【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第126回「火入れ」
無事に終わりましたよ! もちろん劇団☆新感線「狐晴明九尾狩」がですよ。無事に全ステージを終えることができました。劇団公演としては二年振りの完走です。お客様も含めて様々な方々のご協力の賜物だと思っております。ありがとうございました。
でね、その「狐晴明九尾狩」については自分のBlogでも色々と書いていたのですが、その中に「舞台セットの柱が色んな色に光る」というのがありました。見た目は木で出来たような茶色の柱なのに、あるシーンになると色鮮やかに光るのです。しかも色んな色に。
じつは、この柱の表面は薄い布でできていて、その中にLEDライトが仕込んであるのです。充分な輝度があれば表面の色を打ち消して七色に光らせることができるのです。
このように、舞台セットの一部が光るようにする機構のことを「火入れ」と言います。これが今回ご紹介したい用語なのですが、もちろん実際に「火」を入れるワケではありません。照明器具を入れて光らせるのではありますが、それを称して「火入れ」と言うのです。
判りやすい例で言いますと、屋外のセットで街灯がある時とか、室内のセットで電灯がある場合などです。暗めの照明の中で、ボウッと点る灯りなんてのは印象的ですからね。登場人物の心象を表したりするコトもできるのです。
この火入れというのが中々に厄介なのですよ。照明器具ですから電源ケーブルが必要になります。そのためにはセットや小道具に穴を開けて電源ケーブルを通し、お客様には見えない部分を引き回し、しかもそれを制御できる機器まで繋げなくてはなりません。
「一杯飾り」と呼ばれる、ほとんど動きのない作り付けのセットの場合ならば比較的簡単です。一度配線してしまえば動かす必要がありませんからね。例えば、海外戯曲の翻訳ものなどでは作り込まれた一杯飾りのセットであるコトが多く、セットの仕込みの時に火入れの配線をしてしまえば室内の照明器具などを自由に光らせることができます。
昨年の「オリエント急行殺人事件」では急行列車のセットだけの一杯飾りでしたから、壁面の照明に火入れがされていて光っておりましたよね。もちろん、セットの裏面にはたくさんのケーブルが引き回されておりました。
しかし、パネルやワゴンなどの可動するセットに火入れする場合、そこから舞台ソデまでのケーブルを余裕を持って用意する必要がありますし、それを介錯するための人手も用意しなくてはなりません。これが大変なの。
こんがらがったり絡んだりしてはいけないのはもちろんなのですが、そのシーンだけ舞台上をケーブルが横切ることになり、我々俳優部も引っかかったりしないように注意しなくてはならないのです。
しかし、最近ではLEDライトが進化して、小さくても明るかったり、自由に調光できたり色を変えたりできるようになってきました。無線で制御できるモノもありますので、小型バッテリーと組みあわせればかなりの自由度を確保できるようになるでしょう。
いま急に思い出しましたが、2019年に上演された「BURAI2」という作品では終盤に長いiPhoneで闘うシーンがありました。長いiPhone? 何を言っているのか判らないかもしれませんが、そういうシーンなんです。長さが1mくらいある長~いiPhoneを使って立ち回りをするシーンがあったんです。ちゃんと説明してもよく判りませんが、まあとにかく、その長~いiPhoneにもLEDライトとバッテリーが内蔵されており、手元のスイッチを操作すると光らせることができたのですよ。スゴイよね。まあ、重かったけどさ。
ことほど左様にセットや小道具を光らせることができる火入れにはたくさんの苦労があり、その替わりに多大なる演出効果があるのだと言うコトがお判り頂けましたでしょうか。
今後、観劇に行かれた時にセットや小道具が光ったら、ああ火入れしているんだな、そのためには中々の苦労をしているんだな、と思って下さい。いや、思う必要はありません。それは裏の事情です。
皆様におかれましては、それも含めて様々な演出効果をお楽しみ頂けますれば幸いです。
先日、久しぶりに下北沢に行ったら、小田急の線路跡がオシャレなショッピングモールになっていました。「reload」っていうんですって。
【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み
【出演予定】
劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎『神州無頼街』
3/17~29◎オリックス劇場
4/9~12◎富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
4/26~5/28◎東京建物Brillia HALL
◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ2月号」は、1/8より全国書店にて発売!
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
Tweet