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深まる黒と清新な緑に彩られた『ジャージー・ボーイズ』上演中!

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日本初演から6年、度重なる困難を乗り越え進化し続けるミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が10月29日まで日比谷の日生劇場で上演中だ。(のち、11月3日~6日大阪・新歌舞伎座、11月10日~13日福岡・博多座、11月26日~27日愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール12月10日~11日神奈川・横須賀芸術劇場で上演)

‘60年代のアメリカ音楽界を席巻した 「ザ・フォー・シーズンズ」のメンバー4人の栄光と挫折と、愛憎相半ばする人生を、ザ・フォー・シーズンズ自身の音楽で紡いだミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は、2004年に世界初演ののち、翌2005年にブロードウェイに進出した作品。公演は瞬く間に大評判を呼び、同年トニー賞作品賞などの3部門を受賞。2007年にグラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞、2008年にイギリスでローレンス・オリヴィエ賞最優秀ミュージカル作品賞を受賞、と世界での評価を高め続け、2014年には名匠クリント・イーストウッド監督によるハリウッド映画化も実現した。

そんな作品が日本初演を果たしたのは2016年。演出に日本演劇界の俊英として注目を集めていた藤田俊太郎。演じるためには「ザ・フォー・シーズンズ」のメンバーの一人、ボブ・ゴーディオの承認を必要とする、「天使の歌声」を持つフランキー・ヴァリ役に中川晃教、という強力なタッグが実現。中川のみシングルキャストで、藤岡正明、矢崎広、吉原光男のチームRED。中河内雅貴、海宝直人、福井晶一のチームWHITEの、2チーム体制で上演されたシアタークリエの舞台は、熱狂が熱狂を生んだ伝説の公演となり、第42回菊田一夫演劇賞、第24回読売演劇大賞をはじめ、同年度の演劇賞を独占。伊礼彼方、spiを加えた2018年の再演では、それに先んじた東急シアターオーブでの世界初のコンサートバージョン、シアタークリエ公演、そして初の全国ツアーとジャージー・ボーイズ旋風は全国へと広がっていった。更に2020年、満を持しての帝国劇場公演は新型コロナウイルス感染の拡大によりいったん全公演中止となったものの、コンサートバージョンに変更しての奇跡の復活を果たして輝き続けた。

この日本版がたどった道のりそのものが、まるで「ザ・フォー・シーズンズ」の波乱万丈の物語と重なるなか、2022年、帝劇コンサートバージョンから加わった尾上右近、東啓介、大山真志に、初演以来中川が1人で担ってきたフランキー・ヴァリ役に花村想太が初登場。同じく新キャストの有澤樟太郎と共に、ところを日生劇場に移しての、待望の2022年版が開幕した。

 

中川晃教

花村想太

【STORY】
1950年代。「マフィアになる、軍隊に入る、スターになる」の三つしか、ここで成功する道はないと言われるニュージャージー州の貧しい片田舎。
そのうちのスターになることを目指し、兄のニック・デヴィート(戸井勝海)とニック・マッシ(大山真志/spi)と3人での音楽活動を続けながら、実際にはマフィアの使いっ走りとして刑務所を出入りしているトミー・デヴィート(藤岡正明/尾上右近)は、ある日「天使の歌声」を持つフランキー・ヴァリ(中川晃教/花村想太)に出会い、自分の運命を変える歌い手だと直感。グループに招き入れ、長く刑務所から出られそうにない兄の脱退と共に、早速3人で歌い始める。

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だが、そう簡単に道は開かれず、グループ名を変えながら鳴かず飛ばずの日々を送っているうちに、ボーカルグループは4人が主流の時代に。折も折、後に俳優として大成する友人のジョー・ペシ(若松渓太)が、「第四の男」としてシンガーソングライターのボブ・ゴーディオ(東啓介/有澤樟太郎)を紹介する。

既に1曲とは言えヒット曲を持っていたボブは、フランキーの歌声に魅了されこの声のために曲を書きたいと願いグループに加入。ようやくプロデューサーのボブ・クルー(加藤潤一)から仕事を得たものの、待っていたのはひたすらバックコーラスのみという、過酷な下積み生活だった。だがその日々のなかでそれぞれに研鑽を積んだ4人のハーモニーは磨き上げられ、遂に4人は「ザ・フォー・シーズンズ」としてレコード会社と契約して、《Sherry》をはじめとする全米ナンバー1を獲得する楽曲を次々と生み出していく。

