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舞台機構と俳優の高い熱量で魅せる歴史劇『メアリ・スチュアート』上演中!

スコットランド女王メアリとイングランド女王エリザベスの歴史的な対立を描いた群像劇『メアリ・スチュアート』が世田谷パブリックシアターで上演中だ(2月16日まで)。

『メアリ・スチュアート』は、16世紀末、イングランドに幽閉され、やがて処刑されるに至るスコットランド女王メアリ・スチュアートと、彼女の死刑執行命令にサインしたことを生涯後悔したと伝えられるイングランド女王エリザベス1世の、宗教、政治、生き様に及ぶ歴史的対立を、18世紀の大劇作家シラーが人間ドラマとして描き出した作品。歴史に名高い登場人物たちが、それぞれの思いで行動する虚々実々の駆け引きを、今や名実共に日本演劇界を代表する演出家の一人として、次々に話題作を手掛ける森新太郎が、世田谷パブリックシアターの舞台機構を生かし、ここでしかできない『メアリ・スチュアート』として蘇らせている。

【STORY】
16世紀末、政変により国を追われ、遠縁(父の従妹)にあたるイングランド女王エリザベス(シルビア・グラブ)のもとに身を寄せたスコットランド女王メアリ(長谷川京子)だったが、エリザベスはイングランドの正当な 王位継承権を持つメアリの存在を恐れ、彼女を19年の長きにわたり幽閉し続けていて、その間、二人の女王は決して顔を合わせることはなかった。その長い年月ののちに、エリザベスの暗殺計画に関わったのではないかという嫌疑がかけられたメアリは、裁判の結果死刑判決を下される。
刻一刻と迫る処刑の前で、裁判は不当なものだったとして己の正当性を訴えるメアリと、処刑を決行するか否かに心乱れるエリザベス。重臣たちの考えも、処刑を速やかにと訴えるバーリー(山崎一)、裁判の不正を審議し慎重にことを進めるようにと説くタルボット(藤木孝)と、意見が真っ二つに割れる中、メアリが幽閉されているフォザリンゲンの領主ポーレット(山本亨)の甥モーティマー(三浦涼介)がメアリに恋心を抱き、なんとか彼女を救出しようと奔走。メアリの指示により、二人の女王から寵愛を受けるレスター伯(吉田栄作)を密かに訪ねて助力を乞う。レスターは、その姿を見、その声を聴けば、誰もが心を許したくなるといわれるメアリをエリザベスに一目逢わせれば、エリザベスの頑なな思いも氷解するのではないかと考えその機会を探る。果たして二人の女王は初めての対面を果たすことができるのだろうか……。

スコットランド国王の娘として生まれながらに王位を継承し、数回の結婚で運命を流転させていったスコットランド女王メアリ・スチュアートと、不義密通の嫌疑のもと処刑された母を持つ出自の為に、一時期は私生児扱いも受け、自らも処刑寸前に追い込まれながらイングランド女王となり、生涯独身を貫き国家と結婚したと称されるエリザベス1世。同時代に生きながら、生涯一度も対面することがなかったと伝えられる二人の女王の波乱の人生は、今も尚、様々な形で語り継がれていて、日本でも馴染み深いものとなっている。
だが一方で、この二人の女王の対立には、それぞれの王朝の複雑な絡み合いだけでなく、政治的に、更には、カトリックとプロテスタントという宗教的な争いが根底にあり、政変によりフランスからイングランドに逃れてきたメアリと、エリザベス1世が何故直接対面することさえままならなかったのか?を、容易に語ることを難しくしている。群像劇として描かれたこの作品でも、メアリの処遇に関して真っ向から意見が対立する登場人物たちの、ものの考え方と立ち位置の違いは様々で、そこに横たわる宗教間の対立や、国家間の覇権争いをすべて理解するには、かなりの予備知識を必要とするだろう。

