渡辺えり・キムラ緑子の人気シリーズ第4弾『恋ぶみ屋一葉2020 有頂天作家』 記者発表会レポ―ト
渡辺えり、キムラ緑子による「有頂天シリーズ」の第4弾『恋ぶみ屋一葉2020有頂天作家』が、2020年3月13日から28日新橋演舞場で、4月2日から13日にかけて大阪松竹座で上演される。本作品は杉村春子にあてて書き下ろされ、1992年(平成4年)に新橋演舞場で初演、2年後に再演された名作『恋ぶみ屋一葉』をもとに『恋ぶみ屋一葉2020有頂天作家』として上演される。
《ものがたり》
明治43年の東京。代筆屋を営む奈津(キムラ緑子)は、兄弟弟子の売れっ子作家・涼月(渡辺徹)に淡い恋心を抱いている。そこへ、21年前に死んだと思っていた親友でかつての恋のライバルのきく(渡辺えり)が突然現れ大騒ぎに。さらに、涼月がまだ独身であることがきくに知られてしまい・・・。
出演は、コンビの良さで観客に大好評を得ている渡辺えりとキムラ緑子をはじめ、渡辺徹、大和田美帆、影山拓也(ジャニーズJr.)、春本由香、瀬戸摩純、長谷川純、宇梶剛士と個性豊かな実力派俳優が揃った。
この作品の記者懇親会が、1月20日、都内にて行われ、渡辺えり、キムラ緑子、作・演出を手掛ける劇団新派の齋藤雅文が登壇した。冒頭で松竹の松本プロデューサーが挨拶に立ち、『シラノ・ド・ベルジュラック』の女性版といえる前田奈津役をキムラ緑子、泉鏡花の小説『婦系図』のお蔦がもし生きていて20年後に元気な姿で現れたらという仮説のもと描かれる羽生きくを渡辺えりが演じると紹介。演出が江守徹から齋藤にバトンタッチをすることで、歌や踊りの要素が加わって盛りだくさんの内容となり、笑いが絶えず、後半は泣けるという起伏のある作品となっていると解説した。
演出を手掛ける齋藤は、自身が30代の頃に書いた愛着のある作品を渡辺やキムラと出会ったことで芝居の作り方が変わった今、もう一度やってみたいと深く思うようになったという。齋藤の中で、今回の配役は加賀美涼月役の渡辺徹を含めてほぼ理想どおりとのこと、今やらないければ、たぶん今後やることはないだろうと腹をくくったそうだ。今の自分であればこうなるだろうと修正を加えたところがあるというが、基本的に初演と変わりはなく、エンターテインメントとしてより楽しく、喜怒哀楽が伝えられるものにしたいと抱負を語った。
羽生きくを演じる渡辺えりは、『恋ぶみ屋一葉』の初演を観た時に、いつかこういう芝居をやってみたいと思ったと熱く語った。自分からこの戯曲をやりたいと出演するのも、作品を書いた作家が生きているのも初めてのことなので、画期的なことだとワクワク感を全面に出した。
さらに「(作家の齋藤が)生きているから、ここはこうしたほうがいいとけんかしながら稽古ができるのはすごく贅沢だし、面白い。今できる最高の芝居になるのではないかと思っています。実は私も親友が8年前に亡くなりました。生きていてほしいと思っているので、帰ってきたらどんなにうれしいだろうと思うんですよ。だから奈津の気持ちを思うと感動して泣いちゃうんです。私は親友と会えませんので、芝居の中で会ったつもりで毎回やろうと考えています」と自身の経験を出して、少し涙声になりながら語った。
一方で自身が演じるきくに関しては「きくは好きでもない人と20何年も暮らさなければいけなかった人。気の毒すぎて、こんなに気の毒な役をやるのは初めて」と苦笑い。その上で「『有頂天作家』ですから、笑って泣けるようにこれから稽古で作っていきます。着物を着て歌うわけですから、ミュージカルのような音楽劇のような、二重三重に面白い舞台になると思います」と太鼓判を押した。
前田奈津役のキムラ緑子は、渡辺の亡くなった親友への思いを聞き、「だからああいうふうに演じられたんですね。初日の本読みで、えりさんの演技を見てびっくりし、もらい泣きをして大変なことになってしまったんです」と明かしながらも納得の表情を見せた。
そして「これまでの有頂天シリーズでは、えりさんと敵対する役回りでしたが、今回は女同士の友情が描かれます。とてもいい作品になるんだろうなと思っていますし、齋藤さんが書かれた作品を齋藤さんご自身が演出されるということですごく楽しみにしています。今回は劇団新派の方々もたくさん出演されているので、今までと全く違うものになると思いますが、齋藤さんが作った世界をお客さんになんとか伝えたいと思っています」と意気込んだ。
質疑応答で、渡辺とキムラに対し、2人で掛け合うことの面白さを問うと「えりさんは必ずそこにいる方。だから私もその場にいなければいけないといつも思っています。えりさんとの芝居はいつも「生」だということが、強力に他の人とは違うところだと思います」とキムラが言うと、渡辺は「私は掛け合いがすごく好きな役者。漫才みたいにやるのが好きなタイプなので、緑子ちゃんは京都にいたこともあって、関西の芸風もお持ちの方、私は東北人でそういうところがないので、全然違うタイプの2人が掛け合っている面白さというのはあると思います」と語った。
