田聖子 粟根まこと/池田成志 ほか
●7/15~8/24◎TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席13,800円 A席10,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10:00~18:00)
●9/6~23◎博多座
〈料金〉一等席14,000円 二等席10,000円(全席指定・税込)
〈発売日〉2019年7月20日(土) am10:00~
〈お問い合わせ〉博多座電話予約センター 092-263-5555(10:00~18:00)
●10/8~21◎フェスティバルホール
〈料金〉S席13,800円 A席11,500円 B席9,500円(全席指定・税込)
〈発売日〉2019年7月28日(日) am10:00~
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)
〈公演公式サイト〉http://www.vi-shinkansen.co.jp/kemurinogundan/
【構成・文/宮田華子 撮影/友澤綾乃】
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