にも関わらず、この長尺な舞台に生きる、それぞれの思惑を秘め、立場を異にし、時に態度を豹変させながら生き抜く人々の、誰一人をとっても単純な悪人に見えず、ひとり一人の心情や、置かれた運命に寄り添うことができるのは、思えばかなり驚異的だ。端的に言って最終的に処刑される側のメアリと、処刑する側のエリザベスの、どちらが悲劇の人なのかを軽々に語ることのできない、互いの立場も苦しみも、すがった希望までもが胸に迫るのは、この舞台が徹頭徹尾「演劇的興奮」の只中にあるからに他ならない。
基本的に裸舞台で演じられる、役者だけが舞台空間に放り出されているに近い、装置らしい装置のない空間で、作品の世界観を全て担う役者の肉体と、ある時は鋭く、ある時は流麗に交わされる膨大な台詞とが生み出すあまりにも高い熱量が、見えるはずのないものをあたかもそこにあるかのように見せていく。ここには演劇の想像力に訴える芝居の大きな力があり、息をするのも憚られるほどの緊張感と興奮を生んで惹き付けられる。

特に演出の森新太郎が、装置家の堀尾幸男の進言で採用したという、多様なパターンに可変する世田谷パブリックシアターでも、使用されるのは初めてだという舞台中央に通した花道を中心に、登場人物たちが舞台の奈落から現れて、また奈落へと去っていくという演出方法が、この外界の様々な要因が人々の運命を押し流していく歴史劇の深淵を深める効果になった。例えばエリザベスの玉座といった僅かな道具が、実に意外で印象的な転換で登場することも含めて、全てが他の劇場での上演が考えられない、世田谷パブリックシアターでしか成し得ない唯一無二の上演になっていることが意義深い。

そんな空間で、その身ひとつで作品に立ち向かうキャスト陣は、タイトルロールであるメアリ・スチュアートの長谷川京子の、一直線な役柄への対峙が目を引く。舞台作品への出演は9年ぶりとのことで、演技に硬質なものがあることが、誇り高くある意味で融通の利かないメアリの言動に通じていて、だからこそこの作品の中で直接描かれる、メアリとエリザベスの対決に噴出するエネルギーの瞬発力が際立っていた。

一方、エリザベス1世のシルビア・グラブは、時代性を感じさせる特殊なメイクや鬘、大きな衣装を悠然と身に着け、威厳に満ちていながら、時にコケティッシュでもあり、時に拠り所のない不安も見せる女王を、実に柔軟に演じきっている。この揺れがあるからこそ終幕のエリザベスの、権力者故の孤独に胸が痛み、二人の女王のたどる道の違いをくっきりと表現して見せてくれた。

彼女たち二人の女王に愛された人物として描かれるレスター伯の吉田栄作は、まず二人の女王から思われている男性であることに説得力のある美丈夫ぶりで魅了する。役柄の立ち位置としても、場面を追うごとに様々なブラフがあり、非情な行動もとる中で、決していい加減な男には見えない、懸命に二人の女王にとって利となる道を探ろうとし続けた男性を表出していて、得難い存在になった。

メアリに心を寄せ、救出計画に奔走するモーティマーの三浦涼介は、役柄に狂信的なものを滲ませるある意味のエキセントリックさが、尚、あくまでも美しいのが三浦ならでは。役柄の想いの深さに三浦の神秘的な個性が加わり、物語の中でこの人物が二人の女王に見せるどちらの顔が真実なのか?を、ふと考えさせられる瞬間も生んでいて、三浦が演じるからこそのモーティマー像に見応えがあった。

また、彼らを囲む人物たちにも錚々たるキャリアの役者陣が揃っているのもこの座組の強みで、エリザベスの寵臣の座を巡って争いを繰り返す、バーリーの山崎一の徹底した強面で貫く厳しさの表現に対して、タルボットの理知的で品位のある柔らかさを藤木孝が巧みに演じ、厳格な領主であるが故に、自分の責任に於いてメアリの盾にもなるポーレットの山本亨の骨太な佇まいも光る。メアリに忠誠を誓い続ける乳母ハンナの鷲尾真知子の献身には涙を禁じえないし、メアリの最期に駆け付ける執事メルヴィルの青山達三の存在感が、見事に終幕を引き締めた。他にもフランス大使オーベスピー伯の星智也の惚れ惚れさせられる台詞発声の美しさ、あまりにも大きな責任を転嫁されてしまうエリザベスの秘書ディヴィンスの黒田大輔の哀れさと、尚顔をあげて去っていく姿が印象に残った。