演出の齋藤は「えりさんと緑子さんは、似ていない。ややこしいところがあるのは一緒ですけれど(笑)。ですから、図らずも舞台の作品の構造によくマッチします。陰と陽だったり明と暗だったり、それぞれ相手によって変わっていくというのは、一緒にやっていて非常に幅広く物語が作れるので楽しい」と笑顔を見せた。
そんな齋藤に対して渡辺は「でも今回はロマンチックなせりふがないのが不満ですね。生きている作家が修正するというから楽しみにしていたけれど、おかしな言葉しか増えていないのが、不満だな。もうちょっと二枚目のせりふがほしい」とちょっとした“ダメ出し”に対して、「すみません…」と言う齋藤に笑いが起こった。
2人と大きく関わる渡辺徹の印象について聞かれると、キムラは「20年前にテレビドラマで夫婦役をやりました。20年ぶりの再会ですが、とても楽しく話をさせてもらっています。文学座の方ですから杉村さんの話をしてくださったりします」。
渡辺えりは「私は全くからみがないんですよ。たぶん本番が始まって楽屋で話すようになるとは思うのですが、稽古場では本当にからまない。ずっと好きだった相手なのにからまないので、想念で演じることになると思いますから、難しい役を受けてしまったなと思っています。でもこれからですね。10年前に飲んだ時、面白い人だという印象がありますからこれから楽しみですね」と笑顔で語った。
また2人にとって、今回の公演で初挑戦となることに質問がおよぶと、キムラが「芝居をやるたびに初めてのことが多いんですけれど、江戸時代の生まれというのは初めてですね」と語れば、渡辺は「着物で和傘をたたむというのが生まれて初めての経験です。モンペで登場するかと思ったら着物だったし、その上和傘をたたむとなると、毎日そういうふうにやっている人のように見えるのかどうか、新派の皆さんに聞きながらやっていきたいです。また、本物の子どもと掛け合いをするのも初めてですし、かなづちを持って歌うのも初めてなのでかなり笑えると思います」と意外に初挑戦が多いことを明かし、笑いを誘った。
歌と踊りがふんだんに入った作品になることで、今回振付に尾上墨雪と前田清実の名前が入っていることについては、齋藤は「着物を着ているわけですから、いわゆるミュージカルナンバーでみんなが踊りまくることはないですが、前田清実さんは舞台の上でさまざまな動きや位置関係、表現の仕方を探って、ダンスシーンではないけれどストレートプレイでもないというのを見つけてくれそうな気がします。墨雪先生は、吉原のお座敷のシーンがあるので、そこで踊りの振りをつけていただこうかと思っています。今回は贅沢なスタッフとなっていますね」と語った。
改めてキムラが演じる前田奈津について、具体的なキャラクターを問われると「吉原の遊郭の近くで、小説家になれなくて、遊女の恋文を代筆している人。「一葉さん」とあだなで呼ばれていますが、樋口一葉さんの生き方がそのまま投影されているところがあります。子どもの時に家が貧しく売られてきた遊女の代筆をすることで、誰かの心を伝えるという仕事をして、自分自身も友人の手紙の中に自分の心を入れて書いているという、ややこしいところがある。それが『シラノ・ド・ベルジュラック』みたいだといわれるゆえんなのですが、グッと我慢をしてひたすら思いを持って生きている役回りです」と分析。
それを受けて渡辺が「奈津は強い女性だと思いますね。物書きになりたいと、結婚もせずに仕事を続けている、当時としては新しいタイプの女性です。この戯曲の面白いところは、夢を諦めなければいけなかった女性が多い中、奈津ときくという、芯が強くて優しい二人の女性が土壌を耕し、そして女の友情を取る新しい女性像を描いているところです」と語った。
齋藤は、「最後に樋口一葉が欲しがっていたであろう、架空のつまみかんざしを渡辺徹さん演じる涼月が、奈津の髪にさしてあげるシーンがあります。一葉さんもこうして長く生きて春のような恋をしたかっただろうなという思いで書いたのですが、しっとりしたすごく芯の強いところを体現してくれる作品になると思っています」と期待を込めた言葉で締めくくった。
【公演情報】
喜劇名作劇場『恋ぶみ屋一葉2020有頂天作家』
作・演出:齋藤雅文
出演:渡辺えり、キムラ緑子/大和田美帆、影山拓也、春本由香、瀬戸摩純、長谷川純、宇梶剛士/渡辺徹
●3/13~28◎新橋演舞場
〈料金〉1等席12,000円 2等席8,500円 3階A席4,500円 3階B席3,000円 桟敷席13,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
●4/2~13◎大阪松竹座
〈料金〉1等席12,000円 2等席7,000円 3等席4,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉 チケットホン松竹(10:00~18:00)0570-000-489(ナビダイヤル)または03-6745-0888
〈公式サイト〉https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujo2003/
【取材・文/咲田真菜 撮影/友澤綾乃】
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