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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第123回「スケッチ」

劇団☆新感線「狐晴明九尾狩」の開幕まであと半月。稽古もラストスパートです。前回の「月影花之丞大逆転」では出演者を絞り、セットも比較的簡略化されておりました。充分ハデでしたけど、あれでも少なめだったんですよ。ネタモノ準拠でしたので、書き割りを多用してシンプルに構成されておりました。
しかし、今回はフルスペック新感線と言うことで登場人物も多いしセットも豪華です。稽古場には仮の大道具が組まれておりますが、仮でも充分大きいんですよ。どのようなセットなのかは劇場で、もしくはライブビューイングでご確認下さいませ。

さて、そんなワケでね。新感線の公演ではそのような大きなセットがシーンによって組み替えられますので、どうしてもシーン転換時に時間が掛かってしまいます。そこで、パネルや紗幕によって舞台を前後に区切って使ったり、あるいは回り舞台を利用するコトによってできる限りスムースに転換ができるように工夫されております。
今書いた「書き割り」とか「紗幕(色んな幕たち)」とか「回り舞台(盆)」とかも、こちらの連載で既に解説しておりますので、バックナンバーを探して頂ければと思います。

しかし、パネルで仕切ろうが回り舞台を使用しようが、シーン転換にはある程度の時間が掛かるのは仕方がありません。まあ物理的に大きなモノを動かしておりますからね。妖術でも使わなければ瞬時には転換できません。
そういう場合に新感線でよく使われる手法が「スケッチ」なのです。一言で言えば「短いシーン」となるでしょうか。
皆さんがご存じのスケッチというのは、画家さんがスケッチブックに鉛筆などでサラサラと描いた、簡略化されたドローイングのコトではないでしょうか。「素描(そびょう)」とも言われ、本腰を入れて描いたものではなく、簡潔に要点を描いたモノが多いようです。舞台や映像の世界でも似たような意味合いで使います。

映画やドラマでのスケッチとは、短めの断片的なシーンのことを言います。イギリスが生んだ偉大なるコメディ「モンティ・パイソンの空飛ぶサーカス」では、それぞれのシーン(この場合はワンシチュエーションのコント)のことをスケッチと呼んでおり、それらを有機的に繋げていくことで一つの作品に仕上げています。
CMにもありますよね。少し前のアサヒスーパードライのCMで、中村倫也さんと菅田将暉さんが協力し合ったりいがみ合ったりしながら何かのプロジェクトを成功へと導くヤツ。ハッキリとしたセリフも無く、1~2秒ほどの短いシーンを繋げてストーリーを組み上げていく。ああいうのもスケッチの一種です。

演劇の場合も同様です。時間経過を表すような短いシーンのことをスケッチと呼びます。起承転結の「承と転のあいだ」などに挟まれたりします。例えばこんなカンジ。
主人公が何かを思いついたとします。これが起。で、仲間を集めたりするトコロが承。ここでスケッチが入ります。
軽快な音楽が鳴る中、短いシーンで会議や討論やケンカや仲直りが示され、何か一つの目処が立ったところで曲がいい感じに盛り上がって終わります。ここまでが2~3分のスケッチ。
その後が転。相棒が「ちょっと問題が起きた」とか言ってプロジェクトが暗礁に乗り上げたりして、そのあとにはなんやかんやあって、なんだかんだで成功して結となるんでしょう。
もちろんあくまでも一例ですが、演劇に於けるスケッチというのはそういうような使われ方をするんだよって話です。

と、ここまで映像や舞台でのスケッチについて詳しくお話ししてきたところで恐縮なんですが、劇団☆新感線に於けるスケッチというのは、基本的に時間稼ぎです。ええ、そうなんです。
冒頭でも書きましたように、舞台転換に時間が掛かるのですよ。その時間を埋めるために、舞台前面や客席で、ならず者たちが村人を追い回したり、武者たちが闘ったりする短いスケッチを挟むのです。
もちろん、それによって時間経過や状況説明も成されるワケですから、スケッチの正しい使い方でもあるんですよ。他にもスクリーンに映像を映したりね。あの手この手でスムースなシーンチェンジを実現しているのです。

さて、「狐晴明」ではどのようなスケッチが見られるのでしょうか。知りたいかもしれませんが、知りたくないかもしれませんが、いやむしろ興味が無いかもしれませんが、まあそう言わずに聞いて下さいよ。
今作ではスケッチシーンは少ないです。少ないのですが、いつもよりも洗練されたというか、何やら動的な面白いスケッチをご用意しております。しかも転換の時間稼ぎというよりも、ちゃんとストーリーに取り込まれたスケッチです。どうぞお楽しみに!
ああ、ホラまたそう書いちゃうといつものスケッチがストーリーと関係ない様に聞こえちゃうかもしれませんが、そんなことはありませんよ。必要なんですよ!
と、言い訳のような言葉を書いて本稿を終えたいと思います。スーパードライのCMにも出演していた中村倫也さんが主役の陰陽師アクションアドベンチャー。どうぞお楽しみに!

本文とは関係ありませんが、斬新なデザインすぎていつ頃建てられたのか想像もつかない西新宿の産婦人科。

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

 

【出演予定】
劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』
9/17~10/17◎TBS赤坂ACTシアター
10/27~11/11◎オリックス劇場

 

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