お芝居観るならまずはココ!雑誌『えんぶ』の情報サイト。

1世紀にわたる道化師の一生を描く一人芝居『スカラムーシュ・ジョーンズ』鵜山仁・加藤健一 インタビュー 

加藤健一がその代名詞ともいえる一人芝居『審判』上演のため、加藤健一事務所を立ち上げてから、今年で42年。再び、新しい一人芝居『スカラムーシュ・ジョーンズor(あるいは)七つの白い仮面』に挑む!

【STORY】
1899年12月31日、十九世紀の終わり、大晦日のカーニバルの中、美しい褐色の肌を持つ女から生まれた小さな赤ん坊は抜けるように白く、何か特別なことのために生まれてきた子だ…と、つけられた名前は道化師を意味する、スカラムーシュ。

生涯で唯一“我が家”だといえる場所を僅か6歳で後にし、たった一日で孤児となり、奴隷となり、流浪の身となり…そしてこれが、これから長く続く波瀾万丈な旅路へのスタートとなる。
時にその光景や匂いに恍惚とし、この世のものとは思えぬ魅力的な音楽と共に旅をした。
自身の透き通るような白い肌によって巻き込まれた数奇な運命は、恐怖と喜びに満ちていた。

そして今夜は1999年12月31日、二十世紀のどん尻でありミレニアム・イブ。
大きな花火が打ち上がる大晦日にスカラムーシュ―道化師―が己の人生を、面を剥がすように語り始める──。

ある道化師の1世紀にわたる劇的な一生を、その役者として持てるすべてを注ぎ込んで演じる加藤健一。そして演出として加藤と息の合ったタッグを組む鵜山仁。2人が語り合うこの物語世界とは?

「えんぶ8月号」に掲載された加藤健一と演出の鵜山仁のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。

鵜山仁・加藤健一

人間は地球の歴史や人類の歴史を身体に持っている

──一人芝居『審判』の初演から42年、また新しい一人芝居に挑むことになりました

加藤 想像以上にたいへんです(笑)。覚えてしまえば体力的には『審判』よりラクなのですが、スカラムーシュは世界中を渡り歩くので、とにかく人名と地名が多いんです。

──スカラムーシュは1世紀を生きたわけですから膨大な情報量でしょうね。

加藤 ただ語られるのは前半生の50年で、サーカスで本物の道化師となった後半生については、なぜか彼は口を閉ざしてしまうんです。この物語は作家が自分の人生になぞらえているそうですが、どんな生き方をしてきたんだろうと。相当たいへんな人生だったようです。

──鵜山さんはこの作品をどう捉えていますか?

鵜山 00年を一巡りと考えると、これはそこから悠久の時空にシフトできる話だと思うんです。またそれを何度も演じ直すことで、人の一生というスパンを超えていく。そんなことが芝居にはできるし、役者というものの魅力もそこにあると思っています。僕はここ数年、生きている人間、生きて目に見える人間のことだけを芝居にしていてもしょうがない、死んだ人たちとか月と星と太陽と一緒に芝居をするというようなことを、もっと考えないと駄目なんじゃないかと思っているんです。1人の人間の生死を超えて繋がっていく表現みたいなものがあるとすると、それは加藤さんという役者さんとスカラムーシュという登場人物の遺伝子みたいなものを、どう繋げるかということではないかと。

加藤 ちょっと違う意味になりますが、この作品にも強制収容所の話が出てくるんですが、今起きている状況を考えると、なんとも言えない気持ちになりますね。

鵜山 加藤さんは別に強制収容所にいたわけではないけれど、そういう記憶があるんですよね。つまり人間は、そういう地球の歴史や人類の歴史を身体に持っていて、遺伝子というかたちで蓄積している。それをベースにしないと表現なんかできないし、それこそが芝居の得意技というか、そういう記憶を呼び寄せるパワーを俳優とか舞台という場所は持っている。むしろ僕らはそういうことがやりたくて芝居をやっているんじゃないかと思うんです。