総じて、数多の登場人物の心理すべてに、それぞれの立場で懸命に生きた人々の息吹きが感じられるのが大きな魅力で、芝居を観た!という強いエネルギーがいつまでも残る舞台となっている。

27日の初日を控えたゲネプロの前に、囲み取材が行われ、キャストを代表して長谷川京子、シルビア・グラブ、三浦涼介、吉田栄作と、演出家の森新太郎が、公演への抱負を語った。

【囲み取材】

──まず、一言ずつご挨拶をお願い致します。

長谷川 皆様この寒い中、足をお運び頂きありがとうございます。いよいよ初日で、森(新太郎)さんの隣にいるだけで怖くって!(笑)一ヶ月半くらいお稽古させて頂いて、毎日、毎日演出家の森さんから愛のムチを頂いてここまで来たという感じなのですが。昨日初めてここの舞台で衣装を着て、通しの稽古をさせて頂いて。やはり今までの稽古とはちょっと違う感情や、感覚というものもありましたし、すごく緊張もしましたし、今日もこのあと皆様に観て頂けると思うのですが、まだすごく緊張するんですよ!でもここまでは森さんにご指導頂いたのですけれども、ここからは自分の世界だなと思っているので、もう森さんに怒られると気にしないで、伸び伸びとやりたいと思っています。皆様にも観て頂いて、もし楽しいと思って頂けたらまた来て頂けたら、それが一番嬉しいかなと思っています。今日も精一杯頑張りますので、よろしくお願い致します。

シルビア エリザベス女王をやらせて頂くシルビア・グラブです。とうとうここまで来ちゃったね、という感じです。ずっと稽古を長い期間、更に一日の間でも長い時間重ねてきて、これでもう稽古ができなくなるのかと思うとそれも恐ろしいし、私言っておきますけれども、今年の初夢に森新太郎さんが出てきました(笑)。おめでたいのかどうなのかちょっとわからないし、悪夢だったのか、嬉しい夢だったのかも言いませんけれども(笑)、でもいつまで森さんの夢を見続けるのか?というところも、とても楽しみでございます。皆様是非楽しみにしていて下さい。

吉田 今日は皆様ありがとうございます。レスター伯の役をやります吉田です。12月の10日に制作発表があって、一ヶ月半しか経っていないですよね?もっとすごい時間が、たくさんの時間が経ったような気持ちで、僕も森さんにはたくさんしごいて頂きました。最初に台本を読んだ時にはもっとクレバーな策略家をイメージしていたのですが、森さんの演出によってどんどんバカっぽい(笑)、逆に言えば人間的なレスター伯に出来上がったのではないかなと。そんなところを演じるのも楽しみになってきました。大事なのはこの女王二人に愛された男なので、女王二人がなんでこんな男が好きになったのか?になってしまってはいけないので、そこをきっちり描きたいと思います。27日からですので、是非よろしくお願いします。

三浦 皆様ありがとうございます。モーティマー役の三浦涼介と申します。約一ヶ月半の稽古、毎日すごく刺激的で、森さんのご指導のもと、僕自身森さんを信じてこの一ヶ月半一生懸命お稽古に励んできました。昨日衣装をつけメイクをして通したお稽古は、すごく今までにないくらい楽しめた自分がいました。お客様に来て頂き、皆様の前でお芝居することが、もっともっと楽しみになった時間でした。本日はゲネプロということで、自分の精一杯を力を込めて、愛を持って頑張りたいと思いますので、是非皆様劇場にお越し頂ければと思います。よろしくお願い致します。

