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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第135回「押しと巻き」

さあ、9月に入りましていよいよ「薔薇とサムライ2」が富山公演から始まります。12年前の作品の続編ではありますが、今作から見て頂いてもだいたい大丈夫です。大丈夫ですので、諸々の都合と事情が合いますれば、是非ともお越し下さいませ。ド派手な作品になっておりますよ。

さて、本番目前というコトは、つまりつい先日まで稽古していたというコトでして、そりゃもうギチギチに稽古しておりました。「薔薇サム2」は生バンドが入ったミュージカル風でして、歌も多ければダンスも多く、要するにやることが一杯です。稽古場で決める事柄も多くて実に大忙しな稽古でした。

演劇の稽古の進め方はカンパニーによってまちまちでして、その日の稽古に出番があろうが無かろうが全キャストが全日集められる現場もあれば、芝居では全員集合でもダンスや殺陣のシーンではそのシーンの人だけが集められる現場もあります。
新感線ではとにかく出演者が多くて、また1シーンを作るのにやたらと時間が掛かるというコトもあって、稽古の序盤ではそのシーンに出演する俳優だけが集められます。16時まではシーン1A、16時からはシーン1B、18時からシーン1C、みたいな感じ。該当する俳優はその時間までに稽古場に入ってストレッチなどしてスタンバイして臨みます。

そういったスケジューリングは演出助手と制作部が相談して決めているのですが、スケジュールというのは往々にして予定通りに行かないモノです。要するに予定よりも長く時間が掛かっちゃったりしたり、早く終わってしまったりするのですよ。どれだけ熟練した演出助手が計算しても、なかなか予定通りには進まないってコトです。いやあ、難しいですね。
そして、「予定よりも長く時間が掛かってしまう」コトを「押している」と言い、「予定よりも早く終わってしまう」コトを「巻いている」と言うのです。この「押し」と「巻き」が今回ご紹介したい演劇用語です。演劇用語というよりも映像用語ですけど。

もはや有名になりすぎて一般的にも使われている「押しと巻き」ですが、おそらくは映画やテレビの現場が発祥です。違うかもしれないけど。違ったとしても、今でもこの用語を一番使っているのは映像業界です。次が舞台などのイベント業ですかね。

語源もよく判りませんが、なんか語感的に判りますよね。「押し」はスケジュール表を「押し」出しているからでしょう。なんか次の予定を「ところてん」式に押し出している感じが良く出ています。
で、「巻き」ですよ。こちらはよく判らない。ゼンマイを巻いて急ぐさまだとか、時計の竜頭を巻いているさまだとか、まあ色んな説があるようですが、「巻きでお願いします」を表す指をクルクルと回す仕草から、フィルムやテープを早回しにするイメージからかもしれません。
そういえば、ビデオ文化の衰退から、HDレコーダーやDVDプレイヤーの「巻き戻し」の意味が判らない世代も増えてきたそうで、最近の機器では「早戻し」と表記されるようになっているのだそうです。そうかー。デジタル世代には、あのカセットテープやビデオテープなどのアナログ世代の表現は伝わらないかー。そうなるとあの「巻き」のゼスチャーも伝わらなくなるかもしれませんね。

まあ、語源はいいとして、問題なのは稽古場に於ける「巻きと押し」ですよ。先ほども書きました通り、新感線の稽古では日によって入り時間が変わります。スケジュール通りに行っている時はいいのですが、ちょっと押したりすると人によっては待ち時間が発生します。大幅に押した場合には予定していた稽古が無くなる場合もあり、そうなるとその俳優は何もしないまま帰宅することになります。
いやまあ、そういうコトもありますって。より良い作品にするためにみんな頑張っているんです。気を取り直して前向きにいきましょう。

問題になるのは、なんだか稽古がテンポ良く進んで「巻いて」しまった場合です。そんなことは滅多にありませんが、○時までに稽古場に入ろうとか思って準備している時に電話が掛かってきて「巻いているので早めに来て下さい」とか言われたりするのです。
先日なんて、ダンス稽古のために稽古場に向かって移動している時に「巻いているので早めに来て下さい」とメッセージが来て、急いで向かっていると今度は「巻きに巻いちゃって、もう振りが付いてしまいました」と来ました。もう振りが付いたのかよ! できちゃったのかよ! ずいぶん巻いたな!
とはいえ、電車やバスは予定通りにしか運行しませんからね。焦ったって仕方がありません。粛々と稽古場に着いて、出来上がった振りを教えてもらいました。こんなケースは稀ですが、稽古には押しも巻きもあるって話ですよ。

さあ、本番ですよ。舞台の本番開始は天候や交通機関の乱れなどで多少押したりするコトはありますが、巻くことはありません。どうぞお気を付けてお越し下さいませ。会場でお待ちしております。

本文とは関係ありませんが、先月の国立公文書館に続いて東京都公文書館にも行ってきました。出来たてで綺麗な建物でしたよ。

粟根まこと

【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

【粟根まこと出演予定】
劇団☆新感線42周年秋興行 新感線RX
『薔薇とサムライ2~海賊女王の帰還』
9/9~11◎オーバード・ホール(富山)
9/22~25◎新潟県民会館 大ホール(新潟)
10/5~20◎フェスティバルホール(大阪)
11/1~12/6◎新橋演舞場(東京)

 

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