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パルテノン多摩リニューアルオープン企画『お月さまへようこそ』いよいよ開幕!大空ゆうひインタビュー 

東京都多摩市にある複合文化施設「パルテノン多摩」が、大規模改修を経て今年7月1日からリニューアルオープンし、コンサート、演劇、音楽朗読劇やダンスほか多彩な企画で賑わいを見せている。

そのラインナップの1つとなる演劇公演が、ジョン・パトリック・シャンリィの短篇6本からなる『お月さまへようこそ』で、本日、7月28日から開幕する。(31日まで)

演出は石丸さち子、出演者は小日向星一、南沢奈央、大久保祥太郎、納谷健、久保田秀敏、大空ゆうひの6人で、いずれも演劇界で活躍中の俳優たちだ。(※小日向さんは休演となり、全6本を5人のキャストで演じます)

その6人で演じる6本の短篇には、それぞれ「赤いコート」「どん底」「星降る夜に出かけよう」「西部劇」「喜びの孤独な衝動」「お月さまへようこそ」というタイトルが付いていて、演出の石丸はこの戯曲の内容について、「そこに登場する人々は皆、何かしらに飢えています。夢の実現、愛、ひとかけらのパン、魂の充実……そして、皆、孤独です。都会のたくさんの屋根の下、部屋の中、密かに喘ぐ孤独たちに起こる、いくつかの出会い。月や星がその世界の片隅の出来事に、光を投げかけ照らし出します」と解説している。

そんな舞台について稽古が間もなく始まるという時期に、出演者の大空ゆうひに、作品への取り組みと抱負、また宝塚歌劇団退団から10年という女優としての「今」を語ってもらった。

戯曲をきちんと読み解いてくれる石丸さんの演出 

──今回の『お月さまへようこそ』は、6つの短篇からできていますが、この戯曲全体に大空さんが今感じている印象は?

6つの短篇ということで、6つの部屋というか6つの窓というか、それを1つ1つ覗いていくような舞台になるのではないかと想像しています。演出の石丸さんがその1つ1つをどんなふうに描こうと思っていらっしゃるか、私自身もとても楽しみにしているところです。

──6篇それぞれがバラエティに富んでいて、寓話のようにも思えるものや幻想的な物語もありますね。

それだけに演出次第でいかようにも見せられる面白い戯曲だと思います。それに読んでいる段階ではまだイメージが見えてこない台詞も、人の声で語られることでいろいろなものが見えてくるので、他のキャストの皆さんと稽古する中で、沢山のイメージをいただけるのではないかととても楽しみです。

──石丸さんの演出は、『キオスク』(21年)と『まさに世界の終わり』(18年)で経験されていますが、その良さはどんなところですか?

初めて演出を受けさせていただいた『まさに世界の終わり』は、今回よりももっと台詞の意味がわかりにくい台本で、1人1人が10ページぐらい喋る、それもモノローグではなく相手に対して喋り続けるというものでした。でもその1語1語すべてを、石丸さんは稽古の始まる日には、ご自分の中に落とし込んで、演出家として力強く導いてくださったので、私の中でも1つ1つの言葉が腑に落ちて、その長台詞の扱いを楽しめたんです。全然わからないというところからそこまで役者を連れ出し、ひき出して下さるので、本当に頼もしいと思っています。今回はまた世界観が全然違う作品ですが、どんな作品もきちんと読み解いて、ふわっとした感覚みたいなものでは演出されないので、役者としては納得しながら作っていけるんです。

──翻訳劇はとくに演出家の読み解きが大事ですね。

自分の台詞の意味だけわかってもだめなんですよね。登場人物同士の関係性や相手に与える影響のようなものを含めて、1つの方向性を示してもらえるとその物語に共存しやすくなるんです。今回の出演者の方たちは、私は南沢(奈央)さん、小日向(星一)さん以外は初めましての方なんです。そういう座組で6本の短篇を作るには、石丸さんのパワフルな演出ですと心強いですし、しっかり付いていきたいと思っています。

──大空さんは6本の中で4本に出演されるそうですが、演目タイトルと同じ「お月さまへようこそ」での役柄が老バーテンのアーティという役で、気になっているのですが。

初めてのキャラクターになりそうで、私もとても楽しみです。

──アーティがテノールで歌うという場面がありますが、男役の大空さんで歌うのかなと?

