【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第143回「ワンフロア客席」
いや〜! 劇団☆新感線「ミナト町純情オセロ」の全公演が無事に終わりましたよ! いつもよりはステージ数が少ないとはいえ、やはり全公演が無事に終わるとホッとしますね。新感線にしては珍しく心情変化に重きを置いた会話劇でしたが、意外と好評を頂いていたようでありがたかったです。
さて、その「ミナト町純情オセロ」の大阪公演は、劇団としても私としても初めてとなる「COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール」でした。数年前にできたばかりの新しい劇場でして、綺麗でオシャレな劇場です。
でね、このCJPO WWホールは約1100席のキャパシティがある劇場なのですが、客席がワンフロアなのです。つまり、二階や三階の客席がなく、一階客席が縦に長く延びたワンフロアの客席なのです。
イメージで言えば今は無き近鉄劇場(約950席)とか、PARCO劇場(約650席)とかの感じ。通常は1000席を越えると二階客席ができたりするので、ちょっと珍しい劇場ですね。
このコラムをお読みになるような観劇に慣れた方々なら、色んな劇場の客席について様々な私見をお持ちだと思います。あの劇場の客席は座り心地がいいとか、この劇場の二階席は見えにくいから好きじゃないとか、まあそれぞれのご意見はございましょう。
もちろん我々も観劇にはよく行きますし、自分たちが上演する時にも二階席、三階席に行って見え方を確認することも多いです。劇場の客席についてはそれなりに私見はあります。
しかし、やはり我々にとってポイントとなるのは《舞台から見た客席の見え方》でございまして、これを把握しておくことが重要なのです。
舞台で演技をするにあたって《どこからどう見られているか》を意識することは大事です。全ての演技を余すところなく全客席から見えるようにするというのは難題ですが、できる限り見切れを少なくしたり、見えない瞬間が短時間になるように工夫はします。
そのために「ミザンス」と呼ばれる人の動きや立ち位置を決めて、できる限りストレス無くご覧頂けるようにします。
実を言いますと、といいますか皆様ならとっくにご存じのことと思われますが、二・三階客席からは角度的に見えにくい部分も多く、特に花道での演技は全く見えない場合すらあるのです。それは劇場の構造上仕方のないことではあるのですが、その場合はほとんどの客席からかろうじて見える花道の根本で演技をしたりします。
あとはまあ、舞台セットの裏に隠れている時などには二・三階客席から見えないように気をつけるとか、見えちゃう場合でもできるだけ大人しくして目立たないようにするとかね。物凄く体勢を低くして待機したりとか。華やかな舞台でも意外と地味な苦労をしていたりもするんですよ。
このように、客席と舞台の関係には様々に重要な点が多く、我々も気をつけております。しかし、つい最近それが気になったのがCJPO WWホールでのカーテンコールの時でした。つい顔を高く上げて客席を見回したのですが、そこに二階席は無かったのです。
カーテンコールの時、私はできるだけ客席全部を見渡してからお辞儀をするようにしているのですが、新感線の公演は大劇場で行われるコトが多く、二・三階客席(劇場によっては四・五階まで)を見るために顔を上げがちです。
しかし、CJPO WWホールはワンフロアの客席ですので見上げた先に二階席はありませんでした。慌てて目線を下げて一階席の奥の方を見るようにしましたよ。
なんかワンフロアの客席って良いですよね。目が行き届くような気がして。もちろん一番後ろの客席が舞台から遠くなってしまうという弊害はあるのですが、なんだか一体感があって私は好きです。
そんなこんなの客席事情。皆様も色んな劇場をお楽しみ頂ければ幸いです。
こちらがCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールの外観。ロビーには巨大LEDディスプレイが設置されていますよ。
粟根まこと
【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み
【粟根まこと出演予定】
NAPPOS PRODUCE 『嵐になるまで待って』
2023年7月◎サンシャイン劇場
◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ6月号」は全国書店にて5/9に発売!
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
Tweet