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このままいけば自分のレコード会社を持つこともできる、そんな夢が現実のものになったと思われた時、トミーの負債の取り立てにノーム・ワックスマン(戸井勝海)が現れる。実は輝かしい活躍の裏で、ツアーに次ぐツアーを続けるうちに、家庭を顧みられなかったフランキーが妻(綿引さやか)と娘(ダンドイ舞莉花)との生活を破綻させていたことをはじめ、互いが抱える問題や不満で少しずつ軋んでいたグループ内の確執は、トミーが負った莫大な負債からとうとう白日の下に晒される。それはニュージャージーで全てを取り仕切っていた大物マフィア・ジップ・デカルロ(山路和弘)をもってしても、穏便に済ますことのできない軋轢となってグループを引き裂く。成功と挫折。あまりに劇的な春夏秋冬を駆け抜けていく4人が、その先に見たものとは……。

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シアタークリエ、東急シアター・オーブ、帝国劇場と、劇場空間を自在に変えて歩み続けてきた日本版ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の歴史には、藤田俊太郎の柔軟で示唆に富んだ演出力が支えた力がまず大きく寄与している。舞台横にいくつものモニターを設置して、そこに映し出される客席もまたこの物語の目撃者であり、共に時代を生きる人々として、劇場全てをひとつの作品のなかに取り込んでしまう秀逸な発想と、その思いを具現化させた松井るみの装置が、大きさの如何に関わらず、劇場を『ジャージー・ボーイズ』の世界に染めることに成功してきた様は、まるでマジックのようだ。特に今回の日生劇場は、演劇を愛する人なら知らぬ者とてないだろう、おそらく同じクオリティの劇場をもう一度建設することは不可能ではないかと思える、劇場そのものがひとつの小宇宙を形成している贅を尽くした場だ。この空間に楽曲や物語展開に応じて、舞台から客席まで全てを照射する日下靖順の照明が与えた効果は見惚れるばかりで、いまここにしかない新たな『ジャージー・ボーイズ』の世界が立ち上っていた。特に、演劇界にも日本にも世界にも、明るい兆しがなかなか見出せない、困難多い日々が続くなかでも、更に驚くほどの挫折と苦難に見舞われる登場人物たちが、何より最高なのは人と人とが生み出すハーモニーであり、最も尊ぶべきはあなたの手に愛を届けてくれる人だ、と歌ってくれること。そのあまりにもシンプルだからこそ、ストレートに響いてくるメッセージが胸を打つ。「ザ・フォー・シーズンズ」にちなみ、全体が春夏秋冬に分けられ、トミー、ボブ、ニック、フランキーがそれぞれの視点でドラマを語っていく構成上、その客席に語り掛ける台詞の時に、もう少しバックミュージックの音量を落として欲しいという気持ちはしたが、そのバランスもおそらく日に日によくなっていることだろう。何よりも、この2022年版『ジャージー・ボーイズ』を彩った二つのチームの、それぞれのカラー名がまさに体現している異なる個性、異なる色、異なるハーモニーが放つ輝きが素晴らしい。

まずチームBLACKは、この作品のスタンダードでありつつ、より個性が際立つ漆黒の深みを増している。
不動のフランキー・ヴァリとして、初演からここまでの年月大役を一手に担ってきた中川晃教は、今回初めて日本版『ジャージー・ボーイズ』を客席から観たという、一瞬虚を突かれたような真実が、中川に作品の原点をもう一度再確認させたのかもしれない、と想像させる様々な表現をいったんそぎ落としたシンプルな姿で登場してきたのが逆に新鮮な感動をもたらした。それほど中川のフランキーははじめ瑞々しい少年で、そこから重ねた人生の悲哀が、ただ音楽を求め続ける心に帰結する終幕へと向かう時間の経過が見事だった。日本のフランキーとして極め続けた「トワング」と呼ばれる独特な高音の歌唱法と、地声の部分も滑らかで、「Can’t Take my eyes off of you(君の瞳に恋してる)」の歌声はは、ミラーボールの美しさと共に何度観ても胸がいっぱいになるものだった。

