【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第131回「見せ転」
豪華ゲストをお招きして、生命力に溢れたドタバタをお送りしている「神州無頼街」もいよいよ東京公演が始まりました。なんとかこのまま千秋楽まで無事に上演することが出来るよう、関係者一同さらに気を引き締めて行きたいと思います。
そんな「神州無頼街」は舞台美術も特殊です。基本的には回り舞台、いわゆる「盆」を回転させて転換していく(http://blog.livedoor.jp/nikkann-awane/archives/25512655.html)のですが、その使い方がちょっと特殊なんです。 通常の盆を使った舞台転換では、客席側を向いた半円分の部分で物語が進行している間に、裏側の半円部分(つまり客席からは見えない側)でセットチェンジを行い、盆を半回転させて場面転換をします。
半分ずつではなくて、三分の一ずつ回転させる「三面盆」の場合もありますが、いずれにしても「見えない部分でセットチェンジをする」というのは同じです。要するに、盆を回転させることで全く違うシーンに素早くスムースに切り替えていけるのです。
舞台を区切って使うためにアクティングエリアは減ってしまいますが、数多くの様々なシーンを展開していけるので、大劇場での舞台演出として定番とも言える手法です。
では、今作での盆の使い方の何が特殊なのか。それは「舞台を仕切る壁がない」コトです。盆を使ったシーンチェンジの最大の利点は「見えない裏側でセットチェンジをする」コトですから、そのためには視界を遮る壁が必要になります。当然と言えば当然です。しかし! その壁がない。つまり、転換が見えちゃうってコトですよ!
今作では壁がない替わりに四つの巨大なワゴンがあり、これらのワゴンを組みあわせるコトによって様々な形を作り出します。それぞれのワゴンは二階建て分の高さがありますから、横一列に組みあわせれば舞台を仕切ることもできて、通常の盆のように裏側でのセットチェンジもできますが、それがメインの使い方ではありません。
このシステムの最大の利点は、これらの四つのワゴンで舞台を仕切ったり仕切らなかったりするコトで、舞台面を狭く区切ったり広く使ったりと自在に変化させられるコトなのです。ワゴンを端にズラしたり舞台ソデに仕舞ったりすれば奥行きの広い舞台として使えるのです。
しかも、ワゴンにはパネルを掛けたり、障子や襖をはめたり、ロールカーテンを下ろしたりすることで、様々な飾りを施すことができます。例えば、ワゴンの表と裏で別の飾りを施しておけばワゴン単体を回転させる(あるいはワゴンを載せたまま盆を回転させる)だけで別のシーンにもなります。しかも、四つのワゴンを有機的に組みあわせれば、更に複雑で多種多様な変化をさせるコトができ、まさに千変万化なシーンを生み出すことができるのです。
いかがでしょうか。まるで生き物のように様々に変化する今作での舞台美術は、作中での生命力に溢れた登場人物たちを象徴するようではありませんか。実に素晴らしい! 美術デザインは池田ともゆきさんです。
ええと、ここまで褒めておいてなんですが、このシステムにもちょっと弱点があります。それは「巨大で重いワゴンを動かすには人力に頼らざるを得ない」のです!
二階部分に人が乗っても大丈夫なように、ワゴンは頑丈な金属でできております。つまり、重いんです。非常に重たいんです。それが故に頑丈なのですが、そんなワゴンを舞台上で回転させたり移動させたりするためには大勢の力が必要なのです。舞台上にはたくさんの俳優部が出演しておりますが、みんな歌ったり踊ったりで忙しい。つまり、ワゴンはスタッフさんが動かさなくてはならないのです。
あるシーンが終わって次のシーンへと転換する時、ド派手な音楽が流れる中、大勢のスタッフさんたちがワゴン裏から飛び出してきます。そして俳優部が歌い踊る中、大勢のスタッフさんたちがワゴンを動かしたり回転させたりします。するとどうでしょう! あれよあれよという間に次のシーンに変わっているのですよ!
つまり、今作では「見せる場面転換」をしておりまして、これを業界用語で「見せ転」と言いまして、これが今回ご紹介したい専門用語です。ああ、やっと出てきましたね。
通常の場面転換はお客様に見せずに行います。盆の裏側や幕の奥で行ったり、暗転している間に行ったりして、見えないようにセットチェンジされているのが普通です。しかし、見せ転を行う時にはお客様の見ている前でセットチェンジを行います。つまり場面転換も演出の一つとして見せてしまうのです。
小劇場演劇などでは、俳優がセットや小道具を持って登場し、セットチェンジしてそのまま次のシーンに移っていくという演出も多用されます。これも見せ転の一種です。音楽に乗ってスタイリッシュに見せ転する場合もありますね。しかし、大劇場演劇ではあまり使われません。使われませんが、「神州無頼街」ではかなり大胆に見せ転をしております。
大道具スタッフさんが大勢舞台に登場しますので、みんな時代劇風の半纏を纏っています。黒ずくめのスタッフ服の上に柄物の半纏を纏い、出演者たちに紛れて転換をしているのです。よく見てみると、みんな黒マスクをしていますし、中にはメガネを着用している人もいます。でも良いんです。無頼街の住人に混じって大道具スタッフさんたちも出演しているのです。それが無頼街の流儀なのです。
これから本番をご覧頂きます皆様、ぜひ大道具スタッフさんたちの活躍を確認してみて下さい。そして心の中で応援して頂ければ幸いです。だって、ホントに重いんですってば、ワゴンが。
東京建物 Brillia HALLとHareza Towerの間の連絡通路の影がステンドグラスみたいで綺麗でしたよ。
【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み
【出演予定】
劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎『神州無頼街』
4/26~5/28◎東京建物Brillia HALL
◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ6月号」は5/9全国書店にて発売!
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
Tweet