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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第128回「演出家による稽古の違い」

現在、私は今年3~5月に上演される劇団☆新感線「神州無頼街」の稽古中です。刻々と変化する社会情勢でして、本当に舞台が上演できるかどうかは判りませんが、我々はガシガシと稽古中ですよ。

さて、去る1/9に「蟹工船稽古初日」という作品に出演致しました。この企画は、小林多喜二の小説「蟹工船」の舞台版を作る、その稽古初日を覗き見るというテイの作品でした。台本には「蟹工船」のいくつかのシーンが戯曲化されて書かれており、それをその場で立ち稽古していくのです。
稽古ですからぶっつけ本番です。本番ってのも変か。なにしろ稽古なんですからね。演出家である腹筋善之介さんから指導を受けながら、俳優四人でなんとか作り上げていきます。その場で戯曲を読み解き、その場で演出家の意図を読み取り、その場で短いシーンを作ってみます。そういう企画なんです。
やる方も初めての企画ですから全てが手探りでしたが、どうやらお客様には楽しんで頂けたようです。実験的な企画でしたが、たまにはこういう舞台も面白いですよね。あくまでも《出し物》ですから本当の稽古風景ではありませんが、演劇の稽古場の雰囲気を味わって頂けたと思います。

私もこれまで数多くの演劇作品に出てきました。数多くの演出家の方に稽古を付けて頂きました。その手法は千差万別であり、様々な体験をしてきました。演出家によって稽古の進め方が本当に違うのですよ。良い悪いではなく、それぞれが長年掛けて培ってきた手法が違うので、演出を受けていてもとても面白いのです。
今回は、そんな演出家による手法の違いを例を挙げてご説明したいと思います。

まず、私の所属する劇団☆新感線の演出家である、いのうえひでのりさんの演出法をザックリとご説明しておきましょう。
稽古はかなり細分化されております。3時間ほどで、あるシーンの一部(10ページほど)を作るとします。まずは2ページ分ほどの動きを指定します。ここから出てきて、ここでセリフ、こっちに移動してこのセリフ。何度か繰り返してザックリと固まったらここで15分程の休憩になります。俳優部はここまでの動きを確認したり、次のセリフを確認したり、まあ、普通に休憩したりしますが、いのうえさんは休みません。続きのシーンを一人で作ります。台本を片手に、実際に動きながらシミュレーションします。私はこれを「いのうえ一人旅」と呼んでおります。
イメージがある程度固まったら稽古再開です。いのうえさんの指示で移動しながらシーンを作っていきます。細かいニュアンスも作りながら2ページ分ほど進みますと、ここでまた休憩になります。そしてまた、いのうえさんの一人旅が始まるのです。
ある程度進んだら、今まで作ったシーンを頭から通してみて、修整を加えながら何度か繰り返して、そのシーンは終わりになります。そして次のシーンに移るワケです。
いのうえさんの演出では、かなり細かく動きを指定してくるというのは有名な話ですが、私などはこれで育っておりますのでこれが普通なんです。

大抵の演出家の場合、あるシーンを作るとすると、まずは動きを指定せずに俳優部に自由にやらせます。我々が色々と試しながら繰り返す内に徐々に動きが固まってくると、演出家から「ここをこうしてみよう」という提案が出て、更にビルド&スクラップを行います。
全ての演出家がこういった手法というワケではありませんが、比較的このタイプが多いと思います。俳優部が自由にアイデアを出しながら演じるモノを、演出家が整えたり広げたりぶち壊したり焚き付けたり。
とはいえ、それぞれの演出家にはそれぞれの特徴もあるのです。

ある演出家は《本読み》を重視します。稽古序盤の五日間ほどは立ち稽古をせずに、本読みを繰り返します。俳優部とディスカッションしたり読み方を指定したりしながら、何度も本読みを行います。本読みを繰り返すことで全体像が把握でき、物語を客観的に眺められるようになるのです。

ある演出家は《ワークショップ》を重視します。登場人物のキャラクターを掘り下げるために、存在しないシーンを即興的に作ってみるエチュードを行ってみたり、もしも円形の舞台だったらどのように作ったら良いかなどのトライを行ったりします。そんなシーンはないけど。毎日の稽古の最初に簡単なゲームをしながらウォームアップをする場合もあります。

ある演出家は《通し稽古》を重視します。各シーンを細かく詰めずにドンドン先に進めて早めに全シーンを当たり、どんどん繋げるシーンを増やしていって、割と早めに通し稽古に入ります。通し稽古といってもまだ固まってはいないので、様々なトライをしながら徐々に固めていきます。

ある演出家は《ディスカッション》を重視します。この登場人物はなぜこのような行動を取ったのか、なぜこのようなセリフを言ったのか。演出家と出演者たちがディスカッションしながらそれぞれの、そしてお互いの認識を確認していきます。こうすることによって作品の方向性が定まります。

他にも、台本が中々上がらないから仕方なく肉体訓練ばかり繰り返しているとか、稽古もせずにメンバーで麻雀ばかりしているとか、稽古が行き詰まると早めに切り上げて稽古場での飲み会に突入するとか(もちろん昔の話ですよ)。

ここに上げたのはあくまでも一部ですし、毎回同じ演出手法を採っているワケでもありません。ですがまあこのように、演出家によってその手法は様々であり、だからこそ面白くもあるのです。
演劇というのは作家と演出家だけが作っているワケでは無く、各スタッフや各出演者が色々と意見を出し合いながら作っているのです。そんなことを想像しながらご覧頂くと、さらにお楽しみ頂けるのではないかと思います。
さあ、3~5月は無事に公演が行えるのでしょうか。気をつけて頑張りますので、どうぞご期待下さいませ。

先日訪れた隅田川の永代橋の橋梁。どう、この力強いアーチ!

 

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

 

【出演予定】

劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎『神州無頼街』
3/17~29◎オリックス劇場
4/9~12◎富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
4/26~5/28◎東京建物Brillia HALL

 

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