トミー・デヴィートの藤岡正明は、料理上手で子煩悩なお父さんという藤岡本人のキャラクターをもし知らなかったら、素でこういう人なんだと思い込んだだろう適役ぶりを示して頼もしい。それほど藤岡のトミーは、グループを仕切っているのは自分で、誰もが自分を頼っていると信じていて、だからこそそうではない現実に我を失っていく様にリアリティがある。特に「Walk Like a Man(恋のハリキリ・ボーイ)」で、男らしく歩けなんて当たり前のことをなぜ男に言う必要があるのかが、全くわからないというトミー像がどんぴしゃりで、しかも尚、ちゃんと憎めなさを残す藤岡の真骨頂が感じられた。

ボブ・ゴーディオの東啓介は、今回の公演でチームBLACKの一員になったプレッシャーはおそらく大きなものだったと思うが、これまでもずっと東の美点としてあった非常に丁寧に歌を紡ぐ人だという印象が、ハーモニーを作り出す4人のなかで冷静に音を感じ、このグループと自分の楽曲を頭の半分でビジネスとして捉えているボブに一脈通じた効果が大きい。伸びやかな歌声と、長身をほんの微かにすぼませる様が、表舞台に立つことに居心地の悪さを感じているボブをそのまま表現してもいて、堂々とチームBLACKを形成する1人になっている。

ニック・マッシの大山真志は、ひと際大柄な体躯と人好きのする笑顔がもたらす良い人感が、グループのなかで自己主張の少ないニック役によくあっていて、様々な異変に気づき、不審を抱きながらも、いま楽な方に流されていった最後に爆発するニックの意外性を支えている。「自分のバンドを作ろうかな」の誰も信じない口癖も印象的だし、ひとたびステップを踏み出すと、チームBLACKのなかで一番動けるのは実はこの人だというギャップの楽しさがとびっきりで、大山が演じたならでのニックになっている。

一方、チームGREENはまさに新緑の輝きの団結力で、日本版『ジャージー・ボーイズ』に清新な風を運んできた。
新フランキー・ヴァリの花村想太は、まず初登場のシルエットが中川にそっくりなことに驚かされる。トワングが歌えることだけではなく、この身長と体つきを持って生まれていることの双方が揃わないと演じられないフランキー役を射止めた、その選ばれし者の強さがこのシルエットに感じられる。同時に全身から発せられる瑞々しさと、幕開けから後半に向けての時間だけで、ぐんぐん良くなっていくこれぞ伸び盛りの感覚が、新たなチームGREENの勢いを感じさせた。4人が生み出すハーモニーにも力強さがあり、日本にもう一人のフランキー・ヴァリが生まれでたことに拍手を贈りたい。

トミー・デヴィートの尾上右近は、肩で風を切っているトミーと、全てが露見していったあとのトミーの落差を非常に大きく表現しているのが目に残る。特に後半の展開で、グループがバラバラになってしまった時の、ずぶぬれになった小動物のような心もとなさが印象的で、誰かに頼られていないと自分を律していられない寂しがり屋のトミーを、こんなにも可哀そうだと思ったことはなかった。歌声もますます安定していて、面白いのは本当に面白いのだが、歌舞伎役者であることを敢えて表現のなかに入れなくてもいいのでは?と感じたほど、ミュージカルに馴染んだ存在が頼もしい。

ボブ・ゴーディオの有澤樟太郎は、花村と並んで今回が『ジャージー・ボーイズ』の世界への初登場だが、チームGREENの伸びしろを最も体現していると思えるほどの、鮮やかなボブを描き出して目を瞠った。堂々とした歌声といい、どこかではグループを、そしてフランキーと自分の価値を俯瞰しているボブの怜悧な面の表現といい、正直ここまでとはと思わされる出色の出来にただただ驚かされた。台詞発声もひと際聞きやすく、ひとつのきっかけで一気に大化けする、若さのパワーと無限の可能性を目の当たりにできた幸運に感謝したい。

