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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第115回「一人二役」

2021年。明けましておめでとうございます。なんだか大変だった昨年から、なんだか大変になるであろう今年へと変わりましたが、すでに緊急事態宣言も発令されそうな今日この頃。そんな中でも皆様が健康で楽しい日々が送れますよう祈っております。

さて、そんな大変な日々ではあっても、昨年もいくつもの舞台に立つことが出来たのは嬉しい限りです。配信でのご観劇となった皆様には新しい演劇の形を体験して頂けたと思っております。また、様々な注意と対策をお願いせざるを得ない中、劇場まで足をお運び頂きました皆様にも改めて感謝を申し上げます。

そんな中、昨年12月に上演されました「オリエント急行殺人事件」では2013年の「ショーシャンクの空に」以来7年振りに河原雅彦さんの演出を受け、名作ミステリーの舞台版という困難な作品をヒリヒリした緊張感とワクワクする挑戦心で上演することが出来ました。
前回のこの連載でも書きました通り、ミステリー作品を上演するのは中々に難しいのですが、主役であるエルキュール・ポアロを演じた椎名桔平さんの飄々とした魅力が全体を引っ張って面白い作品になっていたと思います。

私はイタリア系アメリカ人の貿易商であるサミュエル・ラチェットと、スコットランド軍人であるアーバスノット大佐の二役を演じました。物語の冒頭に、まずアーバスノット大佐としてオリエント急行に乗り込み、次々と登場人物たちが乗車していく間に早替えをして、ラチェットとして最後に乗車します。ラチェットはこの後、車内でポアロやアンドレニ伯爵夫人と会話をしたら出番が終わります。といいますのも、その後すぐにラチェットは殺されてしまうのですよ。だからもう出番は終わりなのです。
つまり、ラチェット役の俳優は一幕中盤で出番が終わってしまうのですよ。いや、それはそれで楽で良いのですが、おそらくそれではあんまりだということでアーバスノット大佐役との「一人二役」になったのではないかと思われます。

この一人二役という言葉が今回ご紹介したい専門用語です。もはや日常生活でも使われている言葉ですが、元々は演劇用語です。意味としてもそのままの、「一人の俳優が二つの役を演じるコト」でして、全くもってそのままです。
映画やドラマでは出番の少ない役なんてのはたくさんありますが、演劇の場合は少ない出番のために専用の俳優を用意するのは非効率であるため、結果的に一人二役、それどころか一人で何役も演じることが普通に行われます。
例えばミュージカルではメインキャスト(プリンシパル)の他に多数のアンサンブルがおり、衣裳やメイクを替えながら一人何役も演じ分けます。豪華絢爛な舞踏会や、敵味方入り乱れる戦場や、多くの人々が行き交う雑踏など、数多くのシーンを構成するために必要な人々なのですね。

新感線でも同様です。毎回20名ほどのアクション、ダンサーの皆さんにはとっかえひっかえ着替えながら多数の役を演じて頂きます。また、劇団員たちも同様ですね。オープニングには大抵派手なシーンが用意されておりますから、そこに出番がなければ別の役として駆り出されるコトも多いのです。私もよく駆り出されます。ていうか、一役で済むことの方が少ないですね。
自分のメインの役どころの前に出番があるのは大変ですが、身体も温まって緊張もほぐれますので、意外といいものなんですよ。ま、早替えは大変なんですけどね。

「オリエント~」でのラチェットとアーバスノットは、衣裳はもちろん髪型、ヒゲ、メガネなどの見た目も大きく違うので、それに加えて声や姿勢や仕草なども出来るだけ変えて演じました。俳優としてはなかなか楽しいんですよ、こういうのって。「メタルマクベス」でのナンプラーとパール王、「野獣郎見参」での西門と風鏡なんかも楽しかった記憶があります。
もっとも、「オリエント~」では犯人チームはみんな、犯人としての本当の人格と傍観者としての偽の人格を演じておりましたので、結果としてみんな一人二役を演じていたとも言えます。マルシアさんが見事に演じ分けたヘレン・ハバード/リンダ・アーデンを筆頭に、それぞれが二役演じていたのです。この辺りも演劇の面白さでありますね。

一人一役でも二役でもそれ以上でも、我々俳優にとって舞台で演じるコトができるのが一番の幸せなのです。しんどいんですけど、楽しいんです。今年、私は合計何役を演じるコトができるのでしょうか。事態が流動的すぎて現段階ではまだ判りませんが、一つ一つ丁寧に努めて参りたいと思います。皆様も、どうぞお健やかに。劇場でお待ちしております。

本文とは関係ありませんが、シアターコクーン近くのローソンがドラクエとコラボしていましたよ。

 

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

 

 

 

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