お芝居観るならまずはココ!雑誌『えんぶ』の情報サイト。

【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第122回「オフ芝居」

一年半ぶりのフルスペック新感線である『狐晴明九尾狩』の稽古も始まりまして、久しぶりの物量に驚いております。そうそう、こんなカンジでした。思い出しました。色んな要素がてんこ盛り。芝居もアクションもダンスも歌もたくさんありますよ。まあ、私は大人しくしていますけどね。

今作では平安京を舞台に、中村倫也さん演じる安倍晴明と向井理さん演じる九尾の狐が頭脳戦を繰り広げます。フルスペック新感線ならではの壮麗な宮廷シーンや賑やかな平安京の喧噪などの群衆シーンもたくさんあります。
群衆シーンにはもちろん大人数の登場人物が必要になります。となれば、アンサンブルチームやアクションチームに加えて、劇団員たち(時にはゲストまで)も当然のように駆り出されるんですよ。こういう《本役ではない役としての群衆シーンでの出番》を新感線ではバイトと呼んでおります。今回の私は割とチョコチョコと出番があるのでバイトはありませんが、それはそれはよくやらされていましたね。

群衆シーンで《その他大勢》を演じる場合、必要となるのが「オフ芝居」でして、今回ご紹介したい用語もこの「オフ芝居」なんです。「オンの芝居」とは、それすなわち台本に台詞の書いてある「ストーリーを運ぶための芝居」です。で、舞台上に登場はしているけれども特に決められたセリフは無く、そこに居る必然性を得るために各自で行う演技をオフ芝居と呼ぶのです。

オフ芝居の範囲はとても広くて、広義で言えば「舞台上に居てセリフがなければ全てオフ芝居」とも言えます。まあ、あんまりそうは言いませんが。例えば、ある登場人物のセリフに対して、それぞれのキャラクターとして反応する。睨んだり、驚いたり、無視したり、顔を見合わせたりする。これらも「広義のオフ芝居」ですね。
ですが、一般にオフ芝居と言えば「ストーリーと関係なくその場に居る人間として振る舞う」コトです。判りやすい例が映画やドラマでのエキストラさんの演技です。
通行人や喫茶店の客、会社の同僚などなど、風景としての人々ですね。それぞれがそれっぽく歩いていたり談笑していたり仕事していたりする演技。あれがオフ芝居です。不自然でもいけないし、目立ってもいけない。これはこれで中々に難しいものなのです。

舞台でも同様です。大人数の群衆シーンでも、それぞれのキャラクターとしてそこに居なくてはならないのです。演出家に動きを指定されるコトもあれば、自分たちで勝手に決めて段取りを付ける場合もあります。
昨年末の「オリエンタル急行殺人事件」では、終盤の30分にも及ぶ謎解きシーンで全出演者が舞台上に居ました。名探偵ポアロの謎解きに対して、残り9人の登場人物たちはそれぞれに怒ったり泣いたり目配せしたりいたわり合ったり、何度も稽古しながらお互いの関係性を確立していったのです。

オフ芝居の重要性がお判り頂けましたでしょうか。《そのキャラクターとして、そこに居る》コトが大事なのです。そのキャラクターとして《生きる》ことで物語を紡ぐ要素として存在することができるのです。難しいけど楽しい瞬間です。

とか演劇人としてそれっぽいことを書きましたが、最後にちょっと珍しいオフ芝居の例も挙げておきましょう。
今年の6月に上演されましたNAPPOS PRODUCE「りぼん,うまれかわる」では舞台ソデというものがなく、舞台中央でストーリーが進行する間も、舞台の両側に他の出演者たちが待機していました。つまり、常にお客さんから見えている状態です。
となればオフ芝居をしなければなりません。基本的には真ん中で進行するシーンを見つめるだけです。しかし、時には風景としてのその場の人々を演じたり、小道具を渡したり、出演者と一緒になって騒いだりと徐々に中央のシーンに干渉し始め、その境界が曖昧になっていきます。そして全体としてのグルーヴを生み出していたのです。
稽古中にドンドンとみんなのアイデアを試していき、それを演出の山崎彬さんが整えて、最終的にはなんだか魅力的な空間が出来上がっていました。これもまた特殊なオフ芝居の例だなと思います。ちょっと特殊すぎるけど。

さて、『狐晴明九尾狩』はどんな舞台になるのでしょうか。それ以前にちゃんと上演できるのでしょうか。様々な不安を抱えながらも粛々と稽古は進んでおります。9~11月に皆さまのお目に掛かれるように、気をつけて稽古したいと思います。

本文とは関係ありませんが、六本木で見つけたIT関係の広告。最近、CM出演が目立つ荒川良々さんですが、IT社長には見えないのではないだろうか。どうだろうか。

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

 

【出演予定】
劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』
9/17~10/17◎TBS赤坂ACTシアター
10/27~11/11◎オリックス劇場

 

◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ8月号」は、全国書店にて発売中!

 

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

日刊☆えんぶラインアップ

  • みょんふぁの『気になるわぁ〜』
  • 小野寺ずるの【女の平和】
  • WEB【CLOSE to my HEART】Photographer スギノユキコ with えんぶ
  • 【粟根まことの】未確認飛行舞台:UFB
  • 【松永玲子の】今夜もネットショッピング
  • 【池谷のぶえ】人生相談の館
  • 【ノゾエ征爾】の桜の島の野添酒店
  • ふれあい動物電気
  • 【植本純米vs坂口真人】『過剰な人々』を巡るいささかな冒険

粟根まこと『未確認ヒコー舞台:UFB』の最新記事

【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第146回「手話のセリフ」
【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第145回「学校をリノベした稽古場」
【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第144回「再演に出演する心構え」
【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第143回「ワンフロア客席」
【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第142回「方言での演技」

INFORMATION演劇キック概要

LINKえんぶの運営サイト

LINK公演情報