【粟根まことの「未確認ヒコー舞台：UFB」】第116回「二階建て舞台」

2021/02/03 粟根まこと『未確認ヒコー舞台：UFB』 / 日刊☆えんぶコラム , 連載 , 粟根まこと

2021年最初の舞台は、悪い芝居「今日もしんでるあいしてる」です。京都出身の劇団である悪い芝居さんは、名前こそ不穏な空気が漂いますが「悪いけど芝居させてください。」の略だそうで、主宰で作・演出の山崎彬さんを筆頭に、熱い芝居心を持った人々の集まりです。
今作「今日もしんでるあいしてる」も、特殊なウイルスが終息した後の人々の生活を描く、熱くて不思議な愛の物語。2月14日から21日まで本多劇場ですよ。

さて、昨年12月に私が出演致しました「オリエント急行殺人事件」。そこで私が一人二役を演じたコトは前回書きました。今回はその舞台美術についてお話ししたいと思います。
アガサ・クリスティの名作ミステリーの舞台版である「オリエント急行殺人事件」は、タイトルの通りオリエント急行車内での殺人事件を扱っています。原作や映画版ではオリエント急行に乗る前の、タウルス急行や船のシーンがありますが、舞台版ではイスタンブール駅のホームで列車に乗り込んでしまえば（途中でヴィンコブチ駅ホームのシーンが一瞬ありますが）ずっと車内で展開します。

ご存じの通り、列車ってのは細長いモノです。豪華寝台列車であるオリエント急行には一等車、二等車、三等車に加え、食堂車と荷物車も繋がっております。映画ならいざ知らず、舞台でそれを再現するのはいくら何でも無理です。
ですので、登場人物も数を減らして、乗客10名、車掌1名の11名に絞っています。出演者が10人なのに11名の登場人物がいるのは私が一人二役をしているからですね。
描かれるのも寝台客車一両と食堂車だけに絞りました。それでもまだ舞台には入り切りません。

そこで取られた作戦が「二階建て舞台」です。文字通り舞台上部にもうワンフロアの舞台を作るコトですね。演劇において、二階建ての舞台が使われるコトは多々あります。階段を見えるように設置して実際の二階家のように使うコトもできますし、主舞台とは別空間としての使い道もできます。アクティングエリアが増えるので、演劇としてはとても助かるのです。
しかし、「オリエント～」ではいずれとも違う、ちょっと特殊な二階建て舞台の使い方をしています。それは「車両を折り曲げて二階建てにした」コト。食堂車を一階に置いて、上手側のドアを抜けると本来は連結部分ですがそこに階段があり、その階段を上がって二階に行くと寝台客車があります。折れ曲がってはおりますが、横にひと繋がりという設定です。その先（つまり二階の下手側）には三等客車がある設定です。
これならば細長い列車を舞台にすることができます。いやあ、よく考えたなあと思います。空間はねじ曲がっておりますが、食堂車と客車が繋がっていることを表現できるし、どちらも同時に見せるコトができます。実際に、食堂車にいるポアロが客車の物音を聞く時には、舞台では上方で音がしているにもかかわらず上手側を観ます。だってその方向が客車だから。

新感線でもよく二階建て舞台が使われます。いのうえさんが好きなんですね。大抵の場合は舞台中央に大きな階段があって、その階段までもアクティングエリアとして使いながら、上と下でエリアを使い分けるという作戦です。客席の前方列って舞台よりも低くなっているので舞台の奥の方が見えにくかったりするのですが、二階建て舞台なら見やすくなります。
これがさらに進化すると、例えば「偽義経冥界歌」とか「Vamp Bamboo Burn～ヴァン！バン！バーン！～」ではなんと三階建て舞台でした。本舞台から階段があって平場があって、さらに階段があって平場があるという構造。いくら何でもやり過ぎだろうとか思うのですが、これによって立体的で動きのある見せ方ができるのです。

このように様々なメリットがある二階建て舞台。もちろん大人数が乗っても大丈夫なように大がかりなセットを組まなければなりませんので予算は掛かりますが、大変有効な作戦です。ただ、俳優部にとっては大きな難点がありまして、それは何度も何度も階段を登ったり降りたりしなくてはならないことだコラー！　足がパンパンになるんじゃコラー！