いえ、それはないと思います(笑)。まさかこの会話劇の中で歌うシーンがあるとは思ってなかったのですが、ストーリーテラー的な存在の仕方での歌になります。今回、音楽を担当される林正樹さんとは以前にも舞台でご一緒していて、素敵なアーティストの方なので、林さんの生ピアノで歌えるのが楽しみです。

手強いところからぶつかっていかないと変われないから

──ところで大空さんは宝塚を退団してから、ちょうど10年になりますね。

宝塚から数えると今年で芸能生活30周年になるんです。

──芸歴30年ですか!  宝塚時代の大空さんは男役としての純度が高かっただけに、10年でここまで女優らしくなるとは想像できませんでした。

たまたま今朝ふと思ったことなんですけど、退団後の10年というのは、スタートしたばかりの新人女優みたいなものだったなと。いろんなことがよくわからなくて、しっちゃかめっちゃかでした(笑)。いろんな現場に行って、できないことばかりで、沢山恥もかいて、いっぱい口惜しい思いもして、でもやっと少し楽しみ方が見えてきたような気がします。10年前を思えば、今こうして女優を続けていられることには感謝ですし、続けていけば見えてくることもあるかもしれないなと、最近やっと思えるようになりました。

──最近なのですか?

最近です(笑)。舞台に立つことはそれまでずっとやってきたことなので、本当はある程度できないといけないはずなのですが、現実にはまったくわからないことだらけから始まりました。やはり違う方法で習得してしまったものを作り変えることは、真っさらから始めるよりも難しくて、最初はまず性転換から始まって(笑)。女性の気持ちがまったくわからなくて、頭で考えてもできることではないのに、そのときは一生懸命考えるしかなかったんです。そんなスタートから考えると、今はその工程をふまなくてよくなっただけでも、自分を褒めてあげようかなと(笑)。女優としてはまだまだ勉強しなくてはいけないことばかりですが。

──当時の印象としては、どの作品にもどの役にも、とにかく体当たりでぶつかって行っている感じがありました。

体当たりで行くしかなかったし、難しい役も多かった。でも一番手強いところからぶつかっていかないと、きっと変われないと思いましたから。とにかく与えていただくチャンスには全部トライしようと。その結果、そんなに綺麗に歩けたわけではなくて、転んだりぶつかったり、怪我したりしながら(笑)。でも「ちょっと痛いなあ」ぐらいで、そこは逞しくやってきたなと思います。

──そのエネルギーの根底にあったものは、芝居が好き、芝居がしたいということですか? 

そうかもしれません。それにそこしか生きる場所が見当たらなかったし、自分の中でもほかの選択肢とかあまり考えていなかった気がします。周りから見たらもどかしかったり、もっと器用に生きたらいいのにと思われることもあったかもしれませんが、結局、自分のやりたいようにしかやってこなかった。そうしているうちにやっとここまで来た10年だったように思います。

──出演してきた舞台を改めて振り返ると、シリアスな翻訳劇から喜劇風のミュージカルまでとにかくテリトリーが広いし、いい意味でジャンルレスですね。

自分の中で、舞台に関する仕事について細かくジャンル分けしてなくて。たぶんジャンルではなく自分の中で筋の通ったものをやっているんだと思います。たまにちょっと無茶をしたかな?と思うことはありますけど(笑)、それも楽しいので。

──外見がクールビューティだけに、コメディに出るとそのギャップがいいんです。

中身はけっこうボケていたり、ポカンとしてるところがあるんです(笑)。クールという意味では、追い込まれると思い切りがいいというか、スパッと対処できる性格で、逆境に出会ってもすぐに割り切って、前に進めるところはありますね。

──そういう様々な面は、これからも女優として発揮していけそうですね。

女優としてのキャラクターは、自分でもまだわかってないのですが。でもそのわからない部分を、可能性として捉えていければいいのかなと思っています。

走り続けている毎日から、一回ストンとゼロに戻れた

──この10年の中で、女優大空ゆうひにとって大きな糧とか手応えになったと思う作品は?

