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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第31回 鈴木裕美さん(演出家)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

最近のマイブームとしては…と書いたところで、「マイブーム」って言葉はまだ死語だったりしないのかしら?

最近、言語力視力聴力体力消化力がガタガタっと急に落ちて、老後高原の裾野に降り立った気分なもので、自分の何気なく使っている言葉さえも遠い昔に使わなくなってる言葉だったらどうしよう…と気になったりもします。

視力に関しては、いよいよ小さい文字が見えにくくなってきて老眼鏡をつくり、聴力に関しては若い店員さんの言っている言葉が6割ほどしか聞き取れないので、何度も聞き返してみたり、体力に関してはお昼寝しないと眠くて仕方なかったり、消化力に関しては朝ごはんが夕方くらいまで胃の中にいるような気がします。

そんな身体の機能はどんどん使い倒されて弱っていくのにもかかわらず、ずっとこだわってしまっている気持ちとかはいつまでたっても元気なものですよね。

そこで最近のマイブームに戻りますが、「愛を手放す」です。

根っことしては、小さい頃愛情が足りなかった…という、現実的に本当にそうだったのか、自分が盛ってそうした思い出にしてしまったのか、いまとなっては解決できることでもないまま完成されてしまった私の土台でありますが、これがずっとずっとずーっと、邪魔をし続けているのです。

そしてそれは、いろんな人から思いっきり愛されれば解決するものだとばかり思って生きてきましたが、もちろんそんなに思いっきり愛されるような人間でもありませんし、機会も少ないわけで、いつまでたっても満たされるものでもありません。

さらに、自分はきっと満足中枢が人より高くて、ちょっとしたことくらいでは満足できないような気がするのです。

そうなるともう、愛されることを求めるのにも限界があるわけで。こうなったらもう、愛に執着するのをやめよう、と思ったわけです。

結果、いままでなんでこれしてこなかったんだろう…というくらい心地よい。 とはいえ、まだまだ手放し一年生ですから、「いいなぁ…」と引き戻されることも多々あり、呪文のように「手放す手放す…」と心の中でつぶやいたりもしますが。

きっと客観的に見られたらとても寂しい人生に映るのかもしれませんが、こればっかりはしょうがないですものね、池谷の人生はこんな感じです。
誤解なく言っておくと、愛されないことを手放すだけです。目薬分くらいしかない私の愛の泉を使って、せいいっぱいの愛は周りの人に振りまいていく気は満々です。ただし、目薬分くらいしかないですが。

さて、今回はたくさんの人たちに愛されている、そして同じくらい心配されている演出家さんからのご相談です。

*****

切実なご相談です。
私は大変頻繁に財布や携帯をどこかに置いてきてしまいます。
私の芝居を後輩たちが見にきてくれて、「今日はご馳走するよ!」と居酒屋に誘い、支払いをする段になって、楽屋に財布を置いてきてしまったことに気づき、結果後輩にご馳走になり、タクシー代まで貸してもらうなどということは、もうしたくありません。
バスの座席に携帯を忘れたことに降りてから気づき、タクシーに飛び乗って「あのバスを追ってください!」などという冒険ももう充分です。
小さい頃はよく母に、「おまえはそのうち命もどっかに落としてくる」と言われました。幸い命は今のところ落としてきていませんが、落としそうで心配です。
また、友人たちから、「お前と知り合う前はモノを落とさなかったのに、知り合ってからよく落とすようになった、感染した、どうしてくれる」とも言われます。
今まで何人もの方に助言を求め、多くの方から「首から下げとけ」と言われましたが、実際問題、財布と携帯を首から下げて稽古をするのは不可能的だということは、のぶえさまならご理解いただけるのではないかと思います。
傘とかは、もういいです。財布と携帯と命だけは、どこかに置いてこないようにするにはどうしたらいいでしょうか?

鈴木裕美さん(演出家)

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裕美さんの「携帯…どこ?」は、これまでも何度も耳にしてきましたが、お財布も同じようなことになっていたとは今回初めて知りました。
以前、待ち合わせ時間に現れなかったのでどうしたかと思っていると、「時計が止まっていた」というミラクルもありましたね。

とにかく裕美さんの周りでは、私からしたら一生に1、2度あるちょっとした事件がとにかく頻繁に起こります。もはや、驚きを通り越して羨望のまなざしです。

さて、冒頭のマイブームにも通ずるのですが、自分以外の人の美しさや、素敵さや、才能や、愛され具合などなどを、ついついうらやましがってしまいがちの自分ですが、愛を手放す活動の一環として、「自分をつかさどる全ての基礎パーツは、生まれるときに全部自分でお買い物してきたもの」と思ったら、楽になることに気づきました。