 今皆さんの話を聞いていて、気になったことが二つありまして、ひとつは長谷川さんがここからは私達がと言っていたのですが、僕は初日の幕が開くまでは長谷川京子にダメ出しを、し続けようと思っていますので、まだまだ安心はしないで欲しいと思って聴いておりました(笑)。二つ目はシルビアさんは初夢で僕のことを見てくださったのですけれども、長谷川さんは僕の夢を見ていないんです!(笑)僕としては正月明けから夢に出たつもりだったのですが、見なかったというからまだまだだなと思っていますので。

長谷川 忘れたくて忘れたんだと思います!(笑)

 なんとか千秋楽までには夢に出てやろうかなと思います(笑)。

長谷川 イヤだ~(笑)。

 会ったら「おはようございます」の前にダメ出しがはじまっていますからね!「あそこをこう直したらどうですかね」と。今日もすぐそこでね。

長谷川 そうなんですよ!自分のウォーミングアップを裏で一人でしていたら捕まっちゃって!(笑)。また捕まると長いんですよ!(笑)色々な予定を組んで時間を決めて入っているのですが(笑)。でも、私に直すべきところがたくさんあるからなので仕方がないです。

 でも長谷川さんだけではなくて、シルビアさんにもお稽古終わったらね。

シルビア 帰り際捕まります。

 いつもシルビアさん帰り際すごく爽やかなんです!鞄持って「じゃっ!」って(笑)。で「じゃっ!」って言うから「ちょっと待って」と。

シルビア 戻されるんです(笑)。

 私服のまま戻されて稽古がはじまる(笑)というようなことをこのひと月半やってきました。三浦もしごくという言葉が正しいのかどうかわかりませんけれども、イヤというほど、彼にはもう今や愛情すら感じていますが(笑)。ちょっとアダルティなメンバーの中で、彼が若さを爆発させないとどうしようもない芝居なので、彼にはその責務があるんで頑張って欲しいなと思って。吉田さんは今回初めてご一緒したのですが、こんなにイイ男だとは!  大人の男らしい方で、さっきちょっとバカっぽくって言ったのは、そのくらいに作らないと、ちょっと軽薄な感じを出さないと、もう有無を言わせぬモテ男になってしまうので、敢えて吉田さんの方にはヘラヘラ笑ってくださいとか(笑)、そっちの方向でやっているのですが、あいも変わらずイイ男で。あとプロだなと思うのは、皆さん稽古にすごく励んでいるのですが、たぶん吉田さんは家に持ち帰って色々考えて、次の日に思いもよらないことをやってのけたりして、あぁすごいなと、僕は心から吉田さんのことを尊敬していると言っても良いです。プロだなと思っています。この他にも今回俳優陣が、山崎一さん、鷲尾真知子さん、藤木孝さん、山本亨さん、青山達三さんら、すごいベテラン陣が極上の台本を全力で料理しておりますので、是非、是非、劇場に足を運んで頂きたいなと思っております。そしてご覧頂くとわかるのですが、世田谷パブリックシアターでしかできない演出がてんこ盛りで、一見何もない舞台なんですけれども、世田谷パブリックシアターの素の状態全てが、この劇の大きな魅力になっておりますので、それを感じて頂けたら。ここに来て観てもらわないとわからないので、是非観て頂きたいと思っています。