これ以上はできませんというぐらいすごい舞台に

──おふたりは何度も共同作業をしていることで、強い信頼関係があるのを感じます。

加藤 もちろん全面的に信頼していますし、役者として演出家のやりたいということは全部やります。それは基本的にどの演出家の方にもそういう姿勢なのですが。ただお互いに100%理解できるわけではないし、やはり新作はお互いに霧の中でこっちだよと言い合って作っていく感覚ですね。

鵜山 加藤さんがご自分の事務所でやっていらっしゃることと、俳優としての加藤さんは繋がっていて、完全に駄目なことではない限り全てを受け入れるという姿勢があるので、そこはやりやすいです。僕は良いものをつくるための多少の軋轢ならOKで、「1+1は2」みたいなことはやりたくない。いろんなズレとか思ってもみないノイズが入ってくることで、新しいものが生まれる。そのために稽古をしているというところがある。珍しい声が聞きたいとか見たことのない表情が見たいんです。加藤さんも恐らく「1+1は2」以上の答えを探している。そこが僕と合うところかなと思っています。

──最後にこの公演を観に来られる方へのメッセージをいただけますか。

加藤 この一人芝居は、コロナ禍で打撃を受けたとき、いろいろな人にたいへんお世話になったんです。まだコロナは終息してはいませんが、そのお礼の気持ちをどう表わそうと思ったとき、これ以上はできませんというぐらいすごい舞台をお見せすることが、お礼になるかなと思ったんです。だから今まで観たことがないような空間にしたい。そして、観てよかったなと思ってもらえたら、少しはお返しになるかなと思っています。

鵜山 別役実さんがおっしゃっていたんですが、死ぬことをコントにできたらいいねと。死を笑うというか、演じ切ることで死を乗り越える。それは先ほどの話の「生きている人間の狭い世界だけのことを考えるのではない」ということにも繋がると思うので。そういう不可知の世界の囁きみたいなものをこの芝居で届けられるといいなと思っています。

鵜山仁・加藤健一

かとうけんいち○静岡県出身。1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を創立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞個人賞(82、94 年)、文化庁芸術祭賞(88、90、94、01年)、第9回読売演劇大賞優秀演出家賞(02年)、第11回読売演劇大賞優秀男優賞(04年)、第38回菊田一夫演劇賞、他演劇賞多数受賞。2007年、紫綬褒章受章。2016年、映画『母と暮せば』で第70回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。

うやまひとし○奈良県出身。慶應義塾大学文学部フランス文学科卒業。舞台芸術学院を経て文学座附属演劇研究所に入所、1982年座員に昇格。2007年6月~2010年8月、新国立劇場の第四代演劇芸術監督を務める。舞台芸術学院学長。主な代表作に『グリークス』(文学座/第25回紀伊國屋演劇賞団体賞)『コペンハーゲン』(新国立劇場/第9回読売演劇大賞優秀演出家賞)『父と暮せば』『円生と志ん生』(以上こまつ座)『ヘンリー六世』『リチャード二世』(以上新国立劇場)、またオペラやミュージカルなどの演出も手がける。

【公演情報】
加藤健一事務所vol.112
『スカラームーシュ・ジョーンズ または七つの白い仮面』
作:ジャスティン・ブッチャー
訳:松岡和子
演出:鵜山 仁
出演:加藤健一
●8/18~28◎下北沢・本多劇場
〈公式サイト〉http://katoken.la.coocan.jp/112-index.html

★こちらのインタビュー記事はえんぶ8月号に掲載中!
▼ご購入はこちら!▼
http://enbu.shop21.makeshop.jp/shopdetail/000000010962

 

【構成・文/宮田華子 撮影/中村嘉昭】

記事を検索

観劇予報の最新記事

草彅剛・主演のシス・カンパニー公演『シラの恋文』ビジュアル公開!
数学ミステリーミュージカル『浜村渚の計算ノート』開幕!
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』井上芳雄最終日の写真到着&再演発表!
 「池袋演劇祭」まもなく開幕!
加藤拓也の最新作『いつぞやは』開幕!

旧ブログを見る

INFORMATION演劇キック概要

LINKえんぶの運営サイト

LINK公演情報