【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.115「ずさん」
「この写真、ノゾエさんをすごく表してるなーって思いました!」
と感激気味に見せられた写真がある
それは楽屋での私の様子で、なにかずさんなところでも写り込んでただろうか?と若干緊張しながら次の言葉を待っていると、ここですここ!とズームアップされたそこにあったのは、キレイに畳まれたTシャツと、きちんと置かれた荷物たち。
「一人部屋なのに(演出の時は一人部屋をいただけたりする)、こんなにキレイにしてるなんて、ノゾエさんらしいなって!」
ポカンとしてしまった。
私、そんな風に見えていたのか。稽古場でも机の上はすぐに散らかっていたと思うし、まさか几帳面に見られていたとは、まことにハテナである。
演出にしたって、細やかに積み上げたりするタイプでもない。
「すいません、これは完全にいい子ぶってますね。私はこんなにキレイ好きではありません。」
「いやいや、一人部屋で誰にいい子ぶるんですか!」
「いやいや、楽屋なんていつ誰が入って来るかわかりませんから、最低限キレイにしてただけです。これは外ヅラです。」
「いやいや!」
なにがいやいやだ。
私は、本来の自分と真逆のように思わせてしまって、とても、詐欺を働いているかのような気持ちになった。
私のどこが、そのような印象を与えることになっただろうか・・。
などと、「見え方」について考えていたある日、芝居を観に行くと、客席に先輩が見えたので会釈した。反応がないように見えたのでノゾエと分からなかったかなと思ってマスクを下げてまた会釈したら、いやいや分かってるよ!みたいな反応をされた。終演後また別の先輩がいたので、やはり挨拶したら、またしても反応がないように見えたので同じようにマスクを下げて挨拶したら同じように「いやいや分かってるから!」みたくなった。
その夜、もう1本芝居を観にまた別の劇場に行って、また全く同じようなことが起きた。いやだって皆さん反応薄いから、、。
その帰り道、知人が私を見つけて挨拶してくれたので、「おー」と笑みを返したのだが、知人はマスクを外して「○○ですっ」と言ってきた。
「いやいやわかってるから。」
あ。
ふと思い出した。妻から言われたことを。
「ママ友から、ノゾエパパにわたし嫌われてるかな?って言われたよ」と。
どうやら私が素っ気なかったらしい。
そんな素気なくするわけないじゃないか。
と思いつつ、そうか。わかった気がする。
当たり前だけど見落としがちなこと。
我々は普段、顔の全体を使って感情を表している。なので、半分隠れている時は、半分しか表現できていないのだ。ということをもっと知っておかなくてはならない。ということをもっと気をつけなくてはならない。
それをより深く知った我々は、徐々に、マスクの外の部分で感情を伝える術を身につけていき、一方、マスク内での表現は油断によりダルダルとなり、数年後には、街は口角が下がり気味な人で溢れているかも知れない。
マスク生活ももう3年目にもなるというのに、やっとそんなことを実感している私は、やはりずさんだと思うのです。
って、気がついたら街にはマスクをしない人がどんどん増えてきているので、上記の心配は無用のようです。
【著者プロフィール】
ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された。
【今後の予定】
◯ジョンソン&ジャクソン『どうやらビターソウル』(出演)
東京公演 2022年11月9日(水)~11月20日(日)@ザ・スズナリ
大阪公演 11月25日(金)~27日(日)@A B Cホール
◯プロペラ犬「僕だけが正常な世界」(出演)
@東京芸術劇場 シアターウェスト
2022年12月16日(金)〜25日(日)
▼▼前回の連載はこちら▼▼
http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe114/
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