【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.108「グッドラック & ヘイワ」
こどもに、まみれてきました。
香川県は、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。
高校生以下を対象とした演劇ワークショップをやらせて頂きました。
コロナ禍で、ワークショップもまだ厳しいかもなあと覚悟していた中での開催。だったので、喜びもひとしお・・などと浸ろうとする間を、見事に踏み越えてくれるよね、子供って。
まあ、来てくれました来てくれました、おとなしい子も、暴れん坊も、礼儀正しい子も、そんなのお構いなしの子も、
下の年齢制限を設けなかったので、3歳から来てくれました。
そして上は中学二年生。
二日間、二回に分けて、それぞれ定員いっぱいに。
もちろん「ノゾエ征爾」のことなんて誰一人知りません。
僕もみんなのことを何も分かっていません。
そんな超健全な、超フラットな関係の中で、「演劇」なんぞをやってみる。
この時点でもう、ある意味演劇が始まっている。
このワークショップでは、あえてテキストを使って、2時間でホールでの本番までやってみる。
初演劇なのは当然として、まだ字を読めない子もいれば、理解力の差も大きなみなさん、
無謀であることは百も承知。しかし、無謀こそ演劇。演劇こそ無謀。無謀からしか何も生まれない。そんなことを肌で感じてもらいたくて・・、なんてみじんも思ったわけではありませんが、ともかく、無謀にスタートしてみた。
「これ今、完全に学級崩壊しとるよな・・」といった無法地帯化している楽しい時間帯もたくさんあリーの。
しかし、たとえば、ぶっつけ本番でやった「箱を組み立てる」シーンでは、自然と、大きい子が小さい子を手伝ったり、切ったことないガムテープと必死で格闘したり、想定していた時間よりも何倍も時間がかかっていたけど、
それは台本にも何も書かれていない素晴らしい時間になっていて、見せ物としては全く成立していないかもしれない瞬間もたくさんあって、ずっと見ていたい、この上なく美しい時間だった。
最後は、舞台上で横一列に並び、一人一人、将来の夢を話してもらった。
「自然を守る仕事をしたい」という子が複数いたのには驚いた。私が子供の頃にはあまり聞かなかった気がする。
「演劇」の名の元に、人が集まり、何が出来るかわからない何かを一緒に目指す。
うまくいったり、いかなかったりして、でも最終的には、来てよかった、やって良かったと思える何か。
そんな小さな平和を、繰り返して繰り返して、積み上げていくしかないのだと、なんか、思った。
「のぞっち、今日はすごい楽しかった。次いつ会える?」
5歳くらいの子に言われて、のぞっち、泣きそうになりました。
「のぞっちねえ、普段は東京にいるからねえ、」
「え、東京から来たん!?」
それも知らんかったんですか。いいね、最高です。
みんな、いつまた会うか、会わないかはわからないけど、グッドラック & ピース。
なんて、久々にグッドラックヘイワを聴いて、4時間の帰路を楽しんだ。
【著者プロフィール】
ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年には初の主演映画『TOKYOてやんでぃ』が公開された。
【今後の予定】
ちょっと今、世界的演劇名作の創作ワークショップをやったりしてて、もしかしたら5月上旬に発表会もやるかもしれません、その時はまた発表させていただきます。
▼▼前回の連載はこちら▼▼
http://enbu.co.jp/nikkanenbu/nozoe-107/
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