ちょっと意味が違うかもしれないのですが、今年の6月まで公演していた『お勢、断行』は、本当は2年前に上演するはずだったのがコロナで中止になって、2年経ってもう一度稽古から作り直したんです。そのとき2年前とは自分の感じ方が変わっていて、今もまだまだなのですが、2年前の自分の映像を観たとき、ちょっと頼りないなと思えたんです。ということは、自分も立ち止まっているわけではないんだなと。

──2年という時間を無駄にしていなかったということですね

ゲネプロまでやったのに初日の幕が開かなくて、2年後にやっと幕を開けられた。こんな経験はもうしたいとは思いませんが、でもその間の自分の変化も感じられたし、役とここまで長く付き合えることもあまりないので、この経験は私にとってとても大きかったです。それに、他にもいくつか舞台が中止になってしまったのですが、仕事をしなかったその期間が、実は私にとってよかったんです。久々に舞台に立ったとき、それまでと全然感覚が違っていたんです。ずっと走り続けている毎日から、一回ストンとゼロに戻れた感覚で。中止になった作品には残念な思いもありましたし、決して良いことではないのですが、一切芝居をしない時間が久しぶりにすごく長くあった。それは自分にとってはよかったです。

──そんな心境も踏まえて、改めてこの『お月さまへようこそ』への意気込みをいただければ。

あまり意気込まないでいようかなと思っているんです。この作品は、一つのドラマを濃厚に見せる2時間の芝居とかではなくて、1つ1つの小部屋を純粋なエネルギーで開けていくようなお話ですし、難しくはないのですが想像力は必要な作品なので、柔らかい心で、ちょっと遊び心を持った自分でいたいなと思っています。ですからお客様も心を柔らかくして観に来ていただければ、きっと楽しんでいただけると思います。

■PROFILE■

おおぞらゆうひ○東京都出身。1992 年宝塚歌劇団に入団。2009 年に宙組男役トップスターに就任し、12 年に退団。13年『唐版 滝の白糸』(演出:蜷川幸雄)で主演を務め、女優としての再出発を果たす。以降、舞台や映像作品で活躍中。近年の主な舞台出演作品に、『まさに世界の終わり』(演出:石丸さち子)、現代能『陰陽師 安倍晴明』(演出:野村萬斎)、『めんたいぴりり~博多座版~』(演出:東憲司)、『今日もわからないうちに』(作・演出:加藤拓也)、『鎌塚氏、舞い散る』(作・演出:倉持裕)、『羽世保スウィングボーイズ』(演出:G2)、『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』(演出:大河内直子)、『マーキュリー・ファー Mercury Fur』(演出:白井晃)、『お勢、断行』(作・演出:倉持裕)。

【公演情報】
『お月さまへようこそ』
作:ジョン・パトリック・シャンリィ
翻訳:鈴木小百合
演出:石丸さち子
出演:小日向星一 南沢奈央 大久保祥太郎 納谷健 久保田秀敏 大空ゆうひ
●7/28~31◎パルテノン多摩 大ホール
〈料金〉A席8,000円 B席7,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉パルテノン多摩予約専用 042-376-8181(10:00~19:00 休館日を除く)
〈公式サイト〉https://www.parthenon-renewalopen.jp/moon

※小日向星一さんは休演となりましたので全演目を5人の出演者で公演します。
https://www.parthenon-renewalopen.jp/news

 

【取材・文/榊原和子 撮影/中村嘉昭】

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