──森さん、今回は舞台の真ん中に花道を通した珍しい形になっていますが、その意図と演出的にこだわったところを教えて下さい。

 僕も世田谷パブリックシアターの客席の真ん中に抜け道があるとは知らなかったんです。今回、舞台美術の堀尾(幸男)さんがはじめから「実は面白い出口があって、そこは皆が使わないから、一回使ってみないか?」と言われて、ちょっと半分騙されたような感じで(笑)誰も使ったことがないなら、一回使ってみたいと思ってやったら、これは体感して頂かないとわからないのですが、とにかくダイナミックなんですよ。人が客席の方に向かって消えて、客席の方から現れる縦の動線の面白さが、観てくださるとわかって頂けると思います。例えばレスター伯とモーティマーが、この芝居って結構ひそひそ話が多いのですが、それを花道の狭いところで、ものすごい熱量でやって、お客様はそれをまさに隣で観ることになるので、大変な臨場感なのではないかな?と思っております。あとは舞台セットが何もない中で、僕も正直役者の皆様は今回大変だと思ったのですが。何しろ俳優の身体とテキストの言葉だけで埋めなくてはならないので。でもやっぱり今回の俳優陣はそれを立派に乗り切ってくださっていて、たぶん皆さんびっくりすると思います。セットがないのに人間の熱量、人間の関係性だけでこれだけ芝居って成り立つんだというところで、もしかしたら「ザ・演劇」的な魅力を発見して頂けるのではないかと。演劇ってこんなに素朴なんだけれども、こんなに豊かなんだというところを感じて頂けたらと思っております。

──長谷川さんとシルビアさんは対決する役で、初共演とのことですがお互いの印象は?

長谷川 私はシルビアさんに対してはお会いする前の印象から全く変わらないと言うか、もう何か素晴らしいというとすごく短絡的な表現になってしまいますが、気持ちの良い性格の優しい方なんだろうなというのが表情に出ていらしたので、もうそのままプラス本当にチャーミングでした。

シルビア イヤだ(笑)。

長谷川 いえいえ、ダメ出しされても本当にふっと可愛い顔をするんです。「可愛い!」って言っちゃうんですよ。本当は憎むべき相手なんですけれどね(笑)。あとは周りの方から「シルビアさんは本当に達者な方なので、その方と対決するのだから相当頑張らないといけないよ」と言われていたので、その覚悟で挑ませて頂いたんですけれども、本当に毎日稽古の中で勉強させて頂いている感じです。

シルビア ありがたいですね。私もイメージとしては映像で観る長谷川京子さんしか知らなかったので、それこそ綺麗ですごく可愛い人なんだろうな、どんな形で対決できるのかな?と思っていたら、めちゃくちゃ負けず嫌いです!それを感じた時に「すごく面白い!」と思って。対決のシーンがあるんですけれども、そこなんか近くで見ていると、憎まれている顔をされるのがすごく気持ち良くて!舞台だけではないのですが、この仕事をするには女性陣は負けん気が強くないと、あと、サバサバしていないと成り立たないことが多いんです。それがまさしくサバサバしていて負けず嫌いの、素敵な女優さんが近くにいたので、今一緒に見ていても、やっていても楽しいです。

──森さんが夢に出て来たということですが、どんな夢だったのですか?

 それは聞きたいです!

シルビア お正月ちょっと休みがあったので、海外に行かせて頂いていて、ただずっと台本のことで追われていて、毎日台本を読んでいて全然海外を楽しむことができず(笑)、台本に追い込まれていて、寝ている間もずっと稽古しているんですよね。そうすると森さんからダメ出しされている夢が初夢でした。日本にいないのにダメ出しされてました(笑)。そんな夢でした。

──長谷川さんが一番ダメ出しされたところというのは?

長谷川 やっぱり熱量ですね。あの時代で国を背負って、今よりもっと男社会の中で女王として君臨しなければいけないという、意識の熱量が足りないということをずっと。もちろんもっと技術的な台詞の言い回しなどもうるさいんです(笑)。「僕は耳と目がいいから」って言うのですが、この方のダメ出しって「何が違うんだろう?」と思う時があるくらい、すごく耳が良い方で!もちろん現代語ではないので、どうしてもあまり意識しないで言ってしまうと、聞いている方がスルーしてしまう時があるので、どこに意識を置いて言うかですとか、イントネーションとかもありましたが、やっぱり一番は熱量だと思います。

──キャストの皆さん、役作りで一番大切にされたところは?