きっと、お買い物に使えるお金はそれぞれ決まっていて、その中から買える見てくれや、内臓機能や、センスや、性格等の基礎部分をカスタマイズして生まれてくるわけです。

もちろん、持ち金は決まっているので、どこかに高値をかけたら、どこかを削らねばなりません。

裕美さんはきっと、「ものを失くさない」というパーツを買わなかったのかもしれませんね。
その分、作品をつくる時の情熱&体力気力、言葉を伝える感性が素晴らしいと思いますし、いつまでも衰えない飲酒力も素晴らしいです。

これらの素晴らしい部分を重点的にカスタマイズして誕生してこられたと思いますので、「ものを失くさない」部分に関しては、いまから買い物するつもりでがんばってまいりましょう。

さてでは、どう頑張るかです。

もはや裕美さんの携帯やお財布を失くしてしまうことは、その頻度からみるに、習慣に近くなっているイメージがあります。

人は習慣化してくると、そこに安心や安堵感を覚えます。
それは、良いことばかりに作用するのではなく、逆のことにも同じようなことが起こるのが人間のすごいところです。

失くすということに対し、どこかで心や身体が完全に安堵してしまう前に、この無くし慣れたを変えなければなりません。

そんな時、やはりどこでも言われるのが、裕美さんもおっしゃってた通り、「首から下げておく」にはじまり、「置き場所を決める」「ものがあるか、指差し確認、声出し確認する」などでしょう。

これらのことは、裕美さんも何度もやろうと思ったに違いないですし、結果あまり習慣化できなかったゆえ、現在進行形で失くし続けているのだと思います。

病気になったら性格がかわった…などとよく言われるように、人が習慣をガツンと変えるためには、それなりの荒療治が必要かと思います。

携帯やお財布を失くしたら、どんなに酷いことになるか…といった経験を増やしていきましょう。

まずはお財布は、常に現金を最低50万ほどは入れたものを2つ用意しておいてください。
そして携帯は、連絡先が入っている方で、あまり世間にはばれてはいけない方々の顔写真をまとめたものを待ち受け画面に設定しましょう。もちろん、ロックなどしておいてはいけません。

さあ…ここまでして、忘れたり失くしたりできるのでしょうか。
私からすると、たとえバッグを替える時にも大金が入ったお財布が2つもあれば多少気にかかる確率が上がるかなと思いますし、携帯を失くしたらいろんな人が大変なことになるプレッシャーで多少気にかかる確率が上がるかな…と思うのですが。
もしかして、そんなこと既に試してみても難しかったり…もしかして…しています? だとしたら、もう、どうしましょう…。

今回のご相談にお答えするにあたっていろいろ調べていた中で、滅多に失くさない私ですらヒャ~ッと、心に刺さる言葉に出会ったので、最後に裕美さんに贈ります。

「モノを失くしているのではない。あなたは自分の時間を失くしているのだ」

お稽古場や、飲み会など、裕美さんとご一緒できる時は、「裕美さん、携帯は!?」「裕美さん、お財布は!?」「裕美さん、時間止まってません!?」等、全力で見守ってまいりますので、ご安心ください。

これからも、裕美さんを見守れる時間がたくさん訪れますように。

■ラッキー待ち受け

大先輩に対して、わりと容赦なく回答してしまいましたが、とても尊敬しているのです! ということだけは改めて記しておきたいです。
ただ一緒に飲んでいると楽しいので、そのリラックスした状態をついつい引きずってしまってたりしてたらお許し下さい。
いままでで一番、待ち受けらしい待ち受けをお贈りします。例えばこんなふうに、携帯に連絡先が入っている方々の写真を待ち受けにしてくださいね!

■鈴木裕美さん今後の予定
演出家 鈴木裕美による俳優のためのワークショップ https://peraichi.com/landing_pages/view/suzukiworks
※池谷が勝手にお勧めする、素敵な言葉がたくさん飛び交うワークショップです。

ホリプロ「サンセット大通り」
作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー
脚本・作詞:ドン・ブラック、クリストファー・ハンプトン
演出:鈴木裕美
2020/3/14(土)~3/29(日) 東京国際フォーラム ホールC
https://horipro-stage.jp/stage/sunsetblvd2020/

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]
【テレビドラマ】
NHK「LIFE!~人生に捧げるコント~」出演中
TBS 「G線上のあなたと私」毎週火曜22:00~ 小暮洋子役

【舞台】
月影番外地 その6「あれよとサニーは死んだのさ」(作:ノゾエ征爾、演出:木野花)

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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