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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第139回「稽古初日の心構え」

新年明けましておめでとうございます。気がついたらもう令和5年ですって。早いもんですねえ。なんだかんだ大変な昨今ですが、本年もどうぞよろしくお願い致します。

そんな令和5年。年明け一発目の舞台はつい先日の1/4に行われました「海底二万里稽古初日」でした。舞台というか、いや、舞台なんですけど、架空の演劇の稽古初日を公開してしまおうという作品です。
実際に上演される作品ではないのですが、その一部のシーンを立ち稽古しながら組み上げてみようという、まあワークショップのような企画です。
演出の腹筋善之介さんがかなりアクティブな舞台を作られる方なので、《本読み》をする時間ももどかしく、早く動いて形を作ってみたいのだそうです。演出家によって、それぞれ様々な演出手法があり、様々な稽古初日があるってコトですよ。

まあ、今回は稽古しているところを覗き見るというテイの舞台作品でしたので、実際の稽古初日とは色々と違う所もあります。いや、実際には腹筋善之介さん演出の作品には出たことがないので本当にそうなのかもしれないけど。
ですので、今日は実際の稽古初日とはどのようなモノなのかというコトを解説してみたいと思います。

大抵の演劇の稽古初日にまず行われるのが《顔合わせ》という行事です。プロデューサーが立ち上がり、その場にいる全スタッフ・キャストの名前を読み上げて紹介していくのです。
顔合わせの次は《本読み》に移ります。演出助手の進行の元、台本を一通り声に出して読んでみるのです。実際に俳優が声に出して読んでみることで全体像を掴み、作品のイメージを感じていくのです。
この顔合わせと本読みについては以前にも書きましたので、詳しくはそちらをご覧下さい。

http://blog.livedoor.jp/nikkann-awane/archives/43437778.html

しかし、稽古初日に行われるのは顔合わせと本読みだけではありません。大事な段取りとしては《採寸》があります。要するに衣裳さんが身体の各パーツの寸法を測るんですね。劇団公演の場合はゲストの、プロデュース公演では全員の採寸をします。予めデータを渡している場合は省略する場合もありますが、念のため重要なパーツだけ測ることもあります。
場合によっては衣裳やカツラのフィッティングをする現場もありますね。パンフレット撮影のために早めに衣裳を作る時などは、稽古初日に仮縫いしちゃう場合もあります。
また最近ではSNS用の写真や動画を撮ったり、インタビューがあったりもします。カンパニーによっては稽古序盤に全出演者が揃うことが少ない場合もありますので、一網打尽にするには稽古初日は良い機会なのです。

そんなカンジで早めに稽古初日を終えると、以前ならばみんなで飲みに行ったりしておりました。再会を祝ったり、初めましての人と交流を深めたり。まあ、今ではできないんですけどね。
そんなカンジの稽古初日。まあ大抵の場合は初日ということで、あまり突っ込んだ稽古はせずに早めに終わるコトが多いんですよって話です。

しかし、そんな段取りとか行事のことはまあいいんです。今日書きたいのは稽古初日の心構えについての話なのですよ。
稽古の初日。いったいどの程度のテンションで臨めば良いのでしょうか。台本はどの程度読み込んでおけば良いのか。どのくらい覚えていった方が良いのか。何かしらの作戦を練っていった方が良いのか。
自分の劇団や何度もお世話になったことのある演出家の場合は比較的簡単です。要するに《いつもの感じ》です。別に気を緩めているワケではなくて、ある程度は予測が付くので心構えの仕方が判っているというコトです。

問題は初めての劇団、初めての演出家、初めてのカンパニーに参加する場合なんですよ。どういう心構えをすれば良いのか全くもって判らないのです。
どういうタイプの演出をする人なんだろうか。物凄く怖い人だったら困るな。思わず知り合いの演劇人にリサーチしたりもしました。なんだよ臆病だな。いや、これも心構えのひとつなのです。

こんな私でも、若い頃にはそれなりにギラギラしておりました。まだあまり有名ではない劇団の俳優が初めてのカンパニーに飛び込むワケですからね。なんだかムダに考えて、考え過ぎちゃって、ああしてやろうとかこうしてやろうとか、それはそれは気負いすぎた準備をしてしまうのです。してしまうモノなのです。
よく「若手芸人が初めてのトーク番組に出る時にはこれでもかと一杯の武器を持っていく」というような話がありますが、なんかあんな感じ。喰われてなるものかと。隙あらば喰ってやろうかと。でまあ、当然ながら若気の至りでカラ回るワケですよ。うわあ恥ずかしい。

そんな私も今ではもういい歳です。稽古初日に向けてムダに気負ったりすることもなくなりました。まあ、なるようにしかならないしね。あまり考えすぎないようにはしています。

ことほど左様に様々な人間模様が錯綜する稽古初日。そうなんです。稽古初日ってのは実は色々と大変なんですよ。俳優部だけでなくスタッフさんたちも含めて、稽古初日にはそれなりの心構えと気概と緊張感を持って臨んでいるという話でした。

さて、私の次の舞台である劇団☆新感線「ミナト町純情オセロ」の稽古初日も間もなくです。今回はどのような心構えを持って向かうのでしょうか。まあ、いつも通りっちゃあいつも通りなんですけどね。
まずは無事に稽古が始まって、無事に終われればそれに越したことはありません。今回も気をつけて参りましょう。そうしましょう。

昨年末、念願の「高輪消防署二本榎出張所」に行ってきました。昭和八年の建築ですよ。

粟根まこと

【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

【粟根まこと出演予定】

2023年劇団☆新感線43周年・春公演
『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』
3/10~18◎東京建物 Brillia HALL
4/13~5/1◎COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ2月号」は全国書店にて1/7発売!

 

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