吉田 なんでしょうか。役作りはやっぱり自分としても、森さんの演出の中でどんどん変わっていきましたから、それに対応する。そして先ほど森さんからもおっしゃって頂いたのですが、家に持ち帰ってまた考えて、森さんとキャッチボールしたかったので、「これどうですか?」「あれどうですか?」と。それに対して「それはいらない」とか、やらせておいて「やっぱりいらない」とかが、森新太郎あるあるなんでよ(笑)。そういうのも本当に良かったですし、さっきも言った当初のイメージとも全然違うレスター伯になりましたので、僕自身目指したところというのもあるのですが、やはりそこは演出家の色々な指導でね。まだ初日までに高めていきたいなと思っています。

長谷川 気をつけたことはありすぎるんですけれども、やっぱり台詞の量が多いので、台詞を入れないとお芝居って成立しないので、身体にどれだけ染みこませられて、かつ森さんが演出してくださる内容を動かしながらすると、あ、こういう感情の流れなのかと、自分で腑に落ちることがあるんです。ただ覚えている台詞を言って、言われたことをやっているだけでしたらよくわからないのですが、全部が流れる瞬間というのがあって。その時がすごく気持ち良くて、そんなことの積み重ねの毎日だったんですね。なので意識していたことと言うよりは、指導して頂いたことを毎日こなすという日々でした。ここまでは。

シルビア たぶん同じことだったのですが、エリサベスの周りの俳優陣がすごい方たちばかりで、ベテランでもあり、年齢的にも私より上の方達を一言で動かす威厳を持たせないといけない。けれども感情をそこまで露わにはできない。でもその中で人間臭い感情を出す瞬間もなくてはいけないということで、人を動かす説得力を持たせるということが、今回色々苦戦したところだと思います。当然様々なヒントも頂けるし、色々な角度から、例えば「一回マイケル・ジャクソンでやってみて」とか(笑)、そういうこともあったんですけれども(笑)。「え!?マイケル・ジャクソン!?どういうこと?」と思ったら、なんかそこにもすごくヒントがあったなと。そんな風にちゃんとヒントを下さったものから、自分の中でどう消化するかというのを森さんがやってくださったので。まだ目指すところには全然先があると思うのですけれども、皆を動かす威厳を持つというのを、この顔で(笑)やっております。

三浦 僕はお稽古の一週間前くらいに盲腸の手術をしてから稽古に入って。冒頭から結構膨大な台詞量で「もっと熱を!」と言われて、僕はお腹の痙攣と闘ったのですけれども(笑)。今はようやく痙攣は治まったので。

 僕が「腹から声を出せ!」とか言ってバーンと叩いて!まさか盲腸の余韻があるとは思わなかった(笑)。だから一日二日、熱出して休んだよね? 最近三浦に言っているのは「辛かったら言え」ということで。我慢するタイプなんで、言わないんですよ!

長谷川 怖いよね。

三浦 怖くないです。優しいです(笑)。

と、和やかな会話の続いた会見はここで終了。演出家の森新太郎が目指したものや、キャスト陣の思いがあふれ、公演への期待が高まる時間となっていた。

【公演情報】
『メアリ・スチュアート』
作◇フリードリヒ・シラー
上演台本◇スティーブン・スペンダー
翻訳◇安西徹雄
演出◇森新太郎
出演◇長谷川京 シルビア・グラブ 三浦涼介 吉田栄作/
山本亨 青山達三  青山伊津美 黒田大輔 星智也
池下重大 冨永竜 玲央バルトナー 鈴木崇乃 金松彩夏/
鷲尾真知子 山崎一 藤木孝
●1/27~2/16◎ 世田谷パブリックシアター
〈料金〉S席 8,000円 A席 4,800円 補助席 7,500円 高校生以下 ※ S席 4,000円 A席 2,400円 補助席 3,750円
U24 ※S席 4,000円 A席 2,400円補助席 3,750円
友の会会員割引 ※ S席 7,500円 A席 4,400円
せたがやアーツカード会員割引 ※ S席 7,800円 A席 4,600円
※ 各特殊券については要公式ホームページ参照
〈お問い合わせ〉世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10:00~19:00)
〈公式ホームページ〉https://setagaya-pt.jp/performances/marystuart20200102.html

 

【取材・文・撮影(囲み)/橘涼香 舞台撮影/細野晋司】

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