ニック・マッシのspiは、持ち声の音域が本来はもっと高いという役柄との距離を、ここまでの経験と、何より非常に粋な部分を持ち合わせた芝居力でグッと縮めて、チームGREENに落ち着きを与えるニックに仕上げてきたことに感嘆する。ジャージーの男とはどういうものなのか?を語る場面が、鮮やかに決まった様は歴代でも傑出していて、自分が主役でいたいというプライドを選びとるニック像に真実味を与えていた。

彼ら二つのチームに共通して、再会を果たす終幕の演出が変わったことも作品の鮮やかな物語性と、永遠の「フォー・シーズンズ」の輝きを示していて、この変更も当を得たものだった。

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更に、全くカラーの違う二つのチームを支えた面々では、ボブ・クルーの加藤潤一が思い切ってカリカチュアした初登場時から、年月を経てフォー・シーズンズの4人に信頼をおいていく過程の変化を巧みに見せたし、ジップ・デカルロの山路和弘は、この役柄に最も必要な、ただそこにいるだけで只者ではないと感じさせる大きな存在感で魅了。一転、終幕近くの神父役の静けさにも力量を感じた。ノーム・ワックスマンの戸井勝海は、登場することがグループの運命に大きく舵を切っていく役柄の不穏さを表現。冒頭のニック・デヴィートの軽やかさとの対比も巧みだった。

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また、様々な役柄を演じるメンバーが増えたことも舞台空間の大きさに相応しく、フランキーとはじめに恋に落ちる綿引さやかが、今の時代にも通じるほとんど家にいない夫への不満を募らせる女性の苦しみを表現。結局は同様の思いを抱えていくことになる小此木麻里も感情の変化をよく表している。冒頭の登場からダイナミックさが目を引く遠藤瑠美子。フランキーの娘として作品の大きなアクセントになるダンドイ舞莉花の、もって行き場のない寂しさの表出もいい。

高い歌唱力で、『ジャージー・ボーイズ』に欠かせない顔の一人になった大音智海。豊かな演技力でどこにいても目を引く山野靖博。ジョー・ペシの天真爛漫な造形と同時に、ここにも「天使の歌声」の持ち主が!と思わせる若松渓太。歌唱にも芝居にも力感のある杉浦奎介。バネのように俊敏な動きで新たな風を吹かせた岡施孜と、一人ひとりに働き場をつくる藤田らしい演出に、全員が応えて躍動する様が心地よい。

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わけても、二つのチームが作った新しいハーモニーが、どこかでチームRED、チームWHITEを形成してきた歴代の面々の歌声も想起させる、日本の『ジャージー・ボーイズ』が重ねてきた日々が舞台に凝縮しているのが、この作品の不思議な魅力を形成している。ここから積みあがるひとつひとつの舞台が、次の歴史をどう彩っていくのかを観続けていきたいし、更にいつかは、これまでのキャストが全員揃った祭典も観たいとまで夢が広がる、2022年の『ジャージー・ボーイズ』の輝きを喜びたい舞台だった。

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【公演情報】
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』
脚本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
音楽:ボブ・ゴーディオ
詞:ボブ・クルー
翻訳:小田島恒志
訳詞:高橋亜子
演出:藤田俊太郎
出演:
中川晃教/花村想太
藤岡正明/尾上右近
東啓介/有澤樟太郎
大山真志/spi
加藤潤一 山路和弘 戸井勝海
綿引さやか 小此木麻里 遠藤瑠美子 ダンドイ舞莉花
大音智海 山野靖博 若松渓太 杉浦奎介 岡施孜
●10/8~29◎日生劇場
〈料金〉S席14,000円 A席9,500円 B席4,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/jersey/index.html

【全国公演】
●11/3~6◎大阪・新歌舞伎座
〈お問い合わせ〉新歌舞伎座06-7730-2121
●11/10~13◎福岡・博多座
〈お問い合わせ〉博多座電話予約センター092-263-5555
●11/26~27◎愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
〈お問い合わせ〉キョードー東海052-972-7466
●12/10~11◎神奈川・横須賀芸術劇場
〈料金〉S席14,000円 A席9,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉横須賀芸術劇場電話予約センター046-823-9999
KMミュージック045-201-9999

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